36. 深層適性者は、何かに選ばれるための入口だった
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【皐月視点】
美月の検査が終わったあと。俺は支部長と一緒に、結果を見直していた。端末の画面には、いくつもの数値とグラフが並んでいる。
「やっぱり高いのか?」
「はい。かなり」
支部長は短く答えた。だが、数値を見ても、俺にはよく分からない。昔は、こんな検査自体なかった。サクラも。俺も。深層適性者だと分かったのは、実際にダンジョンへ潜ってからだ。異常な引き寄せ。本来なら出会わないはずの魔物。迷宮核との妙な近さ。そういう現象が先にあって、あとから名前がついた。
「ただ高いってだけじゃ、よく分からねぇな」
「そうですね」
「深層適性者そのものは、今では珍しい存在じゃありません」
「でも、その先がある」
「はい」
支部長が頷く。深層適性者。迷宮の深い部分に引き寄せられ、迷宮核や異常現象と接触しやすい人間。それだけなら、今では記録もある。対応方法も、昔よりはずっと整っている。だが、その中から。さらに特殊な存在が生まれる。
「核継ぎ」
「神宿り」
「星継ぎ」
支部長が順番に口にした。
「この三つです」
「でも、なんで同じ深層適性者から分かれる?」
「そこは分かっていません」
俺は眉をひそめる。
「今の時代でも?」
「はい……」
「核継ぎになりやすい奴とか、星継ぎになりやすい奴とか。そういうのは?」
「はっきりした基準はありません」
「……なるほどな」
何も分かっていない、ということだけはよく分かった。サクラは、深層適性者だった。そして最後には、星継ぎになった。偶然。そう言ってしまえば簡単だ。あの時、地球を救うために必要だったから。サクラがそこにいたから。それだけだったのかもしれない。でも。本当に偶然なのか。美月の検査結果を見たあとでは、そう簡単には思えなかった。
【美月視点】
「ちょっと待ってください」
私は二人の話を聞いていて、途中で手を上げた。分からない単語が、一気に増えた。深層適性だけでも面倒なのに。核継ぎ。神宿り。星継ぎ。何か、急に話が大きくなっている。
「核継ぎとか神宿りとか星継ぎって、全部深層適性者から出るんですか?」
「そうだ」
支部長が答える。
「知らなかった……」
「講習でも詳しくは教えないからな」
「なんでです?」
「該当者が少ない。それに、分かっていないことも多い」
「ふーん……」
私は少し考える。
「じゃあ、深層適性者って」
「その三つになる可能性がある人ってこと?」
「正確には、可能性を持つ人間だ」
支部長が補足する。
「必ずなるわけじゃない?」
「もちろん」
それなら。少し安心する。
「よかった」
「何がだ」
師匠がこちらを見る。
「私も星継ぎになるとか言われたら嫌じゃないですか」
何気なく言ったつもりだった。でも。師匠の顔が、一瞬だけ固まった。
「……そうだな」
「何ですか、その顔」
「別に」
「怪しい」
支部長が、話を戻すように咳払いをした。
「深層適性そのものは、入口にすぎない」
「入口?」
「ああ」
支部長は画面に映る図を指差した。
「そこから何と接続するかで、役割が変わる」
「接続?」
「現時点では、そう考えるのが一番近い」
支部長が続ける。
「迷宮核と強く結びつけば、核継ぎ」
「神性を宿す器となれば、神宿り」
「地球そのものと深く結びつけば、星継ぎ」
「……」
私は思わず黙った。深層適性。それは、ただダンジョンに好かれやすい体質みたいなものだと思っていた。でも違う。何かと繋がるための入口。そう言われると、急に怖くなった。
「なんか、急に怖くなってきたんですけど」
「だから軽く考えるなと言ってる」
師匠が低い声で言った。
「でも」
支部長が画面を見る。
「美月さんの適性値は、かなり高い」
「それって……」
「どの系統へ進むにしても、強い接続を起こす可能性があるということだ」
「えぇ……」
全然嬉しくない。強い。上位。可能性がある。そういう言葉だけ聞けば、何となくすごそうに思える。でも、さっきの説明を聞いたあとでは、全然すごいと思えなかった。むしろ怖い。
「師匠」
「何だ」
「私、普通のハンターでいいんですけど」
「俺もそうしてぇよ」
「え?」
「何でもねぇ」
少しして。私は気になって聞いた。
「サクラ様も、最初は深層適性者だったんですよね?」
「ああ」
「それで星継ぎになった」
「ああ」
「じゃあ」
私は自分の手を見る。さっきまで検査機に置いていた手。高い適性値が出た手。
「どうしてサクラ様は、星継ぎになったんですか?」
師匠も。支部長も。すぐには答えなかった。
「分からないんですか?」
「正確にはな」
師匠が答える。
「必要だったから選ばれたのか」
「サクラに何か特別な条件があったのか」
「それとも」
一度、言葉を切る。
「地球側に、選ぶ理由があったのか」
「地球が……選ぶ?」
その言い方が、妙に怖かった。
「それを調べる」
師匠は言った。
「なんで深層適性者から、核継ぎ、神宿り、星継ぎが生まれるのか」
そして。
「そもそも」
師匠の表情が少し険しくなる。
「誰が、そんな仕組みを作ったのか」
「……」
今まで、深層適性者って、ちょっと特殊なハンターくらいに思っていた。でも違う。その先に、核継ぎ、神宿り、星継ぎがある。そしてサクラ様がいる。私も、その入口に立っている。
「私も……関係あるんですよね」
「ああ」
師匠は誤魔化さなかった。
「だから調べる」
それから、小さく続けた。
「お前が何かに選ばれる前にな」
「……師匠?」
「何でもねぇ」
「絶対なんか言いましたよね?」
「行くぞ」
「またそれ!」
師匠は先に歩いていった。いつものように。聞かれたくないことから逃げるみたいに。私はその背中を追いかけながら、さっきの言葉を思い返す。お前が何かに選ばれる前にな。それは、ただの研究者みたいな言葉じゃなかった。ただ深層適性のことを調べたいだけでもない。あの人は。私が。サクラ様と同じ道を進まないように。何かを怖がっている。そんな気がした。
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――次回予告――
核継ぎ、神宿り、星継ぎ。
別々の力に見えた三つの現象には、一つの共通点があった。
違うのは“何になったか”ではなく――“何と繋がったか”。
そしてその答えは、美月自身がこれから何に選ばれるのかという不安にも繋がっていく。
次回
『37. 核継ぎ、神宿り、星継ぎ。その違いは接続先だった』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




