55. B級。その言葉が、急に遠くなった
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【美月視点】
星守が、また動いた。
「来る!」
「下がれ!」
師匠が前へ出る。次の瞬間、ものすごい音が響いた。拳。蹴り。衝撃。白い影が揺れたと思ったら、師匠の姿も消える。速すぎて、私にはほとんど見えない。ただ、音だけが遅れて届く。空気が割れる。床に光が走る。星守の身体が横へずれる。そして、また師匠が前にいる。
「……」
さっきより。師匠の動きが速くなっている。ような気がする。気のせいじゃない。たぶん。まだ、師匠は何かを隠している。
【皐月視点】
星守の腕を弾く。速い。だが、追えないほどじゃない。懐へ入る。一撃。さらにもう一撃。白い身体に、ひびが走る。
「これでどうだ」
最後に、蹴り飛ばす。星守が、床を滑っていく。数本の光の管をかすめ、白い身体が壁際で止まる。そのまま、動かなくなった。壊した。そう言い切るには、手応えが薄い。だが少なくとも、目の前の一体は止まった。俺は息を整えながら、美月の位置を確認する。まだ後ろにいる。よし。だが、嫌な予感は消えなかった。
【美月視点】
「倒した?」
「たぶんな」
「たぶん!?」
「油断すんな」
私は、倒れた星守を見る。さっきまで、あんなに怖かったのに。今はもう動かない。白い身体にひびが入り、光が少しずつ薄くなっている。
「師匠」
「何だ」
「やっぱり強いですね」
「今さらか」
「B級ってすごい……」
「……」
「何です?」
「いや」
「別に」
師匠が、なぜか少しだけ目を逸らした。変なの。褒めたのに。でも、今の師匠は確かにすごかった。B級ハンターって、こんなに強いんだ。そう思った。もちろん、この時の私はまだ知らない。それが、かなり間違った感想だったことを。
その時。低い音。ゴォン――。
「……また?」
奥の暗闇に、光が灯る。一つ。二つ。三つ。
「師匠」
「見えてる」
「増えてません?」
「ああ」
ゆっくり、星守がまた現れる。さっき倒れたものと同じ。白い鎧のような身体。目も口もない顔。ただ、排除するためだけに作られたみたいな人型。
「さっきの倒した意味ある?」
「あると思いてぇな」
《保全処理継続》
《不足個体を補充》
「補充?」
私は思わず、文字を見る。
「不足って」
「倒されたから?」
「そうだろうな」
さらに、別の星守。また一体。
「これ」
「終わらなくない?」
師匠が、何も言わない。その沈黙が、答えだった。
【皐月視点】
やっぱり、単なる番人じゃない。一体倒せば、次が出る。足りなくなれば、補充される。誰かが作っている。いや。何かが、必要な数を自動で揃えている。星守そのものに意思はない。動きにも迷いはない。ただ命令に従い、足りなければ増える。なら、こいつらを倒し続けても意味がない。
「美月」
「はい」
「こいつら相手にしてても終わらねぇ」
「私もそう思います」
「本体を探す」
「本体?」
「ああ」
「こいつらを出してるやつだ」
その瞬間。空間全体が、大きく光った。
《星継ぎ保全機構》
「……」
《管理処理継続》
《外部干渉排除》
さらに、文字が変わる。
《星継ぎ管理機構》
「……星継ぎ」
「管理機構?」
美月が読む。
「ああ」
「これが」
「ここの名前?」
「たぶんな」
星継ぎ管理機構。星継ぎを保全し、管理し、外部からの干渉を排除する場所。名前だけなら、役割は分かる。だが問題は、何を基準に管理しているかだ。サクラという人間を見ているのか。星継ぎという機能だけを見ているのか。答えは、もう出かけていた。
【美月視点】
星継ぎ管理機構。名前が、はっきり出た。
「じゃあ」
「星守は」
「この管理機構が出してる?」
「そういうことだろ」
「管理って」
私は、奥を見る。
「サクラ様を?」
「たぶんな」
「……」
また、嫌な感じがする。守る。じゃなく。管理。その言葉は、サクラ様を人として扱っている感じがしなかった。まるで、装置の一部みたいに。機能の一つみたいに。その時、さらに文字が浮かぶ。
《星継ぎ状態――正常》
《地球接続――維持》
《管理処理――継続》
「ほら」
私は言う。
「やっぱり」
「サクラ様をずっと維持してる」
「そう見えるな」
「でも」
「なんで?」
師匠は、答えない。まだ、分からないから。でも私は思う。何十年も眠っている人を。正常。そう表示するこの場所は、やっぱりどこかおかしい。
星守が、また動く。一体。二体。三体。白い人型が、同時にこちらへ向く。目もないのに、視線だけが重い。
「師匠」
「何だ」
「これ全部相手するの?」
「今のままじゃな」
「無理じゃない?」
「お前はな」
「師匠は?」
「……」
「なんで黙るの」
その沈黙は、変だった。無理なら無理と言えばいい。危険なら危険と言えばいい。でも師匠は、黙った。まるで。できるけれど、やりたくない。そう言っているみたいだった。
【皐月視点】
正直、少し面倒になってきた。こいつら、硬い。速い。そして、増える。一体ずつならどうとでもなる。だが、美月を守りながら、黒瀬蓮として手加減したまま、いつまで続ける?長引けば長引くほど、美月が危ない。星守を倒し続けても終わらない。本体を探すにしても、このままでは邪魔が多すぎる。
「……そろそろ」
少し、力を出すか。全部じゃない。まだ、見せるわけにはいかない。だが、美月を守るためなら。少しくらいは仕方ねぇ。
【美月視点】
師匠が、急に静かになった。
「師匠?」
「美月」
「はい」
「絶対」
「俺の後ろから出るな」
「……分かった」
いつもの軽い命令とは違った。だから私も、ふざけて返せなかった。
「あと」
「何?」
「驚くなよ」
「え?」
師匠が、一歩、前へ出る。その瞬間、空気が変わった。
「……何」
さっきまでと、全然違う。肌がざわつく。胸の奥が、ぎゅっと掴まれる。怖い。でも、敵じゃない。師匠だ。私の前に立っているのは、間違いなく師匠なのに。その背中が、さっきまでよりずっと遠く見えた。
「師匠」
「何ですか、それ」
返事はない。星守たちが、一斉に師匠へ向かう。
星守たちが、一斉に師匠へ向かう。一体でも、私には見えなかった相手。それが三体。同時に。でも師匠は、動かなかった。いや。動いていないように見えただけだった。師匠の足元から、黒い魔力のようなものが静かに揺れる。管理領域の光が、ほんの少し歪んだ。
「……」
何これ。B級。そんな言葉が、急に遠くなる。私は、息をすることも忘れていた。そして次の瞬間。私は初めて。師匠の本当の強さの一端を。見ることになった。
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――次回予告――
倒しても、壊しても。
《星守》は何度でも再形成される。
一方の皐月も、魂糸共鳴のせいで無限に力を振るえるわけではない。
このまま戦い続ければ、先に消耗するのは皐月の方。
ならば狙うべきは、星守ではなく――
“星守を何度でも戻している何か”。
次回
『56. 無限に戻る星守と、無限には力を出せない大悪魔』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




