38. 祖父として嫌われ、師匠として信じられる。皐月は笑うしかなかった
いつも応援ありがとうございます!
当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。
今回もぜひ、最後までお楽しみください!
【美月視点】
深層適性の話をしてから。私は、ずっと一つ気になっていた。深層適性者。核継ぎ。神宿り。星継ぎ。分からないことはたくさんある。でも、それとは別に。もっと前から気になっていたことがあった。師匠は。サクラ様のことを。やけに詳しい。資料で読んだとか、誰かから聞いたとか。
そういう感じじゃない。まるで、昔から知っている人のことを話すみたいだった。
「師匠」
「何だ」
「前から聞こうと思ってたんですけど」
「嫌な予感しかしねぇな」
「師匠って、五十代くらいですよね?」
「……まあ、そんなもんだ」
「ですよね」
私は少し考える。師匠は五十代くらいに見える。正確な年齢は知らないけれど、少なくとも、おじいちゃんみたいな年齢には見えない。
「サクラ様が星継ぎになったのって、もう何十年も前ですよね?」
「ああ」
「じゃあ、その頃の師匠って……」
「何だよ」
「かなり若いですよね?」
「……」
そこで黙るのはずるい。
「なのに」
私は指を折る。
「『サクラは無茶するやつだった』とか」
「『怖がりだった』とか」
「『普通の女だった』とか」
師匠の顔を見る。
「なんで、昔から知ってる人みたいに話すんですか?」
師匠が黙った。
「ほら!」
「何がほらだ」
「怪しい!」
「うるせぇ」
「それに呼び捨てだし」
「別にいいだろ」
「よくないですよ」
「何でだ」
「サクラ様ですよ?」
「俺には関係ねぇ」
「その言い方!」
やっぱり変だ。師匠は、サクラ様のことになると少し変になる。普段より口が悪くなるというか。隠そうとして、余計に隠せていないというか。
「師匠、サクラ様と会ったことあるんですか?」
「……昔の話を聞いただけだ」
「誰に?」
「色々だ」
「絶対誤魔化してる」
「しつけぇな」
私は師匠の横を歩きながら考える。五十代くらいに見える。でも、サクラ様のことを、まるで昔の知り合いみたいに話す。資料で読んだだけなら、あんな顔はしないと思う。
「……もしかして」
「何だ」
「師匠も、見た目と年齢が違ったりします?」
師匠の足が、一瞬止まった。本当に一瞬。でも私は見逃さなかった。
「何でそうなる」
「いや」
そこで、嫌な人を思い出した。うちのおじいちゃん。春日皐月。昔の写真を見ても。お母さんが子供の頃の写真を見ても。今と全然変わらない。歳を取らない。ダンジョンで受けた呪いだと聞いている。
「……そういえば」
「何だよ」
「うちのおじいちゃんも、全然歳取らないんですよね」
「……へぇ」
師匠が妙な返事をした。
「もしかして師匠も、似たような?」
「さあな」
「怪しいなぁ」
でも。私はすぐに首を振った。
「……いや、違うか」
「何が」
「師匠とあの人を一緒にするの、師匠に失礼だし」
「……は?」
師匠の顔が引きつった。
「だって全然違いますもん」
「何が違うんだよ」
「全部」
「全部?」
「師匠は強いし」
「……」
「ちゃんとハンターしてるし」
「……」
「いざって時は助けてくれるし」
「……」
「頼りになるし」
「……」
「おじいちゃんとは全然違います」
師匠が黙った。
「どうしました?」
「……いや」
「もしかして照れてます?」
「違ぇよ」
「でもちょっと嬉しそう」
「黙れ」
私は笑った。
でも。少しだけ、不思議だった。おじいちゃんも歳を取らない。師匠も、もしかしたら見た目通りの年齢じゃないのかもしれない。サクラ様のことも、妙に詳しい。
「……ほんと、何者なんだろ」
「聞こえてるぞ」
「耳いいですね」
「お前がでかい声で喋ってんだ」
いつものやり取り。いつもの師匠。でも、前とは少し違う。私は。師匠のことを。もう少し知りたいと思い始めていた。
【皐月視点】
「師匠とあの人を一緒にするの、師匠に失礼」
さっきの美月の言葉が、頭に残っている。
「……同じなんだけどな」
「何か言いました?」
「何でもねぇ」
「またそれ!」
危ねぇ。一瞬、本気で言い返しそうになった。同じだ。春日皐月も。黒瀬蓮も。零も。英雄クロも。全部、俺だ。だが、美月はそれを知らない。
美月は、春日皐月を嫌っている。歳を取らない祖父。何をしているのか分からない男。家にいても、どこか遠くを見ている人間。あいつにとっての俺は、たぶんそんな存在だ。だが、黒瀬蓮のことは少しずつ信用し始めている。口は悪い。態度も悪い。だが、いざという時には助ける。強くて、頼りになる師匠。そう見えているらしい。同じ人間なんだけどな。そう思うと、笑うしかなかった。同時に。いつか同じ人間だと知った時、美月がどんな顔をするのか。それを考えると、少しだけ胃が重くなった。
「師匠?」
「何だ」
「また変な顔してますよ」
「お前のせいだ」
「なんで!?」
美月が不満そうに声を上げる。いつもの調子。いつもの距離。今はまだ、それでいい。今はまだ、知らなくていい。俺が春日皐月だということも。零だということも。英雄クロだということも。全部。ただ。美月が俺のことを知ろうとしてくれた。黒瀬蓮という偽物の顔でも。それだけは。少し悪くない気がした。
本編をお読みいただきありがとうございました!
一気読みしてくださっている方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!
第一章も楽しんでいただけていたら嬉しいです!
面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、第三部を最後まで駆け抜ける凄まじいエネルギーになります!
(星は1つからでも、ポチッと気軽に押していただけると大喜びします!)
――次回予告――
ダンジョンが地球へ現れるより、はるか昔。
その時代の遺物から――魔力反応が見つかった。
もし魔力も、深層適性も、星継ぎも。
すべてがダンジョン以前から地球に存在していたのだとしたら――。
答えは、現在ではなく“古代”にあるのかもしれない。
次回
『39. ダンジョンより古い魔力が、地球の遺物から見つかった』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




