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53/66

53. 守るでも救うでもない。サクラ様は“維持”されていた

いつも応援ありがとうございます!


当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


今回もぜひ、最後までお楽しみください!

【美月(みづき)視点】

 《許可――》

 一瞬、文字が止まり。

 《……否》

 その直後。空間の奥で、何かが動き始めた。

「師匠」

「ああ」

「これ、入っちゃ駄目って意味ですよね?」

「たぶんな」

「じゃあ」

 師匠がこちらを見る。

「帰るか?」

「……行きます」

「だと思った」

 怖くないわけじゃない。むしろ、かなり怖い。でも、ここで帰るのは違うと思った。サクラ様を見た。手にも触れた。あの人は温かかった。生きていた。それなのに、まだ起きない。その理由が、この奥にあるかもしれない。なら、見ないわけにはいかなかった。



【皐月(さつき)視点】

 入口の前で、俺は一度、星継(ほしつ)ぎ核を見る。淡い光を放つ巨大な核。そのすぐ奥に開いた、見知らぬ領域。近い。だが、まるで別物だ。

「大賢者」

『はい』

「この先、分かるか?」

『いいえ』

「やっぱりか」

『その領域は、私の認識範囲外です』

「中に入ったら?」

『おそらく』

『私との会話もできなくなるでしょう』

「完全に別領域ってことか」

『その可能性があります』

「分かった」

 ここから先は、大賢者の補助もない。星継ぎ核の内側にあるはずなのに。星継ぎ核に属していない場所。嫌な話だ。俺は美月を見る。

「行くぞ」

「はい」


 二人で、管理領域へ入る。一歩。二歩。進むたび、周囲に光が灯っていく。

「……何これ」

 美月が見上げる。巨大な柱。何本もの光の管。床の下を流れる、脈みたいな光。それらは機械のようでもあり、生き物の血管のようでもあった。冷たい構造物のはずなのに、どこか呼吸しているように見える。そして。それらすべてが、一つの方向へ繋がっている。

「師匠」

「何だ」

「あれ」

 美月が指さす。巨大な光の流れ。その先。

「星継ぎ核の方に繋がってません?」

「ああ」

「たぶんな」


「大賢者」

 呼んでみる。返事はない。

「……」

「大賢者さん?」

 美月も呼ぶ。何も返ってこない。

「本当に聞こえない」

「ああ」

「じゃあ」

 美月が周囲を見回す。

「ここ、大賢者さんでも分からない場所なんだ」

「そういうことだ」

 星継ぎ核の奥にある。なのに、星継ぎ核の中にいる大賢者すら認識できない。星継ぎの仕組みの中にあるようで。星継ぎの仕組みより、さらに古い。そんな場所に思える。

「気持ち悪いな」

「師匠でもそう思うんですね」

「そりゃ思う」


 さらに進む。巨大な機構は、静かに動き続けている。音はほとんどない。ただ、光だけが流れている。

「これ」

 美月が言う。

「機械なんですか?」

「分からん」

「でも動いてる」

「ああ」

 光が流れる。集まる。送り出される。その流れの一部が、星継ぎ核へ続いている。まるで、この場所が星継ぎ核の奥で、何かを送り続けているみたいに。

「……サクラ様?」

 美月が呟いた。

「何?」

「この光」

「サクラ様の方に送ってるように見えません?」

「俺もそう見える」

 認めたくない。だが、そう見える。ここは星継ぎ核と切り離された場所じゃない。むしろ、星継ぎ核を奥から動かしている場所かもしれない。



【美月視点】

 嫌な感じがした。さっき見た、眠るサクラ様。身体から伸びる、細い魂の糸。星継ぎ核。そして今、そのさらに奥にある巨大な機構。光は流れている。集められている。送り出されている。その先に、星継ぎ核がある。星継ぎ核の向こうには、サクラ様がいる。

「もしかして」

「これ」

「サクラ様を維持してる?」

 師匠が、少し黙った。

「可能性はある」

「維持……」

 その言葉が、妙に引っかかった。守る、じゃない。救う、でもない。維持。サクラ様を、生かしている。でも、起こしてはいない。人としてじゃなく、星継ぎとしてそこに置き続けるために。そんな感じがして、胸の奥が嫌に冷たくなった。


 さらに奥へ。今まで暗かった場所が、一つ、また一つ、明るくなる。巨大な輪。何重にも重なる光。その中心から、大量の光が流れ出している。川というより、血流に近い。いや、星の奥で巡っている何かを、そのまま見せられているみたいだった。

「師匠」

「ああ」

「これ」

「星継ぎ核とは別物ですよね?」

「たぶんな」

「でも」

「星継ぎ核に繋がってる」

「ああ」

「じゃあ」

 私は考える。

「星継ぎ核を」

「外側から動かしてる?」

「……かもしれねぇ」

 師匠の声が低くなる。それは、ただの発見ではなかった。星継ぎ核が一番奥にあるわけではない。星継ぎ核は、何かによって動かされている。その可能性が出てきた。


 その時。周囲の光が、一斉に止まった。

「……え?」

「美月」

「はい」

「動くな」

 低い音。ゴォン――。空間全体が、脈打った。

 《外部個体を確認》

「来た」

 目の前に、光の文字が浮かぶ。

 《個体情報照合》

 《個体一》

 光が、師匠の身体をなぞる。頭から、足元まで。表面ではなく、もっと奥を見られているような感覚があった。

 《深層適性者》

「師匠ですね」

「ああ」

 次。光が、私へ向く。

 《個体二》

 《深層適性者》

「私も」

「ああ」

 ただ名前を確認されているわけじゃない。何かもっと深い部分。魂とか。接続できるかどうかとか。そういうものを見られている気がした。


 《接続可能個体――二》

 《侵入経路照合》

 《許可情報――なし》

「やっぱり不法侵入じゃん」

「今さらだな」

「怒られません?」

「怒られるだけならいいけどな」

「それ怖いやつ!」

 でも、まだ何も襲ってこない。魔物が出てくるわけでもない。罠が発動するわけでもない。ただ、調べられている。その方が、かえって怖かった。ここが本当に管理領域なら。私たちは今、管理する側に見つかったのかもしれない。


 《接続可能個体を再照合》

 《星継ぎへの干渉可能性》

 《算出中》

「……」

「師匠」

「何だ」

「私たち」

「めちゃくちゃ見られてません?」

「ああ」

 さっきまで、ただ静かに動いていた巨大な機構。それが今、明らかに私たちを意識している。視線なんてない。目もない。それなのに、逃げ場がないほど見られている。

 《干渉可能性――高》

「高いんだ」

「深層適性者だからだろうな」

 それは、希望にも聞こえた。星継ぎに干渉できる可能性がある。つまり、サクラ様を救う方法に近づいているのかもしれない。でも。次に浮かんだ文字で、その気持ちはすぐに冷えた。

 《星継ぎ保全への影響を判定》

「保全……」

 また、嫌な言葉。守る、ではない。助ける、でもない。保全。星継ぎという機能を壊さないための言葉。師匠が、少しだけ前へ出る。

「美月」

「はい」

「俺から離れるな」

「分かりました」


 まだ、敵は出ていない。何かに襲われたわけでもない。でも、確実に何かが変わった。今まで眠っていた機構が。私たち二人を、初めて認識した。接続可能個体。深層適性者。星継ぎへの干渉可能性、高。それは、こちらにとっては希望かもしれない。でも、この場所にとっては。危険な異物として見られているのかもしれない。師匠の背中が、私の前にある。いつもより少しだけ広く見えた。私は、その背中の後ろで息を殺す。その判断が。良い方向へ進んでいるようには。到底思えなかった。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださっている方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

第一章も楽しんでいただけていたら嬉しいです!


面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、第三部を最後まで駆け抜ける凄まじいエネルギーになります!


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――次回予告――

管理領域が守ろうとしていたのは、サクラ本人ではなかった。


《星継ぎ保全》

そのためなら、干渉する者を排除する――。

そして現れたのは、星継ぎを守るためだけに動く存在《星守》。


“サクラを守る”ことと、“星継ぎを守る”こと。

その二つは、決して同じ意味ではなかった。


次回

『54. “サクラ様を守る”と“星継ぎを守る”は、同じ意味じゃなかった』


次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!

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