61. 私の初恋、おじいちゃんだったんだけどおおおおおお!!
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【美月視点】
師匠が。おじいちゃんだった。それだけでも、頭がぐちゃぐちゃなのに。戦闘は、待ってくれない。
《保全処理継続》
巨大な星守が、また腕を振り上げる。
「美月! 下がれ!」
「分かってる!」
おじいちゃんが前へ出る。攻撃を避け、懐へ入り、拳を叩き込む。
「……」
その動きを、私は見ていた。いや。見てしまった。何かが、引っかかる。師匠だったから?違う。もっと、別の何か。
踏み込み。身体の捻り。攻撃を避ける時の癖。
「……」
どこかで、見たことがある。その時、星守が横から襲う。
「ちっ!」
おじいちゃんが振り返る。そのまま腕を弾き、私の前へ滑り込む。
「美月!」
「っ!」
肩を抱かれ、後ろへ引かれた。その瞬間。
「……あ」
鼻に、微かに、覚えのある匂い。前にも、こんなことがあった。ダンジョン。私は両腕を折られて、何もできなくなって。そこへ、あの人が来た。黒い仮面。圧倒的な強さ。S級ハンター。零。怖くて。安心して。私は、零に抱きついた。その時、感じた。妙に、どこかで嗅いだことがあるような、あの匂い。
「……」
嘘。いや。まさか。
「美月?」
「……待って」
「何だ」
私は、おじいちゃんを見る。声。今は、おじいちゃんの声。でも、黒瀬蓮の時は違った。なら。声なんて、変えられる?姿だって、変えていた。だったら。
「……師匠」
「だから今は何だ!」
「零も?」
おじいちゃんが、止まった。
「……」
「え?」
その沈黙。嫌。その反応。絶対嫌。
「……嘘でしょ?」
「美月」
「零もなの?」
「……」
「答えて!」
星守が襲ってくる。
「くそっ!」
おじいちゃんが、私を抱えて避ける。着地。
「今それ聞くか?」
「今気づいたんだから仕方ないでしょ!」
「戦闘中だぞ!」
「じゃあ一言!」
「……」
「零?」
おじいちゃんが、ものすごく嫌そうな顔をした。
「……俺だ」
「…………」
「は?」
「だから」
「零も俺だ」
「……」
頭が、止まった。黒瀬蓮。師匠。春日皐月。おじいちゃん。そして。零。
「……全部?」
「ああ」
「全部おじいちゃん?」
「……そうだ」
「……」
無理。
「証拠」
「何?」
「証拠見せて」
「今?」
「今!」
「お前さっきからそればっかりだな!」
「いいから!」
皐月が、深いため息をついた。
「分かったよ」
一瞬、空気が揺れる。おじいちゃんの姿そのものが変わるわけじゃない。その上に、黒い装束が現れる。そして、顔を覆う黒い仮面。
「……」
声も、変わった。
「これでいいか?」
「……」
知っている。この姿。この声。零。私が、ずっと憧れていた人。
「……本物」
「ああ」
すぐに、仮面を外す。そこにいるのは、また、おじいちゃん。さっきまで憧れていた姿が、目の前で崩れていくみたいだった。
「……」
待って。黒瀬蓮は、尊敬してた。師匠として。頼りにしてた。でも、零は、それとはちょっと違う。助けてもらって。格好よくて。もっと会いたいって思って。零の話を聞いただけで、少し嬉しくなって。
「……」
あれ。もしかして。
「美月?」
「私の……」
「何だ?」
「初恋……」
「……」
おじいちゃんの顔が、引きつった。その反応で、余計に全部理解した。
「私の初恋……」
「美月」
「おじいちゃんだったんだけどおおおおおお!!」
「知らねぇよ!」
「知ってたでしょ!」
「何を!」
「私が零に憧れてたこと!」
「……」
「知ってたよね!?」
「……まあ」
「最悪!!」
「俺がどうしろってんだ!」
「言ってよ!」
「『実は俺がお前の憧れてる零です』って!?
「それも最悪!」
「じゃあ無理じゃねぇか!」
腹が立つ。恥ずかしい。泣きたい。いや、泣くのは違う。でも、本当に傷ついた。
「全部知ってて……黙ってたんだ」
「……」
「私が師匠を信頼してたことも」
「ああ」
「零に憧れてたことも」
「……ああ」
「その状態で」
「ずっと私のこと見てたんだ」
「美月」
「気持ち悪い!」
口に出した瞬間、おじいちゃんが少しだけ黙った。
でも、今は。謝られても、たぶん聞けない。
「最低」
「……悪かった」
「今謝らないで」
「じゃあどうしろってんだ」
「知らない!」
星守が、またこちらへ向かってくる。
「美月!」
「分かってる!」
剣を握る。
「でも!」
「何だ!」
「これ終わったら」
「全部説明して!」
「分かった!」
「絶対だから!」
「ああ!」
今は許せない。でも、聞く。聞かなければ、たぶん何も始まらない。
目の前にいるのは。師匠。おじいちゃん。零。全部、同じ人。信頼していた人も。憧れていた人も。一番苦手だった人も。全部、春日皐月だった。
「……最悪」
「また言ったな!」
「何回でも言う!」
今は、サクラ様を助ける。そのために、一緒に戦う。でも。それと。許せるかどうかは、全く別の話だった。
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――次回予告――
祖父としては、今も腹が立つ。
師匠としては、今も信じている。
その矛盾を抱えたまま、美月の身体は――皐月の声に反応してしまう。
「右!」
「分かってる!」
嫌いなのに。
許せないのに。
それでも、師匠として刻まれた信頼だけは消えていなかった。
次回
『62. 嫌いなのに、師匠の声には身体が勝手に動く』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




