67. “解除不可”しかなかった道に、初めて条件が生まれた
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【美月視点】
《最上位命令》
《地球を守れ》
その下に。
《星継ぎを維持せよ》
ずっと、この二つが同じ意味みたいに並んでいる。でも。違う。
「地球を守ることと、サクラ様を眠らせ続けることは……同じじゃない」
星継ぎを維持することは、目的じゃない。地球を守るための手段。なら。今の地球がどうなっているのか。それを見なきゃいけない。私は、管理機構へさらに深く触れた。
流れ込んでくる。地球。生命。魔力。循環。星継ぎ。多すぎる。速すぎる。
「っ……」
頭がおかしくなりそうだった。何十年分。いや。もっと長い時間の情報が、全部一緒になって流れてくる。それでも探す。昔じゃない。今。今の地球。サクラ様が何十年も支え続けた後の、現在の状態。
【皐月視点】
「っ!」
星守統括個体の拳をかわす。反撃。白銀の装甲を砕く。だが、すぐ戻る。
「本当にしつけぇ!」
胸の奥。魂糸も、何度も震えている。これ以上、力を上げるのはまずい。
「美月!」
返事はない。まだ管理機構の中か。
「早くしろよ……!」
統括個体が、また光を集める。
「ちっ!」
俺は美月の前へ立つ。こいつは今、自分の身体を動かせない。
「孫に」
「怪我させるわけにもいかねぇんだよ!」
光を弾く。衝撃。身体が後ろへ滑る。
「……重ぇな」
それでも。倒れるわけにはいかない。
【美月視点】
見つけた。情報の奥。今の、地球の状態。
《星継ぎ依存状態》
「……これ」
昔。サクラ様が星継ぎになった頃。そして。現在。二つを比べる。明らかに、違う。
「減ってる……?」
サクラ様が、地球を支えている割合。それが昔より、少しずつ下がっている。完全じゃない。ゼロでもない。でも。地球は確実に、自分の力を取り戻している。
「やっぱり」
地球は回復している。サクラ様への依存も減っている。なのに。この管理機構は、昔と同じ判断をずっと続けている。
「だったら!」
私は管理機構へ叫ぶ。
「確認してよ!」
《……》
「今の地球を!」
《情報照合》
大量の文字が動く。
《地球状態確認》
《生命循環――安定》
《魔力循環――安定化進行》
《星継ぎ依存――低下》
「ほら!」
やっぱり。世界は、サクラ様が星継ぎになった頃と同じじゃない。
それでも。
《星継ぎを維持せよ》
命令は消えない。
「なんで!」
《星継ぎ解除》
《地球維持への影響――不確定》
《解除不可》
「……」
一瞬、悔しくなる。でも。そこで分かった。この機構は、サクラ様を今すぐ外せるとは判断していない。当然だ。依存は減っている。でも、なくなったわけじゃない。まだ地球は、サクラ様を必要としている。だったら。無理やり外したら、本当に地球が壊れるかもしれない。
「じゃあ」
私は聞く。
「代わりがいたら?」
《……》
「サクラ様以外に、地球を支えられる存在がいたら?」
文字が止まる。
「その時は……サクラ様を眠らせ続けなくてもいいんじゃないの?」
《最上位命令》
《地球を守れ》
その下。
《星継ぎを維持せよ》
でも。星継ぎを維持することは目的じゃない。手段。地球を守る方法が他にあるなら。その方法を使えばいい。
「だったら!代わりができるまで探すことくらい許してよ!!」
《代替維持手段》
《未確認》
「だから探すの!」
《……》
「私たちは」
「サクラ様を無理やり外したいんじゃない」
「地球を壊したいわけでもない」
「地球を守ったまま」
「サクラ様も助けたいの!」
長い。沈黙。私は待つ。外では師匠が戦っている。早くして。そう思った瞬間。
《星継ぎ解除行為》
《即時敵対判定》
《再評価》
【皐月視点】
突然。統括個体が止まった。
「……何?」
拳を振り上げたまま、動かない。周囲の星守も、一斉に停止する。
【美月視点】
《最上位命令》
《地球を守れ》
《代替維持手段の探索》
《許容》
「……!」
《星継ぎ解除行為》
《条件付き保留》
《敵対判定――解除》
「やった……?」
さらに。
《星継ぎ維持》
《継続》
「……」
やっぱり。サクラ様は、まだ解放されない。でも。違う。今までとは、もう違う。サクラ様を助けるために、代わりを探すこと。そのものが、敵対行為ではなくなった。解除不可。それだけだった道に。初めて、条件が生まれた。
【皐月視点】
星守たちが、ゆっくり床へ沈んでいく。
「止まった……」
次の瞬間。美月の身体が崩れた。
「おい!」
慌てて抱き止める。
「美月!」
「……うるさい」
「!」
目を開けた。
「大声出さないでよ」
「馬鹿!痛っ!」
「心配させんな!」
「そっちが勝手に心配したんでしょ!」
「当たり前だろ!どうなった?」
「止めた」
「何を?」
「敵扱い」
「……?」
美月が息を整える。
「サクラ様を……今すぐ起こせるわけじゃない」
「……」
「まだ、地球には必要みたい」
俺は黙った。
「でも」
美月が続ける。
「代わりを探すことは」
「許された」
俺たちは、星継ぎの間へ戻った。
「大賢者!」
『はい』
声が戻る。
「状況は?」
『確認しています』
俺は、サクラのところへ行く。手を握る。
「……サクラ」
温かい。眠ったまま。魂糸も、まだ地球へ繋がっている。
「やっぱり」
「まだ起こせねぇか」
『はい』
「地球は」
「まだサクラを必要としてる?」
『完全には依存を脱していません』
「……そうか」
「でも」
美月が言う。
「代わりがいればいいんですよね?」
『理論上は』
「代わりになれる存在って」
「何なんです?」
『不明です』
「神とか?」
『……可能性はあります』
俺と美月が、同時に黙る。
「大賢者」
「地球深部の神性反応」
「今どうなってる?」
『……』
『上昇しています』
「やっぱりか」
『特に』
『星継ぎ管理機構の敵対判定解除以降』
『反応が強まっています』
「……」
地球の奥。昔、存在したかもしれない。地球の管理者。神。
【美月視点】
「師匠」
「何だ」
今度は。呼び間違えたとは思わなかった。
「もしかして」
「代わりになれる何かって」
私は、地面の奥を見る。
「もう地球の中にいるんじゃない?」
おじいちゃんは答えなかった。ただ、同じ場所をじっと見ていた。サクラ様は、まだ眠っている。管理機構を止めても、終わりじゃなかった。でも。今までとは違う。サクラ様を助けること自体を。地球は、もう拒絶しなくなった。あとは。代わりを見つける。地球を、サクラ様の代わりに支えられる存在を。そして。地球のもっと深いところでは。正体不明の神性が、少しずつ大きくなっていた。星継ぎを終わらせるための。次の答えが。そこにあるのかもしれなかった。
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――次回予告――
新章開幕!
第五章 世界を救った神も、救われていなかった
管理機構のさらに奥。
新たに開いた道の先で、美月たちが辿り着いた場所。
《神性領域への接続を確認》
地球には神はいない。
ずっと、そう思われていた。
けれどその奥には――
サクラとも、ダンジョンとも違う“巨大な何か”が眠っていた。
次回
『68. 地球に、神なんかいねぇはずだろ』
次回【夕方18:00】更新です!




