45. おばあちゃんは一度、この地球で死んでいた
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【美月視点】
古代文明。星継ぎ。管理者。最近、そんなことばかり考えていた。最初は、師匠に連れられて仕方なく資料を見ていただけだった。でも今は少し違う。何千年も前の地球。沈んだ文明。地球を循環させる装置。その先に、サクラ様を助ける答えがあるかもしれない。そう思うと、気にならないわけがなかった。でも。ふと、一つ思い出した。
「……あ」
家に帰って、私は押し入れの奥から古い箱を引っ張り出した。美桜おばあちゃんが使っていた物。ハンター時代の道具。写真。小物。そして。
「あった」
一通の手紙。前に見つけたものだ。
文字は日本語じゃない。前にお母さんに見せた時。
『これ、ヴァルメリア語よ』
そう言われた。そして。
『読めるのは、お父さんくらいじゃない?』
お父さん。つまり、私のおじいちゃん。春日皐月。
「……」
よりによって。できれば頼みたくない。でも、読める人が他にいない。
リビングへ行くと、いた。ソファでくつろいでいる。
「……暇そう」
「聞こえてるぞ」
「わざと言ったから」
「何だよ」
私は手紙を持ったまま立っていた。頼みたくない。でも、読める人が他にいない。
「……ねえ」
「ん?」
「これ」
手紙を差し出す。
おじいちゃんが受け取る。そして、顔が変わった。
「どこにあった?」
「おばあちゃんの箱」
「……そうか」
やっぱり読めるんだ。そう思った。文字を見た瞬間の反応が、私とは全然違ったから。
「ヴァルメリア語なんでしょ?」
「ああ」
「読んで」
「……」
「何?」
「いや」
おじいちゃんが手紙を見る。
「懐かしいと思ってな」
「懐かしい?」
「ヴァルメリア語が」
「ふーん」
変なの。そう思ったけれど、今はそれより手紙の中身が気になる。私は向かいに座った。
「読んでよ」
「分かったよ」
手紙を開く。少しだけ、表情が柔らかくなった。それは、私が普段見るおじいちゃんとは違う顔だった。
「何て書いてあるの?」
「……大したことじゃねぇ」
「それ私が決めるから」
「お前、本当に可愛くねぇな」
「早く!」
「分かった分かった」
おじいちゃんが読み始める。
「『春香へ』」
「……お母さん?」
「ああ」
私は少し驚いた。美桜おばあちゃんが、お母さんに宛てて書いた手紙だった。
「続きは?」
「『あなたがこれを読む頃には、私はもう随分歳を取っているでしょう』」
「……」
「『あるいは、もういないかもしれません』」
胸が少し苦しくなった。写真の中で笑っていたおばあちゃん。私の頭を撫でてくれたおばあちゃん。その人が、自分がいなくなった後のことを考えて書いた手紙。
「『だから、いつか話せなくなった時のために、残しておきます』」
おじいちゃんの声が、少しだけ変わった気がした。
「『お母さんには、あなたに話していないことがあります』」
「え?」
私は顔を上げた。おじいちゃんも手紙を見ている。
「……」
「『私は一度、この地球で死にました』」
「……は?」
意味が分からなかった。
「おばあちゃんが?」
「ああ」
「でも」
私は混乱する。おばあちゃんは、生きていた。私が小さい頃、確かにそこにいた。笑っていた。私の名前を呼んでくれた。それなのに。一度、地球で死んだ?
「最後まで聞け」
「……うん」
続ける。
「『そして、別の世界で生きました』」
私は固まった。
「別の……世界?」
「……」
「ヴァルメリア?」
おじいちゃんは答えなかった。ただ、手紙を見ている。
「続き」
「……ああ」
「『そこで私は、ミレイアという名前をもらいました』」
「ミレイア……」
知らない名前だった。
でも、その瞬間。私は別のことを思い出した。
「……あれ?」
「何だ」
「おばあちゃんって」
私はおじいちゃんを見る。
「名前は美桜って、思いっきり日本人じゃん」
「ああ」
「でも見た目、めちゃくちゃ外国人だったよね?」
明るい髪。色の薄い瞳。はっきりした顔立ち。写真を見ても、どう見ても日本人には見えない。私は小さい頃から不思議だった。なんで美桜って名前なんだろうって。しかも、その血は私にも残っている。私はよく、ハーフみたいだと言われる。実際にはクォーターなんだけど。でも、おばあちゃんはそんなレベルじゃない。本当に外国人そのものだった。
「……もしかして」
私は手紙を見る。
「それって、このミレイアっていうのと関係ある?」
おじいちゃんが少し黙った。
「ある」
「やっぱり!?」
「美桜は」
静かに言う。
「地球で生まれた時から、あの姿だったわけじゃねぇ」
「……え?」
おじいちゃんが再び読み始める。
「『私はミレイアとして、ヴァルメリアで長い時間を生きました』」
「長い時間?」
「ああ」
「どれくらい?」
「そこには書いてない」
「えー」
「黙って聞け」
「はいはい」
「『そして、ある時』」
そこで、おじいちゃんの声が止まった。
「何?」
「……ここから先がない」
「え?」
手紙を見る。確かに、文章の途中で終わっている。
「続きは?」
「別にあるんじゃねぇか?」
「箱にはこれしかなかったよ」
「なら」
おじいちゃんが少し考える。
「何通かに分けて残したのかもしれねぇな」
「そんなぁ……」
めちゃくちゃ気になるところで終わっている。
「ミレイアって、結局何なの?」
「美桜だろ」
「そうじゃなくて!」
「分かってるよ」
私は手紙を返してもらう。そして、少しだけおじいちゃんを見る。
「ねえ」
「何だ」
「おじいちゃんは」
この呼び方をするのは、なんだか久しぶりな気がした。おじいちゃんも少しだけ目を見開いた。
「ミレイアだった時のおばあちゃんも知ってるの?」
「……ああ」
「どんな人だった?」
少しだけ間があった。おじいちゃんは、手紙ではなく、どこか遠くを見るような顔をした。
「美桜だよ」
「だから、そうじゃなくて」
「同じだ」
静かに言った。
「姿も」
「名前も」
「生きていた世界も違ったけどな」
「中身は」
「俺の知ってる美桜だった」
「……」
なんだろう。その言い方。私が知らないおばあちゃんを。この人は、ずっと知っている。
「そっか」
それだけ言って、私は手紙を持って部屋へ戻った。ベッドに座って、もう一度、読めない文字を見る。ミレイア。別の世界。一度死んだ。外国人みたいな姿。そして。地球へ戻ってきた美桜おばあちゃん。
「……何があったの?」
また、調べたいことが増えてしまった。でも。不思議だった。今日は、おじいちゃんと話していても。いつもみたいに、そこまで嫌じゃなかった。それどころか。おばあちゃんのことを。この人から。もう少し聞いてみたい。ほんの少しだけ。そんなふうに思っていた。
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――次回予告――
古代の石片に残されていた、《管理者》と《神》という言葉。
もし、かつて地球を管理する神が存在していたのなら。
そして、その神が失われたあとを埋めるために《星継ぎ》が生まれたのだとしたら――。
サクラは今、人の身で“神の代わり”をさせられているのかもしれない。
次回
『46. サクラは、神がいなくなった地球の代わりをさせられているのか』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




