62. 嫌いなのに、師匠の声には身体が勝手に動く
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【美月視点】
最悪。本当に最悪。師匠が、おじいちゃんだった。しかも、零まで。全部、同じ人。
「……」
「美月」
「話しかけないで」
「いや今は無理だろ」
「必要なことだけ!」
「分かったよ」
腹が立つ。顔を見るだけで、また思い出す。師匠。おじいちゃん。零。全部、春日皐月。
「……最悪」
「また言ったな」
「必要な会話じゃないから黙って!」
星守が、また動く。一体。二体。巨大な個体まで、こっちへ来る。
「美月!」
「分かってる!」
「右!」
その声を聞いた瞬間。私は、考えるより先に、右へ飛んでいた。直後。さっきまで立っていた場所を、星守の腕が通り過ぎる。
「……」
「……」
一瞬、目が合った。
「今」
「何だ」
「師匠みたいに指示しないで!」
「動いたじゃねぇか」
「うるさい!」
助かった。それは分かっている。でも、分かっているからこそ腹が立つ。
また、星守。
「低い!」
「っ!」
しゃがむ。頭上を攻撃が通る。
「次、左!」
踏み込む。避ける。剣を振る。結晶部分に当たる。傷は浅い。でも、攻撃は通った。
「そのまま離れろ!」
私は、その通りに動いた。直後。おじいちゃんの一撃。星守の身体が、大きく砕ける。
「……」
また。言われた通りに動いた。しかも、それでうまくいった。最悪だ。
「なんで……」
「何が」
「なんで私……おじいちゃんの言うこと聞いてるの」
「戦闘中だからだろ」
「違う!」
違う。もっと、嫌な理由。体が、覚えてる。黒瀬蓮、師匠。何度も、何度も教えられた。
『攻撃を見るな。相手の肩を見ろ』
『受けるな。避けろ』
『迷ったら一歩下がれ』
『俺が右って言ったら考える前に動け』
全部、覚えている。全部、体に染みついている。
「……最悪」
「また?」
「違う!」
「何が違うんだよ」
「私」
星守の攻撃を避けながら、叫ぶ。
「師匠のこと…………信頼してたんだよ!」
おじいちゃんが、一瞬だけ黙った。
「……」
「何?」
「いや」
「なんでもねぇ」
「その顔やめて!」
「どんな顔だよ!」
「嬉しそうな顔!」
「してねぇよ!」
「してる!」
本当に腹が立つ。こっちは怒っているのに。こっちは最悪だと思っているのに。なのに、少し嬉しそうにされると。余計に腹が立つ。それでも。星守は待ってくれない。
また、巨大な星守が腕を振る。
「美月!」
「分かってる!」
「後ろ!」
反射。後ろへ。そのまま、床を蹴る。距離を取る。
「……」
やっぱり、できる。師匠の声なら。考えなくても、動ける。それが、腹立たしい。
【皐月視点】
こいつ、怒ってる。本気で。でも、動きは変わらない。俺が教えた通り。いや。前より、少し良くなってる。
「美月!」
「何!」
「次、足元!」
「命令しないで!」
「じゃあ死ぬぞ!」
「それは嫌!」
避ける。そのまま、結晶へ一撃。
「そうだ!」
「褒めないで!」
「面倒くせぇな!」
【美月視点】
嫌い。今は、本当に嫌い。騙されていたことも。零のことも。全部、許せない。でも、それとは別に。分かってしまった。私は、この人の戦い方を知っている。この人の声を、信用している。危ない時。師匠の指示なら、体が動く。
「……」
それが、一番悔しかった。
「美月!」
「何!」
「右!」
「分かってる!」
飛ぶ。避ける。斬る。皐月が、その隙を使って星守を破壊する。
「よし!」
「だから褒めないで!」
「じゃあ何て言えばいいんだよ!」
「何も言わないで!」
「無茶言うな!」
また、星守が再生する。戦いは、まだ終わらない。私の怒りも、全然終わっていない。でも、一つだけ認めるしかなかった。春日皐月は、嫌い。今は、ものすごく嫌い。それでも。黒瀬蓮として、私を鍛えてくれた師匠を。私は、確かに信頼していた。そして、その二人が同じ人だった。だからこそ、余計に腹が立った。
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――次回予告――
許したわけじゃない。
怒りだって、まだ全然消えていない。
それでも戦いの中で、美月の口から自然にこぼれた言葉は――。
「師匠」
祖父としては受け入れきれなくても、
黒瀬蓮として積み重ねた信頼だけは、もう消せなかった。
そして二人は、無限に湧く《星守》ではなく、その本体へ向かう。
次回
『63. 許してないのに、また「師匠」って呼んでしまった』
次回【朝06:00】更新です!




