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50. サクラ様のことも、この場所のことも。師匠は知りすぎている

いつも応援ありがとうございます!


当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


今回もぜひ、最後までお楽しみください!

【美月(みづき)視点】

「私も行く」

「駄目だ」

「なんで!」

 即答だった。師匠は本当に腹が立つ。

「危険だからだ」

「それ、毎回言ってますよね」

「毎回危険だからな」

「じゃあ私はいつになったら強くなるんですか!」

 師匠がため息をつく。今日は、いつものダンジョンじゃない。もっと深い。もっと特別な場所。サクラ様が眠っている場所を調べるらしい。

「私、深層適性者なんですよね?」

「ああ」

「だったら関係あるかもしれないんでしょ?」

「……」

「連れてってください」

 師匠は黙った。



【皐月(さつき)視点】

 正直、連れていきたくない。黒瀬蓮(くろせれん)の姿のまま、俺は美月を見た。星継(ほしつ)ぎの間は、普通のダンジョンとは違う。通常の階層とはまるで別物だ。何が起きるか。俺にも分からない。まして、美月は深層適性者だ。ダンジョンや異常に好かれすぎる。そんなやつを、あの場所に連れていく。普通に考えれば、正気じゃない。

「継真(けいま)」

「僕は連れていくべきだと思いますよ」

「お前な」

「今回調べるのは、美月ちゃんの深層適性と関係する可能性があります」

「だから危ねぇんだろ」

「でも」

 継真が俺を見る。

「皐(さ)――」

「おい」

 美月がいる。危ねぇ。継真もすぐに口を閉じた。

「……黒瀬さんだけでは、分からないこともある」

「言い直しが下手すぎるだろ」

「とにかく」

 継真が続ける。

「今回は美月ちゃんも同行」

「やった!」

「喜ぶな」

 俺は短く言った。本当に、何も分かってねぇ。



【美月視点】

「で、どこに行くんです?」

「ダンジョン」

「それは分かってます」

「かなり深い」

「何階?」

「階層じゃねぇ」

「え?」

 師匠が歩き出す。いつもの管理区域。そのさらに奥。普段は絶対に入れない場所。ギルド職員ですら、入れる人は限られているらしい。扉をいくつも抜ける。認証を何度も通す。空気が少しずつ冷たくなっていく。

「ここから先は」

 天羽(あもう)総帥が言う。

「なにもない……けど秘密の場所がある」

「そんな場所あるんですか?」

「ある」

 師匠が答える。

「黒淵階(こくえんかい)だ」

「……こくえんかい?」

「黒い淵の階」

「初めて聞いた」

「そりゃそうだ」

「師匠はなんで知ってるんです?」

「……」

 また黙った。

「師匠?」

「昔、来たことがある」

「いつ?」

「昔だ」

「それ答えになってない!」


 進むほど、空気が変わっていく。静か。なのに、落ち着かない。音が消えているというより、音を吸われているみたいだった。壁も床も普通に見える。でも、普通じゃない。何かに見られているような感じがする。魔物の視線とは違う。人の視線とも違う。もっと大きくて。もっと深いものに、上からではなく下から見上げられているような感覚。

「……嫌な場所」

「今さら帰るか?」

「帰りません」

「じゃあ前見ろ」

「はい」

 そう返事をしたけれど、足の裏が少し冷たかった。


 しばらく歩いて。私は足を止めた。

「……何これ」

 目の前に、黒い空間が広がっていた。底が見えない。壁もない。天井も分からない。どこまで続いているのか分からない。ただ黒い。でも、何もないわけじゃない。そこには確かに、何かがあった。深い。暗い。触れてはいけないものみたいな、黒い淵。

「ここが」

 師匠が言う。

「黒淵階だ。深層適性者が近づくと開く」

「この先に」

 私は息を飲む。

「サクラ様がいるんですか?」

「ああ」

「……本当に?」

「本当だ」

 胸が、少しだけ速くなる。女神サクラ。世界を救った人。ずっと眠り続けている人。教科書で見た。ニュースで聞いた。女神教が崇めていた。師匠が、起こしたいと願っている。その本人が、この先にいる。


「行くぞ」

 師匠が先に進む。

「待って」

「何だ」

「師匠」

 私は聞いた。

「なんでそんなに詳しいんです?」

「……」

「サクラ様のことも。この場所のことも。昔から知ってるみたいに話す」

 師匠が振り返る。黒い布の奥で、目だけがこちらを見る。

「気になるか?」

「気になります」

「じゃあ」

 少しだけ笑う。

「生きて戻ったら教えてやる」

「なにそれ!」

「冗談だ」

「笑えない!」

 本当に笑えない。でも、師匠はそれ以上何も言わなかった。そのまま、黒い闇の中へ進んでいく。私は、その背中を追った。


 黒淵階。サクラ様が眠る場所へ続く、黒い淵。私は、師匠の背中を追う。怖い。でも、足は止まらなかった。この先に、サクラ様がいる。世界を救って、今も眠り続けている人がいる。そして。師匠は、その人のことを知りすぎている。何かを隠している。ずっと前から、それは分かっていた。でも。この時の私はまだ知らなかった。この先で。サクラ様だけじゃなく。師匠についても。大きな秘密を知ることになるなんて。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださっている方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

第一章も楽しんでいただけていたら嬉しいです!


面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、第三部を最後まで駆け抜ける凄まじいエネルギーになります!


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――次回予告――

世界を救った少女は、神でも伝説でもなかった。


温かい手を持ち、今も生きている――ただ一人の少女。

けれどその魂は地球へ繋がれ、何十年ものあいだ眠り続けている。


そして美月は気づく。

サクラは世界を救ったのに、まだ誰にも救われていないのだと。


次回

『51. 世界を救った少女は、まだ誰にも救われていなかった』


次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!

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