60. 嫌いだったおじいちゃんを、私はずっと師匠として尊敬していました
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【美月視点】
「…………は?」
目の前にいる。見慣れた男。春日皐月。私のおじいちゃん。でも。さっきまで、ここにいたのは黒瀬蓮だった。私の師匠だった。
「……」
頭が、まったく追いつかない。
「師匠?」
「……ああ」
「おじいちゃん?」
「……ああ」
「……」
「美月?」
「…………はああああああ!?」
管理領域に、私の声が響いた。
「うるせぇ!」
「うるさいじゃない!」
「今戦闘中だぞ!」
「そんなの知らない!」
「いや知れ!」
星守が動く。
「美月、下がれ!」
おじいちゃんが、私の前へ出る。星守の拳を弾く。その動き。見覚えがある。当たり前だ。ずっと見てきた。師匠の動きだ。
「……嘘」
蹴り。拳。立ち方。間合いの取り方。星守の攻撃を避ける時の、ほんの少し体をずらす癖。全部。
「本当に……師匠?」
「だからそうだって言ってんだろ!」
おじいちゃんが星守を吹き飛ばしながら答える。
「そんな簡単に言わないで!」
簡単に言われても困る。私の中では、全然簡単じゃない。
少しだけ、星守との距離が開く。
「説明して!」
「今?」
「今!」
「事情があって」
「それ説明になってない!」
「だから後で」
「ずっと騙してたの!?」
「……」
「ねえ!」
「事情があってな」
「騙してたよね!?」
「……まあ」
「最低!」
「そこまで言うか?」
「言うよ!」
怒っている。ものすごく怒っている。でも、怒りだけじゃない。恥ずかしい。混乱している。それから、少しだけ怖い。私が信じていたものが、全部ひっくり返った気がした。
黒瀬蓮。頼れる師匠。強くて。ちゃんとハンターをしていて。何度も助けてくれた。私が危ない時、いつも前に立ってくれた。口は悪いけど、ちゃんと見てくれていた。私が、少しずつ、信頼するようになった人。それが。
「おじいちゃんだった……」
「何度も言わせんな」
「信じられない!」
よりによって。私がずっと、気味悪いと思っていたあの人。何十年経っても歳を取らなくて。家にいても何を考えているのか分からなくて。おばあちゃんが亡くなった後も、ひとりだけ変わらないままだった人。その人を、私は師匠だと思っていた。
「じゃあ」
私は気づく。
「最初から?」
「何が」
「私が師匠って呼び始めた時も?」
「ああ」
「私がおじいちゃんの悪口言ってた時も?」
「……ああ」
「全部聞いてた!?」
「まあ」
「最悪!!」
「俺も結構傷ついてたんだからな?」
「知らないよ!」
「本人の前で『師匠とあの人を一緒にするの失礼』とか言いやがって」
「言ったけど!」
「同じ人だからな?」
「今それ言う!?」
顔が熱い。恥ずかしい。腹が立つ。意味が分からない。たぶん、今の私はものすごく変な顔をしている。
「なんで」
「なんでこんなことしたの?」
今度は、少しだけ真面目に聞いた。おじいちゃんも、一瞬黙る。
「お前を守るためだ」
「だったら最初から言えばよかったじゃん」
「俺だって事情がある」
「また事情!」
「美月」
「何!」
「今は」
おじいちゃんが奥を見る。
「こいつらをどうにかする方が先だ」
「……」
それは分かっている。分かってるけど。納得できるかどうかは、別だった。
また、巨大な星守が動き出す。
《保全処理継続》
《重大干渉個体を排除》
「ほら来るぞ」
「……」
「美月」
「分かってる!」
私は剣を握った。でも、今までみたいに。
「師匠!」
とは、呼べなかった。だって。もう目の前にいるのは、黒瀬蓮じゃない。春日皐月。私のおじいちゃん。
「……おじいちゃん!」
「何だ!」
「右!」
「分かってる!」
おじいちゃんが星守の攻撃を避ける。そのまま、反撃。呼んだ。今、私はこの人を、おじいちゃんと呼んだ。そのことが、戦闘中なのに妙に胸に残った。
戦い方は、師匠そのもの。なのに。顔は、おじいちゃん。
「……最悪」
「聞こえてるぞ!」
「わざと言った!」
「お前な!」
腹が立つ。本当に、腹が立つ。でも、もっと嫌なのは。この人が、師匠だったという事実を、もう否定できないことだった。頼れると思った。尊敬していた。この人についていけば、もっと強くなれると思った。その全部が。私の一番苦手だった、春日皐月に向けていた感情だった。
「……ありえない」
私は、もう一度、目の前の男を見る。師匠。そして。おじいちゃん。同じ人。そんなの。すぐに受け入れられるわけがなかった。
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――次回予告――
師匠も。
嫌いだった祖父も。
憧れていたS級ハンター《零》も。
全部、春日皐月だった。
そして美月は、最悪の事実に気づいてしまう。
初めて憧れて。
初めて胸が高鳴った相手まで――
自分のおじいちゃんだったことに。
次回
『61. 私の初恋、おじいちゃんだったんだけどおおおおおお!!』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




