05. おばあちゃんの手紙は、嫌いな祖父にしか読めない文字で書かれていた
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【美月視点】
ハンター登録を終えてから、妙なことが増えた。講習を受けて、登録証を受け取って、これでようやく私もハンターの一人になった。そう思っていたのに。ギルドへ行くたび、なぜか知らない人に声をかけられる。
「あなた、皐月さんのところのお孫さんでしょう?」
ギルドの廊下で、年配の職員にそう言われた。私は足を止める。皐月さん。その名前を聞いただけで、胸の奥が少しざらついた。
「違います」
「え?」
「水無瀬美桜の孫です」
そう言うと、相手は少し困ったように笑った。
「まあ、そうなんだけどね」
なんなんだろう。その反応が、余計に引っかかった。
一度だけなら、まだ偶然で済ませられた。でも、別の日には、別のハンターにも言われた。
「春日さんの孫か。頑張れよ」
「美桜おばあちゃんの孫です」
また訂正した。相手は一瞬だけ目を丸くして、それから苦笑いした。まるで、私が何かを知らない子どもみたいに。なんなんだろう。どうしてみんな、あの人の名前を出すんだ。私が尊敬しているのは、おばあちゃんだ。水無瀬美桜。地球を救う戦いに関わって、瀕死になりながらサクラさんを守った人。強くて、優しくて、最後まで誰かのために戦った人。家で暇そうにしている、歳を取らない気味の悪い祖父じゃない。
それに、変だ。ギルドの人たちは、あの人のことを知っているような顔をする。でも、誰もはっきりとは言わない。皐月さんはすごい人だとか。昔お世話になったとか。あなたは本当に知らないの、みたいな目で見られることもある。知らない。私は知らない。家にいるあの人は、いつも暇そうにしていて、何を考えているのか分からない人だ。ときどき何週間も家を空けて、帰ってきても何も説明しない。おばあちゃんが最後まで大切そうに見ていた理由も、私には分からない。分からないから、余計に腹が立つ。
その日の夜。私は、おばあちゃんが残したハンター道具を眺めていた。古いバッグ。使い込まれたナイフ。傷だらけの魔力灯。小さい頃から見たことはあった。でも、自分がハンター登録を終えたあとに見ると、少し違って見える。ただの古い道具じゃない。おばあちゃんが本当にダンジョンへ持って行ったもの。魔物と戦い、誰かを守り、生きて帰ってくるために使っていたもの。
「これ、本当に使ってたんだ……」
指先でバッグの傷をなぞる。その一つ一つに、おばあちゃんの時間が残っている気がした。
バッグの奥を探っていると、指先に紙の感触が当たった。
「……手紙?」
丁寧に畳まれた古い紙だった。開いてみる。そこには、細い文字が並んでいた。おばあちゃんの字だ。それは分かる。文字の形が違っても、筆圧や並び方に覚えがある。おばあちゃんが、昔よくメモを取っていた時の癖。でも。
「読めない……」
文字そのものが、日本語ではなかった。英語でもない。見たことのない記号のようで、それでいて、ちゃんと文章になっているようにも見える。おばあちゃん。これ、何?
私は紙を持って、母のところへ行った。
「お母さん、これ何て書いてあるの?」
母は手紙を見るなり、少し懐かしそうな顔をした。
「ああ。それ、ヴァルメリア語ね」
「ヴァルメリア語?」
初めて聞く言葉だった。
「うん」
「どこにある国?」
「分からないわ」
「分からない?」
思わず聞き返した。言語名を知っているのに、どこの国か分からない。どういうこと?
「じゃあ、どうしてヴァルメリア語って分かるの?」
「昔からよく見てたから」
「読める?」
「私は無理」
「……無理なの?」
「うん。見慣れてはいるけど、読めないの」
余計に意味が分からなかった。
「じゃあ誰なら読めるの?」
「お父さんなら読めると思うよ」
母は何でもないことのように言った。
「……お父さん?」
一瞬、自分の父の顔が浮かんだ。でも、母はすぐに首を横に振る。
「皐月お父さん。ヴァルメリア語、普通に読めるから」
「…………」
また、あの人。ギルドでも。家でも。おばあちゃんの手紙まで。どうして、全部あの人に繋がるの。私は手紙を見る。読めない文字。おばあちゃんの字。そして、それを読めるらしい祖父。
「でも……なんでおばあちゃんがヴァルメリア語を書けるの?」
「さあ。そこまでは聞いたことないなあ」
母は首を傾げた。本当に知らないらしい。それが余計に、不気味だった。
私はもう一度、読めない文字を見る。おばあちゃんの字。でも、私には読めない。母にも読めない。けれど、おじいちゃんなら読める。また、あの人。聞きたくない。関わりたくない。できれば、あの人に頼りたくなんてない。それなのに。知りたいと思ってしまった。おばあちゃんが、何を書いたのか。どうして、おばあちゃんがそんな言葉を書けたのか。どうして、あの人なら読めるのか。おばあちゃん。これ、何を書いたの?
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――次回予告――
美月が《深層適性者》だと知り、家族はハンターを続けることに反対する。
けれど、嫌われた祖父の言葉はもう届かない。
ならば皐月は――別人として、孫娘のそばに立つ。
次回
『06. 祖父の言葉は届かない。だから俺は黒瀬蓮として孫娘を守る』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




