第十六話 生配信
八月十六日の朝、私は設定した目覚ましのアラームが鳴るより、少し早く目を覚ました。
民宿の別棟は静かだった。正確には、静かなように聞こえた。
耳を澄ませば、階下から古い冷蔵庫の低い振動が伝わり、どこかの部屋では空調が一定の間隔で唸っている。廊下の向こうから水道管を流れる水の音がし、庭では早く起きた誰かがサンダルを引きずって歩いていた。
宿泊者が増えた建物には、それだけ多くの生活音がある。
昨夜、民宿の外から聞こえたと思った音も、やはりその一つだったのかもしれない。
戸が閉まった。
食器が重なった。
誰かが壁へ荷物を当てた。
それだけのことを、山から聞こえたと思い込んだ。
私は布団の中から、閉じたままのカーテンを見る。隙間から、細い朝の光が入っている。
夜は終わっている。もう山を見てもよい。
そう考えてから、自分がいつの間にか、見てもよい時間と、見てはいけない時間を分けていることに気づいた。
紙に書かれていた言葉を信じたわけではない。守ろうとしているのでもない。
ただ、わざわざ確かめる必要がないだけだ。
昨夜と同じ言い訳を、朝になっても繰り返している。
スマートフォンの画面をつける。時刻は午前六時二十七分。
通知欄には、会社、潮見さん、佐伯さん、カナちゃんからのメッセージが並んでいた。
その下には、三影島に関する投稿への通知がいくつも表示されている。
私は先に、会社から送られた当日の予定を確認した。
◇
【八月十六日 現地対応予定(抜粋)】
午前七時三十分:
朝食。
午前八時十五分:
奉納用白布および祭具の保管状況確認。
午前九時三十分:
臨時便到着。
港受付、見学者案内。
午前十一時:
仮設撮影足場使用前確認。
午後二時:
祭礼役事前取材。
午後四時:
見学区域最終設営。
午後六時:
祭礼関係者集合。
午後七時三十分:
配信機材最終確認。
午後八時:
生配信および祭礼開始予定。
◇
一日の予定が、十五分、三十分単位で並んでいる。
白布。
港。
足場。
藤尾さん。
生配信。
それぞれは別の仕事だった。
しかし、画面の上では、すべてが午後八時へ向かって一直線につながっているように見えた。
私はSNSを開いた。
昨夜、山の音を収めたとされる二十六秒の動画は、再生回数が二十万回を超えていた。
元の投稿者は、鹿除けの音だと説明している。それでも、転載された動画の多くでは、その説明が外されていた。
◇
【SNS投稿抜粋】
@xxxxxx:今日が三影島の山嫁祭り本番。現地組は本当に気をつけてください。禁忌は破らないで。
@xxxxxx:朝からもう山で音がしてるらしいよ。さっき動画上がっていた。
@xxxxxx:それ、昨日の動画ですよね。鹿除けだって説明されてましたよ。
@xxxxxx:こん。
@xxxxxx:拍子木コメやめろってww
@xxxxxx:こん。
@xxxxxx:山の女様、今日婿が行きますよ。
@xxxxxx:名前呼ぶな。
@xxxxxx:こん。
@xxxxxx:これは絶対何か起きる。いや、起きてくれ。取り敢えず待機します!
◇
昨夜までは、動画の音をまねるための文字だった。
今は、祭りを待っていることを示す挨拶になっている。
意味のない二文字を書けば、同じ動画を見た者同士だと分かる。同じ話を知り、同じ場所を見て、同じ夜を待っている。
それだけで、見知らぬ人間同士が一つの集団になれる。悪気はない。
むしろ、多くの人は島の無事を願っている。
藤尾さんを心配し、規則を守るよう呼びかけ、悪質な来島者を批判している。
その一方で、心のどこかでは何かを待っている。
白いものが映る。
説明のつかない音がする。
藤尾さんが立ち止まる。
祭りが予定とは違う方向へ動く。
何も起きてほしくないと書きながら、何も起きなければ、少しだけ残念に思う。
それは、悪意とは違う。
人は危険から逃げようとする一方で、安全な場所から危険を覗きたがる。
怖い話を聞くために夜更かしをする。
身体が拒むような高い場所へ登り、暗い洞窟へ入り、崖の縁から下を見る。
危険を避けることが正しいのなら、自分から恐怖へ近づく行為は、理性的には矛盾している。
それでも、心臓が速く動き、呼吸が浅くなり、身体の内側へ強い感覚が生まれることを、人は楽しむことができる。
平穏な生活の中で眠りかけた何かを、わざと揺さぶる。
生き延びるために備わったはずの機能を、今は娯楽として使っているのかもしれない。
三影島の祭りも、今や画面の向こうにいる人々にとって、心の平穏を揺らすための一つのコンテンツになっている。
怖がり、疑い、心配し、誰かを止めながら、同じ画面の前に集まる。
手軽に参加し、興奮を共有するという意味では、それもまた祭りなのだろう。
自分は島にいない。
二の鳥居へ近づく必要もない。
白布へ触れることもない。
事故が起きても、怪異が現れても、画面を閉じれば日常へ戻れる。
だから、
――何かが起きればいい。
という期待を、悪意だと自覚せずに持つことができる。
私は画面を閉じようとして、別の投稿へ目を止めた。
◇
【SNS投稿】
昨日、○○港でレイジさんと合流していた女性。
今日も現地対応しているらしいです。
町の人ではなく、東京の制作会社関係者との情報あり。
【返信】
> 観光サイトを作った人?
> まだ確定してない。
> おい、顔も名前も出すなよ。一般人だぞ。
> でも関係者なら、黒川さんの件を載せなかった理由を説明する責任はあるのでは?
> だから個人へ行くなって。
> 名前は出ていない。顔もはっきりとは写っていない。
それでも、昨日まで存在しなかった役割が作られていた。
サイト担当の女。
黒川の件を載せなかった人間。
説明する責任のある者。
私が名乗るより先に、画面の中で私の立場が決められ始めている。
私はSNSの画面を閉じ、カーテンを開けた。朝の光が一度に部屋へ入る。
民宿の屋根。
風に揺れる白いシーツ。
その向こうに、濃い緑色の山が見えた。
何も変わったところはない。白いものもいない。
山は、昨日より少し明るく見えるだけだった。
◇
午前八時十五分。
前日に予定されていた奉納用白布の確認は、保存会側の準備が間に合わなかったため、祭礼当日の朝へ持ち越されていた。
場所は、支所から少し離れた集会所だった。
レイジ、遠山さん、佐伯さん、私のほか、潮見さん、浜谷さん、保存会員二名が立ち会う。
集会所の中には、折り畳まれた長机や座布団、古い祭礼用品が並んでいた。雨戸を開けても室内は薄暗く、畳と防虫剤、長く閉ざされていた木箱の匂いが混ざっている。
壁際には、町が前日公開した写真と同じ木箱が置かれていた。
黒ずんだ木。
角を補強する金具。
蓋には、小さな紙札が貼られている。
◇
【山神婚礼祭 供物用白布】
保管数:
三枚。
祭礼使用予定:
一枚。
予備:
二枚。
◇
「開けます。」
浜谷さんが言った。保存会員の一人が木箱の前へ座り、金具を外す。
蓋が開く。
白布は、薄い紙に包まれ、箱の中へ重ねて収められていた。写真で見た時よりも、白くない。
真新しい純白ではなく、生成りに近い色をしている。
何度も折り畳まれてきたため、深い折り目が残り、端には細かな皺が寄っていた。
山の女様の衣。そう聞かなければ、古い手芸用品にしか見えない。
「触らずに撮影します。」
遠山さんが確認する。
「お願いします。」
木箱の正面。
斜め上。
紙を少し開き、白布の端と縫い目が見える角度。静止画が数枚撮影される。
レイジは白布を覗き込んだが、手を近づけなかった。
「前日に町から公開されたものと、同じ布ですか?」
「そうです。」
浜谷さんが答える。
「祭礼ごとに新しい物を使うんですか?」
「いや。昔は反物を毎年供えよったらしいですが、今はこの布を使います。汚れたり傷んだりしたら替えますけど。」
「奉納後は、また持ち帰る?」
「神事が終わった後、保存会で回収します。」
「山へ残してくるわけではないんですね。」
「今は、そうですね。」
今は。レイジは、その言葉を聞いても追及しなかった。
「少なくとも、現在こちらに保管されている白布について、勝手に移動した、なくなった、増えたといった事実は確認されていない、と。」
佐伯さんが記録用の音声へ向けて言う。
「そういうことです。」
浜谷さんが答えた。何も起きていない。
木箱には三枚の布があり、帳簿の数と合っている。
白い女の動画とも、藤尾さんの倉庫動画とも関係がない。
確認できたのは、それだけだった。
保存会員が紙を戻し、木箱の蓋を閉じる。
金具が下ろされる。
その直後、集会所の外から乾いた音がした。
こん。
私は窓の方を見る。
庭には、青年会員が一人、案内板を運んでいた。
板の角が軽トラックの荷台へ当たったのかもしれない。
誰も反応しない。
私も、何も言わなかった。
◇
午前九時三十六分。臨時便が港へ入った。
小型の連絡船が岸壁へ寄ると、デッキに立つ人々が一斉に島へスマートフォンを向けた。
船尾の車両甲板には、乗用車二台と軽ワゴン、バイク数台が載っている。
船が完全に接岸する前から、降りてくる人の顔が見えた。
帰省客。
家族連れ。
カメラを胸へ提げた中年男性。
同じデザインの黒いTシャツを着た若者三人。
小型の三脚を二本持つ女性。
大きな旅行鞄を引く老夫婦。
祭りを見るために来た者と、盆休みの最後に島へ戻ってきた者が、狭い乗船口から同じように降りてくる。
港の受付では、潮見さんと役場職員、青年会員が列を分けていた。
「祭礼見学の方は、青いシールを確認します。」
「宿泊予約のない方は、通常最終便までに本土側へお戻りください。」
「夜間の祭礼見学は、宿泊先を確保している方に限ります。」
案内を聞いた若い男性が、受付机の前で立ち止まった。
「祭りは夜ですよね。最終便で帰ったら見られないんですか?」
「申し訳ありません。島内での野宿や路上滞在は認めていません。」
「でも宿が取れないんですよ。」
「宿泊施設の定員を超えて受け入れることはできません。」
「港に朝までいるだけでも駄目なんですか?」
「安全上、お断りしています。」
役場職員は同じ説明を繰り返す。
正しい。
人の少ない島で、宿泊場所のない者を夜間まで滞在させることはできない。
事故、体調不良、私有地への侵入、帰りの船。考えるべきことはいくつもある。
それでも、見に来た者には、島側が何かを隠すために人数を制限しているように映る。
「見せたくないなら、最初から観光サイトなんか作らなきゃいいのに。」
男性は、小さく言って列を離れた。
近くでスマートフォンを構えていた者が、その言葉まで録音していた。
◇
【現地動画投稿】
三影島、宿泊予約がない人は夜の祭りを見られないそうです。
町側は、祭礼見学者をかなり制限しています。
【返信】
> 島が小さいから当然でしょう。
> 観光客を呼んでおいて受け入れできないって本気でおかしくない?
> 宿もないのに野宿させる方が問題ですよ。安全管理上仕方ないです。
> 実は、夜に残られると困る理由が、宿以外にもあるのでは。祭りの夜には外に出たら何かが…とか。
◇
理由は説明されている。
それでも、説明されていない理由を探す人間がいる。
レイジが港へ姿を見せると、受付とは別の場所にも人が集まり始めた。
「レイジさん。」
「今日の配信、絶対見ます!」
「昨日の音、聞きましたか?」
「白布、もう確認したんですか?」
レイジは足を止める。
「白布については、保存会立会いのもとで保管状況を確認しました。異常は確認されませんでしたよ。」
「動画にしますか?」
「はい、生配信の中で、確認できた内容だけをお伝えします。」
「夜、白い女が出ると思いますか?」
「現時点では何とも言えませんね……一緒に見守りましょう。」
答えは慎重だった。
それでも、質問した側は、
『現時点では。』
という部分を聞き取っているように見えた。
私がレイジたちの少し後ろを通ると、別の場所から声が上がった。
「あの人、昨日のサイトの人ですよね?」
振り向かなかった。
「観光サイト作った人?」
「東京の会社らしい。」
潮見さんが私の隣へ来る。
「聞こえてますか?」
「はい。」
「支所まで車を回します。」
「大丈夫です。歩けます。」
「そういう意味ではありません。」
潮見さんの声は低かった。
「港では、できるだけ一人にならないでください。」
カナちゃんと同じことを言われる。私は頷いた。
昨日までは、島へ来た外部の人間を島側が警戒していた。
今は、その外部の人間の一部から、私は見られる側になった。
自分がいつ、見る側から見られる側へ移ったのか、はっきりとは分からなかった。
◇
午前十一時。
仮設撮影足場の使用前確認が始まった。
昨夜から雨は降っていない。それでも、旧参道脇の土は乾ききっておらず、踏めば表面が僅かに沈んだ。
設置業者は、足場の四隅へ水平器を当て、敷板の位置と脚の沈み込みを確認する。単管パイプの接合部を一つずつ工具で締め、控えロープの張りを確かめていった。
昨日、一台だけだった大型投光器の隣には、同型の二台目が取り付けられている。
◇
【仮設撮影足場 使用前確認】
確認時刻:
八月十六日 午前十一時〇五分。
確認者:
設置業者二名。
三影町役場一名。
祭礼保存会一名。
青年会一名。
撮影関係者二名。
確認事項:
・作業床水平。
・単管接合部増し締め。
・敷板位置および沈み込み確認。
・控えロープ固定確認。
・手すり固定確認。
・大型LED投光器二台設置。
・追加機材を含む総重量確認。
・足場上使用人数三名まで。
・配線養生。
・見学者側立入防止柵設置。
判定:
使用可。
◇
「二台設置した状態での重量も問題ありません。」
作業員が言う。
「一台を強く当てるより、二台を左右から弱く当てた方が、影が少なくなります。参道の足元も見やすいです。」
「控えロープの位置が、昨日と変わっていますね。」
私が確認する。
「見学者の通路へ近かったので、固定先を少しずらしました。」
作業員は、足場の東側から伸びるロープを示した。
「昨日の位置だと、夜間に人が近づいた時、柵越しでも触れる可能性がありました。こちらへ張り直した方が安全です。」
「張力は?」
「確認済みです。」
変更には理由があった。
人が触れないようにする。
転倒を防ぐ。
見学者の通路を確保する。
照明を増やすのも、暗い石段を歩く者の安全のためだった。
私は記録へ、
二灯使用時の機材重量を再確認。
控えロープ固定位置変更後、張力確認。
設置業者より使用可能との回答。
と書き込んだ。
「照射試験を行います。」
発電機が動く。二台の投光器が同時に点灯した。
白い光が、左右から二の鳥居を照らす。
昨日、一台だけで照らした時より、鳥居の輪郭がはっきり見えた。片側だけに濃い影が落ちることもなく、石段の凹凸や濡れた部分まで分かる。
安全な光だった。同時に、見えすぎる光でもあった。
木の幹。
葉の裏。
鳥居の向こうへ続く石段。
昼間でも暗かった山の内側が、白い面として切り取られていく。
「少し奥へ入りすぎています。」
潮見さんが言った。
「もう少し手前に落とせませんか。」
「配信でも、鳥居の手前まで映れば十分です。」
遠山さんも同意する。作業員が一台ずつ角度を下げる。
光が地面へ落ち、鳥居の奥は再び暗くなる。試験用カメラの映像を確認するため、遠山さんが足場の上で一歩横へ動いた。
金属が小さく鳴る。
こん。
作業員がすぐに足場を見上げる。
「今の音は?」
「作業床と手すりの接続部だと思います。」
遠山さんが手すりへ軽く体重をかける。もう一度、僅かな音がした。
「締め直します。」
作業員は足場へ上り、接合部へ工具を当てる。確認し、締め、もう一度人を乗せる。
今度は鳴らない。
「問題ありません。」
投光器の角度を変える途中、白い光が一瞬だけ二の鳥居の奥へ流れた。
木々の間に、白い縦長のものが浮いたように見える。
私は目を凝らす。
すぐに、葉の裏へ光が反射しただけだと分かった。風が吹けば消える。
カメラにも、白い染みのようなものが一瞬入ったかもしれない。
「……今の、何かありました?」
足場の下にいた青年会員が尋ねる。
「光ではないですか。」
遠山さんが答えた。
「葉の反射だと思います。」
誰も写真を撮らない。
SNSへも出ない。
白いものは、白いものとして残らず、照明試験の中へ消えた。
◇
午後二時。藤尾俊介さんへの事前取材は、支所の小会議室で行われた。
藤尾さんは、祭礼用の衣装ではなく、加工場の名前が入った紺色の作業シャツを着ていた。
午前中まで準備に出ていたらしく、髪は汗で少し濡れている。
顔色は、特別悪くはない。
眠れていないのか、目の下に薄い影はあったが、ネット上で想像されているような、逃げることのできない被害者には見えなかった。
「撮影前に、いくつか確認させてください。」
レイジが言う。
「答えたくない質問には、答えていただかなくて構いません。途中で撮影を止めたい場合も、遠慮なくおっしゃってください。」
「はい。」
「祭礼や伝承を、確認なく怪異として扱う編集はしません。顔と氏名については、公開して問題ありませんか?」
藤尾さんは少し迷ってから、笑った。
「もう、隠しても仕方ないですからね。」
「仕方ないから、ではなく、ご本人が了承されるかどうかで決めます。」
レイジの声は穏やかだった。
藤尾さんは、今度は少し長く考えた。
「顔も名前も、そのままで大丈夫です。」
「ご家族や職場については?」
「家族は出さないでください。職場は、もう出てますけど。」
「こちらからは、必要のない範囲で触れません。」
「お願いします。」
カメラが回る。
レイジは、画面の中と変わらない調子で藤尾さんへ質問した。
「今年の祭礼役を引き受けられた経緯を教えてください。」
「青年会と保存会で相談して、頼まれました。対象になる人も少ないので。」
「強制ではない?」
「断ろうと思えば、断れます。」
「断りづらさはありませんでしたか?」
藤尾さんは少し笑った。
「町内会の役を頼まれるのと同じくらいには、断りづらいですよ。でも、嫌なら断ります。」
レイジも僅かに笑う。
「今回、二度目だと伺いました。」
「はい。七年前にも一度やっています。」
前日の打ち合わせでも確認していた内容だった。しかし、これはネットへはまだ公開されていない事実だった。
今、初めて藤尾さん本人の口から、カメラへ向けて語られた。
「前回、何か変わったことはありましたか?」
「特には。」
「怖くはなかったですか?」
「暗いですし、足元は怖いですよ。でも、神職さんも保存会の人もいますから。」
「山の女様を見た、声を聞いたということは?」
「ないです。」
「祭礼が終わった後は?」
「直会で飲んで、次の日は普通に仕事へ行きました。」
藤尾さんは、当たり前のことを話している。
七年前に山へ上り、戻り、酒を飲み、仕事へ行った。
何も起きなかった。
「今年も同じように終わると思いますか?」
「そう思っています。」
「今、インターネット上でご自身について多くの情報が広がっています。それについては、どう感じていますか?」
藤尾さんは、少し困ったように笑った。
「一体、皆、何を助けるつもりなんだろうな、と思います。」
以前、画面越しに聞いた言葉だった。
「俺、ネットだと、かなり可哀そうなことになってるらしいですね。」
「ご本人としては、助けを求めているわけではない?」
「はい。」
「祭礼を中止してほしいとも思っていない?」
「思っていません。普通に終わらせたいです。」
「見ている方へ、伝えたいことはありますか?」
藤尾さんは、カメラの方を見た。少し緊張している。
それでも、視線を逸らさなかった。
「島の人へ勝手にカメラを向けたり、神社の奥へ入ったりしないでください。それだけです。祭りは、普通に見てもらえれば。」
「普通に。」
「はい。何も起きないと思います。」
取材は、それで終わった。異常な言葉は一つもなかった。
山に呼ばれているとも、選ばれたとも言わない。七年前にも何もなく、今年も何もなく終わると思っている。
その映像の一部は、本人と町の確認を経たうえで、午後五時に短い予告として公開された。
◇
【レイジ怪奇録 現地予告動画】
タイトル:
今夜、三影島・山神婚礼祭を生配信します。
動画時間:
二分四十八秒。
◇
【藤尾俊介氏 発言抜粋】
「七年前にも一度やっています。」
「前回は、普通に上って、戻って、直会で飲んで終わりました。」
「今年も同じように終わると思っています。」
「何も起きないと思います。」
◇
投稿から五分後には、七年前という数字が切り取られ始めていた。
◇
【SNS投稿】
今年の婿役・藤尾俊介さん、七年前にも一度婿役を務めていたと本人が証言。
同じ男性が二度選ばれるのは、珍しいそうです。
【返信】
> 七年前にも山へ行って、今年もう一度呼ばれたということ?
> 呼ばれたんじゃなく、人数が少ないからですよ。こういうのって持ち回りでしょ?
> 一度返した婿を、七年後にまた迎えるの怖すぎるww
> 七年前は何もなかったんでしょう?
> 七年前は、まだ待っていたのでは。
> 本人が何も起きないと言っているの、フラグにしか聞こえないんだけど。
◇
『何も起きなかった。』
『今年も何も起きない。』
安全を伝えるための言葉だった。
しかし、物語の中では、何も起きなかった七年間が、何かが待っていた時間へ変わる。
藤尾さんが普通であろうとするほど、普通ではない何かが背後にいるように見える。
投稿者たちに悪気はない。藤尾さんが怪我をしてほしいわけでも、祭りが壊れてほしいわけでもない。
ただ、すでに始まっている物語へ、似合う意味を加えている。
七年前。
二度目。
何も起きない。
それらを並べるだけで、続きを待ちたくなる。
◇
午後五時半を過ぎる頃、日帰りの来島者が港へ移動し始めた。
夜の祭礼を見ることができない者の中には、最後まで不満を口にする者もいた。
神社の方向へ向かおうとして青年会員に止められた者や、民宿の駐車場で空きを探していた者もいたが、大きな混乱にはならなかった。
通常最終便が島を離れる。デッキに立つ人々が、港と山へ向けてスマートフォンを掲げている。
祭礼を見られなかった者も、島へ来たという映像を持ち帰る。
現地へ行った。
あの場所を見た。
あの音を聞いた。
今夜、配信を見ながら、そう書き込むことができる。
船が小さくなるまで、港から何台ものカメラが向けられていた。
◇
夜間見学者は、支所前、一の鳥居周辺、二の鳥居手前の指定区域へ分けられた。
受付済みの青いシールを確認し、人数を数える。
宿泊者名簿。
見学区域ごとの人数。
役場職員。
青年会。
保存会。
撮影関係者。
誰がどこにいるのか、分からなくならないよう記録する。
安全のためだった。
戻るために数えている。
それでも、名簿に数字を書き込むたび、
『戻るまで数えるな。』
という言葉が頭へ浮かんだ。
「二の鳥居より先には入れません。」
「祭礼関係者への声かけは控えてください。」
「白布、供物、祭具には触れないでください。」
「夜間は係員の指示なく移動しないでください。」
青年会員は、同じ説明を何度も繰り返す。
見学者の多くは真面目に聞いていた。
頷き、注意事項を確認し、ルールを守ると話している。
何人かは、その説明を撮影していた。
普通の安全案内が、画面の中では、祭りの前に読み上げられる禁忌のように見える。
◇
午後六時三十五分。支所の奥の和室で、藤尾さんの着付けが始まった。
私は部屋の中には入らず、廊下で潮見さんと並んで待っていた。襖の向こうから、布の擦れる音がする。
帯を締める声。足袋の位置を直す声。
浜谷さんの低い声も聞こえた。
「俊介、きつくないかね。」
「大丈夫です。」
「今日は人が多いけん、焦らんでええで。」
「はい。大丈夫です。少し緊張してしまって。」
「いつも通りでええ。何も変わらんけえ。」
「はい。前も歩いてますから。足元には気をつけます。」
何も変わらない。そう言い聞かせる声だった。
しかし、何も変わらないわけがない。
二の鳥居の手前には、昨日までなかった足場がある。
大型の投光器が二台ある。
数十人の見学者がいる。
カメラがある。
何万人もの人が配信を待っている。
コメント欄には、何かが起こることを待ちわびる声が並んでいる。
藤尾さんが七年前にも婿だったことから、すでに新しい話も作られ始めている。
祭礼の手順が同じでも、見ている者が違う。同じ道を歩いても、今年の山道は七年前とは決して同じにならないだろう。
襖が開く。藤尾さんが出てきた。
白装束。
白い足袋。
髪は整えられている。
額には薄く汗が浮かび、顔色は、昼間より白く見えた。
衣装の色が肌の血色を奪っているだけかもしれない。
「よろしくお願いします。」
藤尾さんは、私たちへ頭を下げた。
「よろしくお願いします。」
私は答える。潮見さんが、藤尾さんの前へ立つ。
「本当に、体調は大丈夫ですか。」
「大丈夫です。」
「無理なら、今ならまだ止められます。」
「大丈夫です。」
藤尾さんは、少し早く言った。潮見さんの次の言葉を止めるように。
「やります。」
小さいが、はっきりした声だった。
誰かに強制されている顔ではない。
逃げたがっているようにも見えない。
藤尾さんは、普通に終わらせようとしている。
七年前と同じように山へ上り、戻り、直会で酒を飲む。
何も起きないことを、自分で示そうとしている。
「そうじゃ。いつも通りやればええわ。」
浜谷さんが大きく頷く。
潮見さんは、何か言いたそうだった。
けれど、言わなかった。
◇
藤尾さんが支所の外へ出た瞬間、周囲の空気が変わった。
話し声が止まる。
小さく息を呑む音が重なる。
何台ものスマートフォンが、反射的に持ち上がった。
「撮影は控えてください。」
青年会員がすぐに声を上げる。
「祭礼開始前です。顔が映らないようにしてください。」
「すみません。」
何人かがスマートフォンを下げる。
何人かは、胸の高さまでしか下げない。レンズは、まだ藤尾さんへ向いている。
白装束を着た男。
今年の婿。
七年前にも一度、山へ上った男。
画面の中で作られていた物語に合う姿が、現実へ現れてしまった。
「藤尾さん。」
見学者の中から、誰かが呼んだ。大声ではない。
応援するような、柔らかな声だった。
藤尾さんは振り返らない。
「祭礼役へ声をかけないでください。」
係員が注意する。
「すみません。頑張ってって言いたかっただけで。」
悪気はない。声をかけた人間は、本当に藤尾さんを励ましたかったのだと思う。
しかし、その場面はすぐに投稿された。
◇
【SNS投稿】
現地。
藤尾さん、白装束で出てきました。
誰かが名前を呼んだけど、振り返りませんでした。
【返信】
> 名前を呼ばれても振り返るな、という決まりがあるの?
> 単に祭礼中だから声をかけるなと言われているだけです。
> 呼ばれた方を見たら、山から戻れなくなるやつでは。
> 勝手にルールを増やすなww
> 普通の指示に従っただけだった。それでも、振り返らなかったという事実には、別の意味を与えることができる。
◇
午後七時五分。
レイジ怪奇録の生配信待機ページが公開された。
◇
【レイジ怪奇録 生配信待機画面】
タイトル:
【現地生配信】三影島・山神婚礼祭
山の神へ婿を迎える夜
配信開始予定:
二十時〇〇分。
待機中視聴者数:
午後七時〇五分時点 一万一千八百人。
固定コメント:
本配信は、三影町および祭礼関係者の許可を得て行います。
現地の方の迷惑になる行為、無断来島、立入禁止区域への侵入、供物・祭具への接触は絶対におやめください。
未確認情報の拡散はお控えください。
配信内では、視聴者からの移動、接触、撮影範囲変更等の要望には対応しません。
◇
【待機コメント欄】
> 待機。
> 現地組、音聞こえる?
> こん。
> こん。
> 藤尾さん二度目って本当?
> 七年前にも婿だったらしい。
> 一度返した男をまた迎えるの怖い。
> だからただの人手不足でしょ。
> 名前出すなよ。
> 白布映るかな。
> こん。
> 山の女様。
> 呼ぶな。
> こん。
◇
待機者数は、画面を更新するたびに増えていった。
一万二千。
一万五千。
一万八千。
まだ何も映っていない。
黒い画面に配信予定時刻と注意事項が表示されているだけだ。
それでも、人が集まる。
何かが始まる場所に、先に視線だけが置かれていく。
祭礼を見たい。
藤尾さんが無事に戻るところを確認したい。
白い女などいないと知りたい。
もしかすると、本当に何か映るかもしれない。
何かが起きてほしい。
何でもいい。自分の心を揺らすものなら。
理由は違っても、全員が同じ画面を開いている。
カナちゃんも既に動画を開いているだろうか。そっとスマートフォンを取り出し、メッセージを打ち込む。
> 待機だけで、もう一万八千人いる。
> 増えていますね。
> みんな何を見たいんだろう。
> 何かが起きる可能性だと思います。
> 無事を祈ってる人も多いよ。
> 無事であってほしいことと、何かを見たいことは両立します。
> そうだね。
> 先輩も、何も起きないと確かめるために、現地へ戻ったんですよね。
否定できなかった。
私は仕事で来た。
町と取材班の調整をするため。事故を防ぎ、誤情報を抑え、祭礼が無事に終わることを確認するため。
けれど、何も起きないと確認するためには、何かが起きるかもしれない時間を最後まで見届けなければならない。
私も同じ画面の前にいるのだ。
◇
午後七時四十分。
仮設撮影足場では、最後の機材確認が行われていた。
レイジと遠山さん、町の記録担当者が足場へ上る。佐伯さんは地上で、配信用端末、音声、遅延、緊急停止画面を確認する。
私は、足場から少し離れた町関係者用の記録位置に立った。
「足場上、三名。」
設置業者が確認する。
「投光器二台、固定確認。」
「控えロープ、異常なし。」
「地盤沈下、目視上なし。」
「配線、養生済み。」
記録へチェックが入る。すべて問題ない。祭礼は、予定どおり始められる。
投光器が点灯する。
二の鳥居と石段が、暗闇の中へ白く浮かび上がった。
提灯の火は、すでに準備されている。
橙色の柔らかな光。
LED投光器の白い光。
昔から使われてきた灯りと、今日のために持ち込まれた灯りが、同じ参道を照らしている。
白い光の方が強い。提灯の火は、その中で小さく見えた。
足元を安全にするための光。
撮影するための光。
何万人もの人間へ見せるための光。
人に見せるための明るさが、祭りを別のものへ変えている。
提灯だけなら、藤尾さんの白装束は、暗闇の中へ半分溶けていたはずだ。
顔も、背中も、濡れた石段も、ここまではっきり見えない。
見えなくてよかったものまで、今夜は画面へ映る。
◇
午後七時五十八分。
配信が始まった。
実際の映像は、一度佐伯さんの端末を通り、約四十秒遅れて視聴者へ届く。
レイジがカメラへ向かって話す。
◇
【レイジ怪奇録 生配信文字起こし】
レイジ:
こんばんは。
現在、僕たちは三影島の三影神社旧参道前にいます。
今夜は、三影町および祭礼関係者の皆様から正式な許可をいただき、山神婚礼祭の一部を生配信します。
最初に、何点かお伝えします。
本配信では、二の鳥居より先へ立ち入りません。
祭礼関係者への声かけ、白布、供物、祭具への接触は行いません。
また、コメント欄からの要望に応じて、立入り区域、撮影位置、画角を変更することはありません。
未確認の音、光、人物等について、怪異であると断定することもありません。
祭礼の進行を妨げないこと、現地の安全を最優先として配信します。
◇
待機画面から切り替わった瞬間、視聴者数が一気に増えた。
二万四千。
二万七千。
三万人。
画面の向こうでは、コメントが流れ続けている。私には、その全ては見えない。
佐伯さんが不適切な書き込みを監視し、危険な指示や個人情報を含むものを削除している。
私は現地メモを開いた。
◇
【現地メモ】
八月十六日 一九時五十九分。
配信開始。
現地天候:
晴れ。
風、弱い。
地面、一部湿潤。
仮設足場:
使用前点検済み。
足場上三名。
投光器二台点灯。
見学者:
各指定区域へ誘導済み。
祭礼関係者:
集合済み。
◇
書類の上では、何も問題がない。
◇
午後八時。
藤尾さんが、一の鳥居の前へ立った。
白装束の背中。
左右には、提灯を持った先導役が二人。
その後ろに、神職と保存会員が続く。
見学者は、張られたロープの外側から見ている。
スマートフォンを持つ者もいる。撮影禁止ではない。
ただし、顔を大きく映さないこと、祭礼進行を妨げないことが条件だった。
現地は静かだった。
海からの風。
葉の擦れる音。
発電機の低い振動。
遠くで鳴く虫。
何十人も人がいるのに、皆が声を抑えている。
その静けさの中で、どこかから乾いた音がした。
こん。
保存会の合図ではなかった。
少なくとも、誰かが手にした道具を打ったようには見えない。
鹿除け。
足場。
木の枝。
何の音でもあり得る。
藤尾さんは動かない。
二度目の音は鳴らなかった。
神職が腕時計へ目を落とし、小さく頷く。
先導役が歩き始める。
藤尾さんが、一の鳥居をくぐった。
◇
【生配信コメント欄】
> 始まった!
> こん。
> 今、音した?
> 現地の音?
> 鹿除けでしょ。
> こん。
> 白い。
> 藤尾さん大丈夫?
> 名前出すな。
> すごい雰囲気。
> 怖っ!
> 山の女様、見てますか。
> 供物が行きますよ。
> おいw
> こん。
> 呼ぶなって。
> こん。
◇
藤尾さんは、一段ずつ石段を上る。
足袋が濡れた石へ触れる。
提灯の金具が小さく鳴る。
白い装束が、投光器の光を受け、暗い山道の中へ浮かび上がっている。
提灯だけなら、もっと輪郭は曖昧だっただろう。
人の姿と山の暗闇の境目も、今より分からなかったはずだ。
今夜は見える。
肩の動き。
袖の揺れ。
足元の水。
藤尾さんが僅かに呼吸を整える様子まで、遠山さんのカメラが拾っている。
見えすぎている。
それでも、画面の向こうの人々は、映っている藤尾さんではなく、その周囲の暗闇を探している。
◇
【生配信コメント欄】
> 右奥に何かいない?
> 木です。
> 白いの見えた。
> どこ?
> 鳥居の横。
> 光の反射。
> カメラ右向けて!
> コメントの指示には従わないって言ってる。
> 奥映して!
> こん。
◇
佐伯さんが足場を見上げる。レイジへ何かを伝えることはしない。
コメントの指示によって画角を変えない。事前に決めた規則を守っている。
藤尾さんは、ゆっくり進む。誰も声をかけない。
見学者の何人かが、スマートフォンの画面と、実際の参道を交互に見ていた。
四十秒遅れた配信映像と、目の前の現実。
どちらに白いものがいるかを確かめるように。
◇
午後八時十五分。
藤尾さんは、二の鳥居へ近づいた。
ここから先は、祭礼関係者だけが入る区域だった。
足場の上で、遠山さんがカメラの焦点を調整する。
投光器の光が、僅かに揺れた。
白い光が、鳥居の柱を滑り、奥の木々へ流れる。
一瞬だけ、二の鳥居の向こうに、白い縦長のものが見えた。
人のようにも見えた。
葉の裏へ反射した光のようにも見えた。
細い木の幹。
白い布。
何でもあり得る。
私は目を凝らす。次の瞬間には、何もない。
隣にいた見学者が、小さく息を呑んだ。
別の場所でも、誰かが、
「あ。」
と声を漏らした。
「何か見えましたか?」
青年会員が低く尋ねる。答える者はいない。
私も答えなかった。何を見たのか分からない。
分からないものを見たとは言えない。
◇
【現地メモ】
八月十六日 二〇時十五分頃。
二の鳥居奥に白色の反射のようなもの。
光源移動によるものと思われる。
現地見学者数名に反応あり。
明確な対象は確認できず。
◇
そう書けば、それで終わる。
光が反射した。
何人かが反応した。対象は確認できない。
現地では、その瞬間に確認できたのは、それだけだった。
しかし、四十秒遅れた画面の向こうでは、すでに別の出来事が始まっていた。
◇
【生配信コメント欄】
> 今の何?
> 白いのいたよね!?
> 鳥居の奥ですよね。
> ライトの反射じゃない?
> いや動いたよ。絶対。
> 見えた人いる?
> 見えた。
> 見えた。
> 白い。
> 来た?
> 絶対名前呼ぶな。
> 山の女様。
> 来た。
> 来た。
> こん。
> こん。
> こん。
◇
誰か一人が見えたと書く。
その文字を見た次の人が、同じ場所を探す。
白いものを見つける。
見つけられなくても、見えたという人間がいることを知る。
何万人もの視線が、同じ暗がりへ向く。
何がいたのかは分からない。
それでも、来たという言葉だけが増えていく。
藤尾さんが、二の鳥居の手前で止まった。先導役も止まる。
神職は、すぐには声をかけない。
白装束の背中が、投光器の光の中へ浮かんでいる。
現地では、誰も何が見えたとは言わなかった。
けれど、四十秒遅れた画面の向こうでは、同じ言葉が増え続けていた。
来た。
来た。
来た。




