42. 星、循環、生命、管理者。石板の断片はサクラに繋がりすぎていた
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【美月視点】
古代文明の調査を始めてから。また一つ、変な話が出てきた。
「翻訳スキル?」
「ああ」
師匠に連れられてギルド本部へ行くと、天羽総帥が待っていた。
「翻訳って、外国語が分かるスキルですか?」
「本来はそう思うよね」
「本来は?」
総帥が苦笑する。
「本人は、そう思ってたらしい」
「便利じゃないですか」
「それが全然便利じゃなかった」
「え?」
「英語、フランス語、中国語、ヴァルメリア語。何を試しても翻訳できなかったそうだ」
「……ハズレスキル?」
「本人も、ずっとそう思ってたみたいだよ」
「じゃあ、なんで今その話を?」
「一つだけ読めた言葉があった」
「一つだけ?」
総帥が画面を操作した。そこに映ったのは、海底遺跡から見つかった石板だった。
「これ?」
「ああ」
「古代語だ」
「本人が気づいたのは偶然だよ」
総帥が説明する。
「テレビで古代遺跡の特集を見ていたらしい」
「テレビ?」
「そこで、この文字が一瞬映った」
古代の石板。誰にも読めない文字。もちろんテレビでも。
『意味は現在も解読されていません』
そう紹介されていた。ところが。その人には、突然意味が分かった。
「……何て?」
「『水』」
「え?」
「一文字だけだったらしい」
しばらくして。その翻訳スキルを持つ人が部屋へ入ってきた。普通の男性だった。研究者という感じでもない。すごい魔法使いにも見えない。どこにでもいそうな、少し緊張した様子の人だった。
「この人?」
「そう」
「初めまして」
男性が軽く頭を下げる。
「本当に読めるんですか?」
「読めるというより……」
男性が困ったように笑った。
「意味が頭に入ってくるんです」
「英語とかは?」
「全然」
「ヴァルメリア語は?」
「一文字も」
「なのに古代語だけ?」
「そうなんです」
変なスキル。でも、師匠だけは笑っていなかった。
男性に、石板の画像を見せる。
「これは?」
「……少し待ってください」
男性が画面を見る。しばらくして、表情が少し変わった。
「ここは読めます」
指をさす。
「『星』」
別の部分。
「『大地』」
さらに。
「ここは……『生命』だと思います」
「思う?」
「文字が欠けています」
石板そのものが壊れていた。端がない。削れている。文字の途中で割れている。
「じゃあ全文は?」
「無理です」
男性は即答した。
「私のスキルは、残っていない文字を補完してくれるわけじゃありません」
「そりゃそうか」
師匠が言う。
「見えてる文字しか翻訳できない?」
「はい」
「じゃあ、文章として意味が分からないところもある?」
「かなりあります」
なるほど。万能じゃない。読める。でも、分かるわけじゃない。
別の石板。そこには、いくつか読める文字があった。
「『循環』」
「……ここは」
男性が目を細める。
「『守る』」
そして、離れた位置に。
「『星』」
文章としては繋がらない。途中が全部なくなっているからだ。
「『星……循環……守る』?」
私が呟く。
「それ以上は分かりません」
男性が首を振る。次の遺物。そこにも、文字が少しだけ残っていた。
「これは?」
「……『管理』」
「管理?」
「その次が欠けています」
さらに先。
「『者』」
「管理……者?」
私は師匠を見る。師匠の表情が変わった。
【皐月視点】
「他には?」
「あります」
継真が次の画像を出す。完全な石板なんて、一つもない。数千年。あるいは、それ以上の時間が経っている。割れている。削れている。海底に沈んでいたものもある。読める部分なんて、ごくわずかだ。それでも。いくつかの遺物から、同じ言葉が出てくる。『星』『循環』『生命』『管理』『守る』どれも、聞き流せる言葉じゃない。今のサクラに繋がりすぎている。だが。肝心な部分がない。
そして、ある石片。男が文字を追う。
「ここは……」
少し黙る。
「『星と共に』」
「その先は?」
「ありません」
石が、そこで割れている。
「……チッ」
思わず舌打ちが出た。
「仕方ないですよ、師匠」
「分かってる」
分かっている。数千年前の石片だ。完全な形で残っている方が珍しい。それでも。答えがありそうなのに。肝心な部分がない。それが、やけに腹立たしかった。
【美月視点】
次の小さな石片。ほんの数文字しか残っていなかった。欠けている部分の方がずっと多い。けれど、だからこそ、残っている文字が妙に気になった。
「読めます?」
「はい」
男性が答える。
「『管理者』」
そして、その少し下。
「『星より――』」
そこで終わり。
「それだけ?」
「それだけです」
「続きは?」
「石自体がありません」
「うわぁ……」
めちゃくちゃ気になる。星より、何。星より来た。星より選ばれた。星より授かった。いくらでも考えられる。
「推測するなよ」
師匠が言う。
「まだ何も分かってねぇ」
「分かってますよ」
とは言ったけど。やっぱり気になる。
管理者。星。生命。循環。前に見つかった、古代の魔力循環装置。全部。同じ文明が残したものなのだとしたら。
「師匠」
「何だ」
「昔の地球って」
私は画面を見る。
「地球そのものを管理してた誰かがいたんじゃないですか?」
「……可能性はある」
師匠が初めて認めた。
「人間?」
「分からん」
「じゃあ何?」
「だから調べてるんだ」
いつもの言い方。でも、今回は少し声が重かった。
【皐月視点】
古代語を読めるスキル。なぜ。現代語は何一つ翻訳できないのに。ヴァルメリア語さえ、一文字も読めないのに。この古代語だけ読める?それ自体も気になる。翻訳。そう表示されたスキルが、実際には翻訳として機能していない。いや。もしかすると、翻訳先として認識されているのが、この古代語だけなのかもしれない。だとしたら、なぜこの古代語だけがスキルに引っかかる。考えることは増えるばかりだ。だが今は。石板に残った言葉の方が重要だった。
星。循環。生命。管理者。断片しかない。全文なんて一つもない。だから、まだ何も断定できない。それでも。俺の頭には、今のサクラが浮かんでいた。地球と繋がり。生命と魔力の循環を支え続けている。
「……管理者、か」
もし。サクラがやっていることを。昔は別の何かがやっていたのだとしたら。その存在が何だったのか。それを知ることができれば。サクラを星継ぎから解放する方法も、見つかるかもしれない。そして。この時。俺たちはまだ知らなかった。古代の石片に残された『管理者』という言葉が。地球から失われた神へと繋がっていることを。
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――次回予告――
古代語の断片に残されていた、
《器》《選ぶ》《星》という言葉。
それは、何かと繋がる“入口”である深層適性者と、あまりにも噛み合っていた。
星が器を選ぶのか。
それとも、器が星へ届くのか――。
次回
『43. 器、選ぶ、星。古代語の断片は、深層適性者に繋がり始めた』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




