06. 祖父の言葉は届かない。だから俺は黒瀬蓮として孫娘を守る
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【皐月視点】
「美月がハンターになったって、どういうことだ」
娘に聞くと、呆れたような顔をされた。
「そのままの意味だけど?」
「聞いてないぞ」
「美月、お父さんには言いたくないって言ってたから」
「…………」
そうなんだな。分かっていたつもりだった。美月が俺を避けていることくらい。俺の顔を見るたびに、少しだけ表情を硬くすることくらい。それでも、こうしてはっきり言われると、さすがにくる。俺は祖父だ。だが、美月にとっては、相談する相手ですらないらしい。
「なんで止めなかった」
「止める理由ある?」
「危ないだろ」
「ハンターなんだから当たり前でしょ」
「そういう話じゃない」
娘は小さく息を吐いた。
「美月はもう子どもじゃないよ。自分で決めて、講習も受けて、登録したの」
「だからって」
「お母さんに憧れてたの。ずっと」
その言葉に、俺は口を閉じた。お母さん。娘にとっての母。俺にとっての美桜。美月にとっての祖母。美桜に憧れてハンターになる。それ自体は、責められることじゃない。だが、それでも駄目だ。美月は普通の新人じゃない。
俺は少し迷ってから、娘を見る。本当なら、言いたくはなかった。余計な不安を増やすだけかもしれない。だが、黙っている方がもっと悪い。
「美月は――深層適性者だ」
「……え?」
娘の表情が変わった。
「今日、ステータスを見た。間違いない」
「ちょっと待って。それって……サクラさんと同じ?」
「ああ」
部屋の空気が、一気に重くなる。深層適性者。名前だけなら、今では珍しいものではない。研究も進み、ギルドの資料にも載っている。だが、俺たちは知っている。その適性が、どれだけ危険なものなのか。どこまで深い場所へ引き寄せられるのか。そして、サクラが最後にどうなったのかを。
「……ダメ」
娘が呟いた。
「美月をハンターにさせちゃダメ」
「だろ?」
「すぐ話す」
「待て。頭ごなしに――」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
さっきまで俺に反論していた娘が、今度は完全に反対側へ回っていた。無理もない。普通の新人なら、応援できたのだろう。美桜に憧れて、ハンターになる。それは悪いことじゃない。だが、深層適性者となれば話は別だ。サクラを知っている人間なら、なおさら。娘の顔から血の気が引いていた。母親の顔だった。俺は、それ以上強く止められなかった。
その日のうちに、娘は美月へ話したらしい。当然、美月は納得しなかった。
『なんで急に反対するの!?』
『危ないからよ』
『昨日まで応援してたじゃん!』
声だけで、美月がどれだけ怒っているか分かった。まあ、そうなる。昨日まで応援されていたものを、急に止められる。それも、登録を済ませた後で。納得しろという方が無理だ。そして。
『……おじいちゃんに何か言われたんでしょ』
結局、矛先は俺に向いた。ただでさえ嫌われていたのに。余計に嫌われた。
「……俺のせいかよ」
口ではそう言った。だが、たぶん。俺のせいなんだろうな。
だが、深層適性者だと分かった以上、放っておくことはできない。俺は知っている。その適性が、どれだけ深い場所へ人を引きずり込むのか。ダンジョンが、どれだけ都合よく獲物を呼び込むのか。サクラは、それで何度も狙われた。傷ついて、眠らされて、最後には星継ぎになった。美桜も言っていた。サクラちゃんのこと、お願いね、と。それなのに、美月まで同じ場所へ引き込まれるなら。俺は、見て見ぬふりなんてできない。嫌われようが。恨まれようが。それだけは、できない。
だからといって、春日皐月として近づけば、美月はますます意地になる。祖父の言葉は、今のあいつには届かない。むしろ、届く前に弾かれる。なら。別人として近づけばいい。B級ハンター。黒瀬蓮として。ハンターとしてなら、美月は話を聞くかもしれない。新人としてなら、先輩の忠告を受け入れるかもしれない。俺が祖父だと知らなければ、最初から拒絶されることもない。卑怯だとは思う。美桜が見ていたら、怒るかもしれない。でも、今の俺にできることは、それくらいしかなかった。
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――次回予告――
初めての実戦で窮地に陥った美月たちを救ったのは、無愛想なB級ハンター・黒瀬蓮。
圧倒的な強さに、美月は憧れを抱く。
その正体が、自分の嫌う祖父だとも知らずに――。
次回
『07. 嫌いな祖父だと知らないまま、美月は黒瀬蓮に憧れた』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




