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49/62

49. だって私は、もう一度ただいまと言いたかったから

いつも応援ありがとうございます!


当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


今回もぜひ、最後までお楽しみください!

【美月(みづき)視点】

「続き……」

 私はまた、美桜(みお)おばあちゃんの部屋にいた。もう慣れてきた。というか。ここまで来たら、最後まで見つけないと気が済まない。前の手紙は、また一番気になるところで終わっていた。地球へ帰る道は見つけた。でも、一人では境界を越えられなかった。そこで終わり。そんなの、気にならないわけがない。

「どこに隠したの……」

 机。本棚。古いハンター用品。写真。前に見つけた木箱。全部もう一度調べる。

「……ん?」

 木箱の底。布をめくると、薄い紙が一枚挟まっていた。

「まさか」

 取り出す。ヴァルメリア語。

「あった!」


「おじいちゃん!」

「今度は何だ」

「最後っぽい!」

「何が」

「手紙!」

「また見つけたのか」

「読んで!」

「お前、最近俺の扱いが翻訳機になってねぇか?」

「ヴァルメリア語読める人がおじいちゃんしかいないから」

「まあいいけどよ」

 文句を言いながらも、おじいちゃんは手紙を受け取った。そして、少し目を細める。

「……これで最後っぽいな」

「本当?」

「ああ」

「じゃあ早く!」


 前回まで。美桜おばあちゃんは、ヴァルメリアでミレイアという伯爵令嬢として生まれ変わった。二十代後半で、地球での記憶を取り戻した。そして、地球へ帰る方法を何年も探した。勇者が残した転移陣。かつてダンジョンが地球へ送られた時にできた、二つの世界を繋ぐ道。そこまで辿り着いた。でも、道を開けなかった。

「その続き?」

「ああ」

 おじいちゃんが読む。

「『転移陣を見つけたあと』」

「『私は、その陣について知る者を探しました』」

「知ってる人いたの?」

「いた」

「誰?」

 おじいちゃんが少し笑う。

「勇者アシェル」

「勇者本人!?」

「ああ」

「まだ生きてたの!?」

「アシェルは不死だからな」

「……すご」

「もう一人いる」

「誰?」

「神官リフィ」

「その人も?」

「不老だ」

「ヴァルメリア、すごい人多すぎない?」

「まあな」


 おじいちゃんが続きを読む。

「『アシェル様とリフィ様は、その転移陣を知っていました』」

「『いいえ』」

「『知っているどころではありませんでした』」

「『かつて、その転移陣を使ったことがあったのです』」

「誰を送ったの?」

 おじいちゃんが少しだけ間を置く。

「サクラ」

「え?」

「真里」

「それと」

 おじいちゃんが続ける。

「黒狼」

「黒狼?」

「ああ」

「何それ」

「昔、一緒にいたやつだ」

「ワンコ?」

「……まあ」

「なんでちょっと嫌そうなの」

「別に」

 気になる。ものすごく気になる。でも、それを聞くと話が進まなそうなので、今はやめておくことにした。


「その三人を、地球に?」

「ああ」

「成功したんだ」

「した」

「じゃあ!」

 私は手紙を指さす。

「おばあちゃんも同じ方法で帰ればいいじゃん」

「美桜もそう思った」

「でも?」

「同じ状態じゃなかった」

 おじいちゃんが続きを読む。

「『お二人から聞いた話で』」

「『私は初めて知りました』」

「『この転移陣には、一度』」

「『地球へ人を送り届けた実績があることを』」

「『佐倉(さくら)サクラ』」

「『天羽真里(あもうまり)』」

「『そして、一頭の黒狼』」

「やっぱ黒狼って書いてある」

「ああ」

「有名なの?」

「それなりにな」

「ふーん」

 そこは、妙にごまかされた気がした。でも、おじいちゃんはすぐ続きを読んだ。

「『同じ方法を再現することはできませんでした』」

「なんで?」

「『世界を繋いでいた状態が、当時とは変化していたからです』」

 地球へダンジョンが移送された時。二つの世界には、道が作られた。サクラ様たちが帰還した時には、まだその道を利用できた。けれど年月が経ち、経路はさらに細く、閉じようとしていた。

「じゃあアシェルさんたちでも無理?」

「ああ」

「不死の勇者でも?」

「不死と転移は関係ねぇ」

「でも何でもできそう」

「できねぇよ」


 手紙は続く。

「『それでも、私は諦めませんでした』」

「やっぱり」

「美桜だからな」

「それ便利な説明になってない?」

「だいたい合ってる」

 おじいちゃんが読む。

「『アシェル様とリフィ様にも協力していただき』」

「『転移陣を何度も調べました』」

「『地球へ続く座標を探し』」

「『残された世界間経路へ接続する方法を探しました』」

「『時間はかかりました』」

「『それでも』」

「『帰れないとは、一度も思いませんでした』」

「強い……」

「『皐月がいるからです』」

「またおじいちゃん」

「悪いか」

「ちょっと嬉しそう」

「読むぞ」

「誤魔化した」

 でも、本当に少しだけ。おじいちゃんの横顔が柔らかくなった気がした。


「『そして』」

 おじいちゃんの声が止まった。

「何?」

「ここだ」

「何が?」

「美桜が帰ってきた時の話」

 私は黙って続きを待つ。

「『ある日』」

「『世界が大きく揺れました』」

「『ヴァルメリアそのものではなく』」

「『もっと遠くにある何かが変わったような』」

「『不思議な感覚でした』」

「遠く?」

「ああ」

「『同時に』」

「『閉じていた地球への経路が、わずかに反応しました』」

 私は気づいた。

「それって……」

「サクラだ」

「サクラ様?」

「ああ」

 おじいちゃんが言う。

「サクラが星継(ほしつ)ぎになった時だ」

 地球で、サクラ様が星継ぎになった。地球そのものと接続した。その大きな変化が、閉じかけていたヴァルメリアと地球の間の経路にまで届いた。そう考えると、星継ぎというものがどれだけ大きな存在なのか、少しだけ分かった気がした。


「じゃあ、その時なら帰れた?」

「まだ足りなかった」

「まだ!?」

 私は思わず叫んだ。

「どれだけ帰れないの!」

「世界越えるんだぞ」

「そうだけど!」

 おじいちゃんが続きを読む。

「『道は見えました』」

「『転移陣も動きました』」

「『けれど』」

「『境界を越えるには、ほんの少しだけ力が足りませんでした』」

「……」

「『その時です』」

 おじいちゃんが一度、息を止めた。

「『声が聞こえました』」

「声?」

「『聞き覚えのない女性の声でした』」

「誰?」

 おじいちゃんは、静かに答えた。

「女神ヴァルメリア」

「……女神様?」

「ああ」


「『女神は、多くを語りませんでした』」

「『ただ』」

「『帰りたいのですね』」

「『そう聞かれました』」

「『私は答えました』」

「『はい』」

「『何があっても』」

「『私は皐月のところへ帰ります』」

 私は何も言わなかった。その言葉が、あまりにも真っ直ぐだったから。

「『その瞬間』」

「『閉じていた道が開きました』」

「『ほんの一瞬だけ』」

「『地球へ続く道が』」


「女神様が帰してくれた?」

「最後だけな」

「最後だけ?」

「ああ」

「そこまで全部やったのは美桜だ」

 転移陣を探した。資料を調べた。勇者と神官に辿り着いた。世界間経路を見つけた。何年も、地球へ帰る方法を探し続けた。

「女神は」

 おじいちゃんが言う。

「最後に足りなかった力を貸しただけだ」

「……そっか」

 だから。奇跡だけで帰ってきたわけじゃない。美桜おばあちゃん自身が。帰るところまで、ほとんど辿り着いていた。


「最後」

 おじいちゃんが言った。

「まだある」

「読んで」

「『春香(はるか)』」

 お母さんの名前。

「『もしあなたが、この手紙を読んでいるなら』」

「『覚えておいてください』」

「『私は二度、生きました』」

「『水無瀬(みなせ)美桜として』」

「『ミレイア・フォン・エルシアとして』」

「『どちらも私です』」

「……」

「『そして』」

「『二度目の人生を捨てたとは思っていません』」

「『ミレイアとして生きた時間も』」

「『出会った人たちも』」

「『私の大切な人生です』」

 私は、少しだけ安心した。向こうの家族や人生を、全部どうでもいいと思って、地球へ帰ってきたわけじゃなかった。おばあちゃんは、二つの人生を持っていた。どちらかを捨てたわけじゃない。そのうえで、最後に帰る場所を選んだ。

「『それでも私は』」

「『最後に自分で帰る場所を選びました』」

「『皐月(さつき)のいる地球を』」


 おじいちゃんが黙った。

「終わり?」

「あと一行」

「何?」

 おじいちゃんは、しばらく、その一行を見ていた。

「おじいちゃん?」

「……」

「読まないの?」

「読むよ」

 そして、小さく笑った。

「『だって私は』」

「『帰った時に、もう一度ただいまと言いたかったから』」

「……」

 手紙は、そこで終わっていた。


 私は、昔の写真を思い出した。外国人そのものみたいな、美桜おばあちゃん。その隣にいる。何十年経っても、ほとんど見た目が変わらないおじいちゃん。昔から、それが不気味だった。

「ねえ」

「何だ」

「おじいちゃんってさ」

「ああ」

「本当に歳取ってるの?」

「取ってるよ」

「全然変わってないじゃん」

「人より遅ぇだけだ」

「何歳まで生きるの?」

「知らん」

「不死身?」

「違う」

「でも死ななそう」

「普通に死ぬ時は死ぬ」

「……なんか気味悪い」

「お前、最近ちょっとマシになったと思ったらそれかよ」

「だって本当だもん」

「はいはい」

 相変わらず、変な人だ。でも。前ほど、それだけで嫌だとは思わなくなっていた。


「ねえ」

「何だ」

「おばあちゃんが地球に帰ってきた時」

「ああ」

「本当に言ったの?」

「何を」

「ただいま」

 おじいちゃんが少しだけ笑う。

「ああ」

「おじいちゃんは?」

「……」

「何て言ったの?」

「覚えてねぇ」

「絶対嘘」

「うるせぇ」

 私は笑った。前なら、こんなふうに聞かなかったと思う。おじいちゃんの昔の話なんて、知りたいとも思わなかった。でも今は。少しだけ、知りたいと思っていた。



【皐月視点】

 美月が、美桜の手紙を大事そうにしまう。その仕草を、俺は黙って見ていた。

「ねえ、おじいちゃん」

「何だ」

「今度」

「ああ」

「サクラ様のことも教えて」

「……」

 思わず、美月を見る。

「おじいちゃんが知ってるサクラ様」

「何?」

「いや」

「別に」

 美月はまだ知らない。俺が何者なのか。昔、どうやって生きてきたのか。なぜ、こんなに長く生きているのか。もちろん、黒狼のことも。サクラにとってのクロが、俺だったことも。こいつはまだ知らない。それでも。美月は、サクラを知りたいと言った。女神としてではなく。俺が知っている、一人のサクラを。

「そのうちな」

「またそれ?」

「話が長ぇんだよ」

「じゃあ少しずつでいい」

「……分かったよ」

「約束ね」

「ああ」


 その夜。俺は、サクラの眠る星継ぎの間にいた。

「サクラ」

 手を握る。温かい。昔から変わらない。眠っているだけだ。そう思いたいほどに。

「美桜のやつ」

「死んでも世界越えて帰ってきたぞ」

『……』

 眠るサクラは答えない。それでも、俺は続ける。

「だったら」

 俺は笑った。

「お前を起こすくらい」

「できねぇはずねぇよな」

 地球には、昔、神がいた。その神は消えた。地球は、代わりとなる存在を必要とした可能性がある。その結果、深層適性者だったサクラが星継ぎになった。そして今。地球の奥では、消えたはずの神性が少しずつ強くなっている。

「大賢者」

『はい』

「地球がサクラを必要とする割合は?」

『以前より、さらに僅かに低下しています』

「やっぱりか」

 地球は、少しずつ。サクラなしでも生きられるようになっている。なら、次に調べるべきことは一つ。

「昔の神が」

「なんでいなくなったのか」

 そして。

「今、地球の底で反応してる神性が」

「本当にそいつなのか」

 そこまで分かれば。サクラを解放する方法に、届くかもしれない。世界を救った少女を。今度こそ。世界から取り戻すために。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださっている方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

第一章も楽しんでいただけていたら嬉しいです!


面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、第三部を最後まで駆け抜ける凄まじいエネルギーになります!


(星は1つからでも、ポチッと気軽に押していただけると大喜びします!)


――次回予告――

サクラが眠る場所へ続く、《黒淵階》。


初めて足を踏み入れる美月とは違い、師匠はその場所を知りすぎていた。

サクラのことも。黒淵階のことも。そして、何十年も前の出来事まで――。


美月の中で、黒瀬蓮への疑問がついに無視できないほど大きくなっていく。


次回

『50. サクラ様のことも、この場所のことも。師匠は知りすぎている』


次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!

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