08. 黒瀬蓮に憧れるほど、美月は祖父の正体へ近づいていた
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【美月視点】
翌日。私は学校帰りに、そのままハンターギルドへ向かった。目的は一つ。黒瀬蓮。昨日、私たちを助けてくれたB級ハンターだ。顔の半分を布で隠していて、年齢はたぶん、お父さんくらいだと思う。いや、お父さんはもういないから、比べ方として正しいのかは分からないけど。少なくとも、私から見れば大人の男の人だった。無愛想で。口が悪くて。でも、ものすごく強かった。大きな魔法を使ったわけじゃない。派手な技を見せたわけでもない。ただ、避けて、斬って、進む。それだけで、あんなに違う。あの戦い方を、もう一度見たかった。
「今日、黒瀬さん来てませんか?」
受付で聞く。
「黒瀬さん? 今日は見てないわね」
「そうですか……」
思ったより、がっかりした。でも、次の日も行った。さらに次の日も。学校が終わると、自然に足がギルドへ向かっていた。我ながら、何をやっているんだと思う。友達にも、またギルド行くの、と呆れた顔をされた。でも、仕方ない。あの戦い方を、もう一度見たかった。昨日、私は何もできなかった。友達が怪我をして、自分の判断の甘さを思い知らされた。だからこそ、知りたかった。あの人は、どうしてあんなふうに動けるのか。どうすれば、あんなふうに戦えるのか。
そして数日後。
「あっ!」
ギルドの奥に、見覚えのある男を見つけた。顔の半分を布で隠した、無愛想なB級ハンター。間違いない。黒瀬蓮さんだ。
「黒瀬さん!」
私が駆け寄ると、黒瀬さんは露骨に嫌そうな顔をした。
「……なんでいる」
「探してたんです!」
「なんで」
「言ったじゃないですか。戦い方を教えてください!」
「嫌だ」
また即答だった。
「お願いします!」
「嫌だ」
「じゃあ、師匠って呼びます」
「話聞いてたか?」
「師匠!」
「やめろ」
「師匠!」
「……面倒くせぇ」
黒瀬さんが頭を抱える。でも、私は諦めない。昨日のままでは嫌だった。調子に乗って、危ないところまで進んで。友達を怪我させて。最後は知らない人に助けられた。あれを、ただの失敗で終わらせたくなかった。
「私、本気で強くなりたいんです」
そう言うと、黒瀬さんは少しだけ真面目な顔になった。
「……昨日みたいな無茶はするな」
「じゃあ教えてくれるんですか?」
「そうは言ってない」
「師匠!」
「だから違う」
なんだかんだ言いながら。その日から私は、黒瀬さんを見つけるたびに追いかけるようになった。
「師匠!」
「違う」
「今日こそ教えてください!」
「帰れ」
「ギルドに来たばかりです!」
「なら受付の邪魔になる前に帰れ」
そんなやり取りを何度も繰り返した。受付の人には、すぐに顔を覚えられた。友達には、また師匠探し、と笑われた。でも、不思議と嫌ではなかった。ギルドへ行く理由ができた。強くなりたい理由が、前よりはっきりした。おばあちゃんみたいになりたい。そして、黒瀬さんみたいに戦えるようになりたい。それが、今の私の目標になっていた。
ギルドへ通うようになって、しばらく経った頃。
「あれ……?」
見覚えのある男性が、ギルドの奥を歩いていた。年配だけど、姿勢が良い。なんとなく偉そうな人。というより、周囲の職員たちが明らかに緊張している。どこかで見たことがある。私は少し考えて――思い出した。
「……家に来てる人だ」
たまに、うちで見かけるおじさん。おじいちゃんと長い時間話していることがある。私が近くを通ると、二人とも話を止める。だから、何を話しているのかは知らない。でも、その顔には見覚えがあった。
私は受付の人に聞いた。
「あの人、誰ですか?」
「え?」
受付の人は私が指した先を見て、驚いた顔をした。
「天羽総帥よ」
「……総帥?」
「ハンターギルドの総帥」
「え?」
私はもう一度、その人を見る。総帥。ハンターギルドで一番偉い人。登録したばかりの新人でも、それくらいは分かる。その人が。どうして、うちに?どうして、おじいちゃんと長い時間話しているの?胸の奥に、また小さな違和感が増えた。
「……気のせいよね」
たぶん。似てるだけ。そう思うことにした。だって、おかしい。ギルドの総帥が、どうして普通の家に来るのか。どうして、家で暇そうにしているおじいちゃんと、長い時間話すのか。そんなの、考えたって分からない。きっと何かの勘違いだ。そう決めて、私は視線を逸らした。でも、一度気づいてしまった違和感は、簡単には消えなかった。ギルドの職員たちが頭を下げる相手。ハンターギルドの総帥。その人が、私の家で、おじいちゃんと話している。また一つ。あの人の分からないところが増えた。
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――次回予告――
正式に美月の指導員となった、B級ハンター・黒瀬蓮。
けれど美月は、その正体を知らないまま――嫌いな祖父への不満を、祖父本人にぶつけてしまう。
次回
『09. 嫌いな祖父だと知らずに、美月は黒瀬蓮へ祖父の悪口を言った』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




