46. サクラは、神がいなくなった地球の代わりをさせられているのか
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【皐月視点】
美桜の手紙のことがあってから数日。黒瀬蓮の姿のまま、俺は再びギルド本部へ来ていた。
「今日は何だ?」
「前に見てもらった古代語の記録」
継真が端末を置く。
「もう一度、全部整理した」
「新しいのが見つかったわけじゃねぇんだろ?」
「もちろん」
「ならいい」
都合よく古代遺物が増えるわけじゃない。今あるものだけ。昔から発見され、保管されてきた少数の遺物。そして、翻訳スキルによって、すでに意味だけは分かっていた断片。
「ただ」
継真が言う。
「前は意味の分からない単語の並びにしか見えなかったものがある」
「……今は違うと?」
「うん」
「星継ぎ。管理者。地球を支える仕組み」
継真が端末を操作する。
「そこまで分かった今なら、無関係だと思われていた断片同士が繋がる可能性がある」
「どれだ?」
【美月視点】
「また古代語?」
「嫌なら帰れ」
「嫌とは言ってません!」
口ではそう言ったけれど、実は前ほど嫌ではない。古代文明。星継ぎ。管理者。分からないことばかりだけど、少しずつ繋がっていく感じは嫌いじゃなかった。今日は例の翻訳スキルの人も来ていた。机の上に並んでいるのは、新しい発見じゃない。以前から残されていた翻訳記録だった。『星』『生命』『循環』『管理者』『器』『選ぶ』何度見ても、気になる言葉ばかり。
「これ、前にも見ましたよね?」
「そう」
天羽総帥が一つの記録を開く。
「ただ、当時は重要視されなかった断片がある」
「なんで?」
「短すぎたんだ」
画面を見る。確かに小さい。石板というより、ほとんど破片だった。欠けた石の端に、わずかに文字が残っているだけ。
「これも前に翻訳してるんですか?」
「ああ」
「じゃあ、何で今さら?」
「単語そのものは昔から分かっていた」
天羽総帥が答える。
「だが、文章になっていない。前後もほとんど欠けている」
「つまり?」
「意味は読めても、何について書かれていたのか分からなかった」
なるほど。単語だけ分かっても、それが重要かどうかまでは分からない。
「読んでもらえますか?」
「はい」
翻訳スキルの男性が石片を見る。
「以前と結果は変わりません」
「何て?」
男性が指をさす。
「ここが――『管理者』」
「はい」
「その下は欠損しています」
そして。少し離れた場所に残る、もう一つの文字。
「こちらが」
男性が言う。
「『神』です」
「……え?」
私は思わず聞き返した。
「神?」
「はい」
「神様の神?」
「私には、その意味として伝わります」
部屋が静かになった。前なら。ただの宗教的な言葉だと思われたかもしれない。でも今は違う。
『管理者』
そして。
『神』
同じ石片に。二つの言葉が残っている。
「……まさか」
天羽総帥が小さく呟く。
「古代地球の管理者って」
「神だったんじゃないか?」
「でも」
私はすぐに聞いた。
「『管理者は神である』って書いてあるわけじゃないですよね?」
「もちろん違います」
男性が頷く。
「間が欠けていますから」
ですよね。管理者。何文字分かも分からない欠損。神。それだけ。ただ近くに残っていたというだけで、二つが同じものを指しているとは限らない。
「じゃあ関係ない可能性も?」
「あります」
「………」
でも。気にならない方がおかしい。星。生命。循環。管理者。そして、神。ここまで並ぶと、ただの偶然だと思う方が難しくなってくる。
【皐月視点】
神。これだけなら弱い。古代文明が信仰していた神について書かれた可能性もある。管理者と神が同じものを指している保証もない。石片は欠けている。文脈もない。証拠としては、まだ薄い。だが。俺たちには、もう一つ情報がある。一般には知られていない情報が。
「……大賢者が感知してる神性反応」
俺が言う。継真が頷いた。
「地球深部にあるものだね」
「ああ」
サクラでもない。迷宮核でもない。ヴァルメリア由来でもない。元々、地球側にあると考えられる神性。そして古代文明の遺物には。地球を循環させる技術。管理者という言葉。星と共にある何か。そして、神。
「……繋がってきたな」
「そう思う?」
「ああ」
まだ完全な証拠じゃない。石片の欠けた文字。断片的な単語。再現実験で分かった魔力循環。地球深部の神性反応。どれも、それだけでは決め手にならない。だが、仮説としてはかなり形になってきた。
「古代の地球には」
俺は言った。
「地球を管理する神がいた」
継真は否定しなかった。否定できなかった、と言うべきかもしれない。
【美月視点】
「ちょっと待って」
話が急に大きくなった。古代文明。魔力循環。管理者。そこまでは、まだ何とかついていけた。でも、神様。急にそこまで行くと、頭が追いつかない。
「昔の地球にも、本当に神様がいたってこと?」
「可能性が高くなったって話だ」
「ヴァルメリアの女神様みたいな?」
「そこまでは分からん」
師匠が答える。
「でも」
私は考える。
「もし昔、地球を管理する神様がいたなら」
一番気になることを口にする。
「今は?」
誰も答えない。それが答えみたいで、少し嫌だった。
「いないんですよね?」
「ああ」
師匠が短く答えた。
「じゃあ、どこ行ったの?」
「それが次の問題だ」
師匠が腕を組む。
「死んだのか」
「消えたのか」
「どこかへ行ったのか」
「それとも……」
一度、言葉を止める。
「まだ地球の中にいるのか」
「……」
背中が少し寒くなった。地球深部では、今も神性反応が強くなっている。もし、それが。昔の地球を管理していた神様の反応なのだとしたら。いなくなったと思われていたものが。今、地球の奥で目を覚まそうとしているのかもしれない。
「まさか」
私は師匠を見る。
「昔の神様が、まだいる?」
「分からん」
「でも可能性は?」
「ある」
【皐月視点】
その日の夜。俺は一人で、サクラのところへ来ていた。星継ぎの間。何十年も変わらない場所。透明な結晶の中で眠るサクラ。その周囲を、淡い光が静かに巡っている。世界は回復しつつある。それでも、こいつはまだ目を覚まさない。
「大賢者」
『はい』
「前に言ってた神性反応」
『現在も観測しています』
「強くなってる?」
『わずかですが』
「そうか」
俺は眠るサクラを見る。
「古代の地球に、神がいたかもしれねぇ」
『……』
大賢者から、すぐには返事がない。
「地球を管理する存在だった可能性がある」
『興味深い仮説です』
「ああ」
そして。もし本当に、昔の地球に管理者がいたなら。一つ、説明できることがある。俺は、結晶の中で眠るサクラを見る。サクラは今も、地球と繋がっている。生命と魔力の循環を支え続けている。それは、古代の魔力循環装置が補助していたと考えられる働きと似ている。いや。もっと言えば。本来、その中心にいたはずの何か。地球そのものを管理していた存在。そいつがいなくなったから。今、サクラがその穴を埋めているのだとしたら。
「サクラ」
俺はその手を握った。
「お前は……、神がいなくなった地球の代わりをさせられてるんじゃねぇのか?」
眠る少女は答えない。当然だ。それでも、口にせずにはいられなかった。
その考えは、今までで一番、星継ぎという存在にしっくりきた。地球に管理者がいない。だから、地球は代わりとなる器を必要とした。生命を繋ぐ器。魔力を巡らせる器。星そのものを支える器。そして選ばれたのが、深層適性者だったサクラ。
「……だとしたら」
俺は地面のさらに奥を意識する。今もそこから、神性が感じられている。弱く。だが、確かに。少しずつ強くなっている。
「お前、本当に消えたのか?」
かつて、この地球を管理していたという。名も知らない神へ。俺は初めて、問いかけていた。
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――次回予告――
深層適性者は、生まれつき“何かと繋がるための器”なのかもしれない。
そして美月もまた、その適性が強すぎる一人。
もし彼女まで、サクラのように何かへ選ばれてしまったら――。
「なら俺が何とかする」
皐月は、迷わずそう言った。
次回
『47. なら俺が何とかする。師匠は迷わずそう言った』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




