04. 孫娘がハンター登録したうえに、サクラと同じ深層適性者でした
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【皐月視点】
久しぶりにハンターギルドへ顔を出した。別に、大した用事があるわけじゃない。頼まれていた報告書を出して、少し受付と話して帰る。そのつもりだった。ギルドの中は、昔より少し明るくなっていた。深淵王事件の直後は、どこも葬式みたいな空気だったが、今は違う。若いハンターが増え、受付前には登録講習を終えたばかりらしい連中もいる。世界は少しずつ日常を取り戻している。それは、悪いことじゃない。ただ、俺にとっては眩しすぎるだけだ。そんなことを考えながら、受付へ向かおうとした。
「……は?」
受付前に、見覚えのある後ろ姿があった。朝倉美月。俺の孫だ。なんでこいつがここにいる。付き添いか。書類か。それとも、ただの見学か。そう考えようとしたが、嫌な予感の方が先に立った。俺は近くにいた職員へ声をかける。
「……あの子、何してる?」
「今日ハンター登録された新人ですよ」
「…………」
聞いてねぇぞ。いや。そもそも最近、まともに話していない。俺の顔を見るだけで嫌そうな顔をするからな。
美月がこっちを向きそうになった。俺は反射的に顔を隠す。今、見つかるのは面倒だ。祖父として声をかければ、あいつは間違いなく嫌な顔をする。それだけならまだいい。ハンターをやめろなんて言えば、意地でも続けるだろう。俺は小さく息を吐き、魔力を薄く纏わせた。顔立ちを少し変える。年齢は五十代ぐらい。皺を増やし、髪色も少し暗くする。簡素な布で口元を隠す。
「あの、登録名は?」
職員に聞かれて、一瞬考える。
「……黒……瀬……蓮だ」
黒瀬蓮。適当に答えたにしては、悪くない。階級も、普段使っている偽装登録のB級にしておく。祖父ではなく。春日皐月でもなく。ただのB級ハンターとして、そこに立つ。
そして、美月を見る。嫌な予感が消えない。ただハンター登録をしただけなら、まだいい。いや、よくはないが、最悪ではない。だが、もし――。俺はほんの少しだけ魔力を伸ばした。美月のステータスを覗く。次の瞬間。
「……っ」
美月が突然、肩を震わせた。
「なに……今の。気持ち悪っ」
周囲を見回している。まだ分からないか。新人なら当然だ。だが、反応した。ただの初心者なら、俺の魔力に気づくことすらできない。俺は表示されたステータスへ目を戻した。そして――止まった。
【状態:深層適性者】
「……マジかよ」
思わず声が漏れた。サクラと同じ。よりにもよって、美月が。深層適性者。それは、ただの才能じゃない。ダンジョンの奥に引き寄せられる者。深層に呼ばれる者。魔物や罠や、普通なら避けられるはずの異常に好かれる者。俺はこの文字の意味を知りすぎている。サクラがどれだけ巻き込まれたか。どれだけ狙われたか。知っている。だからこそ、偶然で片付ける気にはなれなかった。
ハンターなんてやめさせるか。最初にそう思った。だが、すぐに無理だと分かる。俺が言えば、あいつは意地でも続ける。美月は俺を信用していない。祖父として慕っていない。たぶん、今でも気味が悪いと思っている。美桜が死んだ日。あいつは俺を見て、言った。なんで、おじいちゃんだけ歳を取らないの。あの時の目を、俺は覚えている。悲しみよりも、恐怖が混じった目。そんな相手に、ハンターをやめろと言われたところで、聞くわけがない。むしろ逆だ。絶対に反発する。
少し考えて、美月を見る。あいつは受付で説明を受けている。新人らしく、表情は硬い。それでも、その目には妙な強さがあった。美桜に似ている。そう思った瞬間、胸の奥が少し痛んだ。美桜。お前の孫が、とんでもないものを持ってやがるぞ。俺は小さく息を吐いた。
「……仕方ねぇな」
祖父として止めるのは無理だ。春日皐月として近づいても、拒絶される。なら。B級ハンター、黒瀬蓮として。まずはこいつに近づく。ハンターとして、危険を教える。深層適性者として、ダンジョンに呑まれないように見張る。嘘をつくことになる。それでも、放っておくよりはマシだ。春日皐月ではなく。祖父でもなく。B級ハンター、黒瀬蓮として。まずは、こいつに近づくことにした。
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――次回予告――
祖母・美桜が遺した、見たこともない文字で書かれた手紙。
母にも読めないその言葉を読めるのは――美月が最も頼りたくない、あの祖父だけだった。
次回
『05. おばあちゃんの手紙は、嫌いな祖父にしか読めない文字で書かれていた』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




