44. 古代都市そのものが、巨大な魔力循環装置だったのかもしれない
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【美月視点】
「師匠」
「何だ」
「最近、私たち全然ダンジョン行ってなくないですか?」
「……」
「ハンターですよね、私」
「一応な」
「一応って何ですか!」
最近やっていることといえば。資料を見る。古代遺物を見る。昔の記録を見る。また資料を見る。
「私、考古学者になった覚えないんですけど」
「誰もなれって言ってねぇよ」
「レベルも上がらないし」
「死ぬよりマシだろ」
「それはそうですけど……」
師匠が呆れたようにため息をつく。
「もう少し我慢しろ」
「もう少し?」
「ああ」
「じゃあ今度ダンジョン行きましょうね」
「分かったから黙れ」
「約束ですよ!」
「はいはい」
やった。
今日調べるのは、例の古代遺物だった。古代語じゃない。魔力を流すための加工が施された石材や、装置そのもの。
「これ、前に見たやつですよね?」
「ああ」
海底遺跡などから、昔から少数だけ発見されているもの。今までは用途が分からなかった。ただの装飾なのか。宗教的な儀式に使ったものなのか。それとも、まったく別の何かなのか。でも。魔力が存在することが分かった現在なら、昔とは違う見方ができる。天羽総帥が資料を見せてくれた。
「研究者が再現実験をしてる」
「動いたんですか?」
「一部だけね」
完全なものは残っていない。壊れている。欠けている。だから、同じ構造を小さく再現したらしい。
「何が起きたんです?」
「魔力を入れてみた」
「はい」
「蓄えなかった」
「……失敗?」
「違う」
総帥が首を振った。
「別の場所へ流したんだ」
「流した?」
思っていた反応と違った。魔力を入れたなら、光るとか。動くとか。何かを撃つとか。そういうものを想像していた。でも、そうじゃない。その装置は魔力を溜めたわけでも、消費したわけでもなく。別の場所へ流したらしい。
画面に実験映像が流れる。研究者らしき人が、再現装置へ魔力を流した。すると、刻まれた細い溝を通って、淡い光が広がっていく。
「電線みたい」
「近いかもね」
総帥が頷く。でも、それだけじゃなかった。魔力は一方通行ではない。先へ流れるだけじゃなく、周囲からも少しずつ力を集めている。集めた力を別の場所へ流し。さらに、そこからまた戻している。行って、戻る。集めて、流す。途切れずに回す。
「循環……」
私は呟いた。古代語にもあった。
『循環』
ただの単語だと思っていたものが、画面の中で形になっていた。
「これ」
師匠も画面を見ていた。
「魔力を使う道具じゃねぇな」
「どういうことです?」
「魔力そのものを回してる」
「何のために?」
「そこまでは分からない」
「また……」
でも、そこで総帥が続けた。
「これと同じ構造が、一つの建物だけじゃなく、遺跡全体に使われていた可能性がある」
「遺跡全体?」
「さらに大きかった可能性もある」
師匠の顔が少し変わった。
「都市?」
「その可能性も考えられてる」
私は目を見開いた。古代都市。ただの遺跡ではなく、街そのもの。その全体に魔力を流していた。
「古代都市全体に魔力を流してた?」
「かもしれない」
【皐月視点】
魔力を作る装置じゃない。魔力を溜める装置でもない。循環させる。地球にもともと存在する力を集め。流し。また戻す。
「……なんでそんなことする?」
俺が聞く。
「一つ仮説がある」
継真が答えた。
「地球側の魔力循環を補助していたんじゃないかって」
「地球の?」
「あくまで仮説だけどね」
残っている規模では、地球全体を支えるほどの装置ではないだろう。だが。もし。各地に同じものが存在していたなら?もし、それが一つの都市だけではなく、複数の都市で使われていたなら?
「古代文明は」
俺は画面を見る。
「地球の魔力を管理してた?」
「少なくとも、利用するだけじゃなく」
継真が言う。
「循環そのものを意識していた可能性はある」
俺の頭に、サクラが浮かぶ。透明な結晶の中で眠り続ける少女。今、サクラが星継ぎとしてやっていること。地球の力を支え。生命と魔力の流れを保ち。循環を安定させる。古代の装置がやっていたことは、それに似ていた。もちろん、同じだとは言えない。規模も違う。仕組みも違う。だが、方向は同じだ。
「やっぱり似てるな」
「星継ぎと?」
「ああ」
もし、昔の地球に、この循環を補助する仕組みがあったのなら。それを知ることは、サクラを星継ぎから外す手がかりになるかもしれない。
【美月視点】
「でも変じゃないですか?」
「何が」
師匠がこちらを見る。
「もし昔の人たちが、こんなすごいことできたなら」
私は画面を指さす。
「なんで全部なくなったんです?」
師匠と天羽総帥が黙った。それは、私でも分かるくらい自然な疑問だった。だってそうだ。古代都市全体に魔力を流せる技術。地球の魔力循環を補助していたかもしれない仕組み。そんなものがあったなら、どうして今の時代まで残っていないのか。
「文明が滅びた?」
「可能性はある」
「アトランティスみたいに?」
「……」
でも。高度な魔力文明があった。地球の魔力を循環させる技術もあった。そして。古代語には。『管理者』という言葉が残っている。
「じゃあ」
私は聞いた。
「古代文明が地球を管理してたんですか?」
「それは違うかもしれねぇ」
師匠が言った。
「え?」
「装置は、あくまで補助だった可能性がある」
「補助?」
「ああ」
補助。何かを助けるためのもの。つまり。本体が別にあるかもしれないということ。
「じゃあ」
私は少し考える。
「本当に地球を管理してたのは……」
その先を言いかけて、前に見た古代語を思い出した。
『管理者』
「……別にいた?」
師匠は答えなかった。でも。否定もしなかった。
帰り。
「師匠」
「何だ」
「明日はダンジョン?」
「違う」
「えー!」
「まだ調べることがある」
「約束したじゃないですか!」
「明日とは言ってねぇ」
「ずるい!」
師匠が少し笑った。
「近いうちに潜る」
「本当に?」
「ああ」
「深いところ?」
「調子乗るな。まず普通の階層だ」
「でも行くんですよね?」
「そうだな」
「やった!」
やっぱり。資料を読むのも面白いけど。私はハンターだ。ダンジョンにも潜りたい。レベルも上げたい。強くもなりたい。ただ。今は少しだけ。この古代文明の謎も、続きが気になっていた。地球を循環させる技術。それを使っていた文明。そして。そのさらに上にいたかもしれない。《管理者》。昔の地球には。一体何がいたんだろう。
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――次回予告――
美桜が遺した、一通の手紙。
そこに書かれていたのは、美月の知らない祖母の過去だった。
一度、地球で死んだこと。
そして別の世界で――《ミレイア》として生きていたこと。
美月は初めて、祖父だけが知る“もう一人の美桜”に触れる。
次回
『45. おばあちゃんは一度、この地球で死んでいた』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




