34. 女神の眠りを守るのではなく、サクラという一人の人間を守る
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【桜庭紗良視点】
事件から数日後。女神教では、臨時の集会が開かれていた。過激派の幹部たちは拘束された。ギルド本部への侵入。武器の使用。そして、人質を取ろうとしたこと。もう、教団内部だけで済ませられる問題ではなかった。会場に集まった人たちの顔は暗い。怒り。混乱。不安。そして、後悔。以前なら、誰も迷わなかった。女神様の永遠の眠りを守る。その言葉だけで、私たちは同じ方向を向けていた。でも今は違う。
「……これから、どうするのですか?」
誰かが言った。部屋は静かだった。
「私は」
私は立ち上がった。声が少し震えていた。それでも、今は誰かが言わなければならないと思った。
「教団をなくす必要はないと思っています」
何人かが顔を上げる。驚いたような顔。ほっとしたような顔。不安そうな顔。
「サクラ様が世界を救ってくださった。その事実は変わりません」
救われた人がいる。今を生きている人がいる。その人たちがサクラ様に感謝することは、間違っていない。祈ることも。花を供えることも。ありがとうと伝えることも。それ自体が悪だったとは、私は思わない。
「ですが」
私は胸元の桜の紋章を見る。
「私たちは、間違えていたのかもしれません」
「間違い?」
誰かが小さく聞いた。
「サクラ様を大切にすることと、眠り続けていただくことを、同じだと思っていました」
誰も否定しなかった。否定できなかったのだと思う。私たちは、女神の眠りを守ることが信仰だと思っていた。眠りが続けば世界は守られる。だから眠りを守る。それは確かに、世界を守ることだったのかもしれない。でも。サクラ様本人を守ることだったのだろうか。
「もし」
私は顔を上げる。
「世界を守ったまま、サクラ様を救える方法があるのなら」
一度、言葉を区切る。
「今度は、私たちがサクラ様を助ける側になりませんか?」
ざわめきが起きる。
「女神の眠りを守るのではなく」
私は、はっきりと言った。
「サクラという一人の人間を、守る」
その言葉に、少しずつ。本当に少しずつ。頷く人が増えていった。
【美月視点】
ニュースを見て、私は驚いた。
『女神教、一部方針を変更』
『サクラ氏の救済方法の研究を支持』
「……変わったんだ」
思わず呟いた。教団そのものがなくなったわけじゃない。今でも、サクラ様は女神だと信じる人はいる。眠りを乱すべきじゃないと考える人もいる。それは、ニュースのコメント欄を見ても分かった。でも。少なくとも一部の人たちは、はっきりと発表した。
『女神を眠らせ続けることが信仰ではない』
その一文を見た時、胸の奥が少し軽くなった。
「良かったじゃねぇか」
隣にいた師匠が言った。
「師匠も見てたんですか?」
「まあな」
「これでサクラ様を起こせる?」
「そんな簡単じゃねぇよ」
「ですよね」
それくらいは、私にも分かる。サクラ様は今も地球を支えている。起こしたら世界が危なくなる可能性がある。だから、方法を探さなきゃいけない。それは何も変わっていない。
「でも」
師匠は少しだけ笑った。
「邪魔する奴は減った」
「じゃあ、一歩前進?」
「ああ」
一歩。たった一歩かもしれない。でも、昨日までよりは進んでいる。そう思えるだけで、少し嬉しかった。
「師匠」
「何だ」
「私も手伝います」
「何を」
「サクラ様を助けるの」
「……」
師匠が黙った。何ができるのか。そんなことを聞きたい顔だった。それは私にも分からない。でも。
「だって」
私はスマホに映るサクラ様の写真を見る。
「世界を救ってくれたんでしょ?」
眠ったまま。何十年も。今もずっと。
「だったら今度は」
私は顔を上げる。
「みんなで助けてあげればいいじゃないですか」
師匠が私を見る。いつもの呆れたような目ではなかった。少しだけ、驚いたような目だった。
「簡単に言うな」
「駄目ですか?」
「……好きにしろ」
「やった」
「ただし勝手にダンジョンには潜るな」
「そこまだ言う!?」
「当たり前だ」
【皐月視点】
その夜。俺はサクラのところへ来ていた。
「よう」
いつものように、眠るサクラのそばへ座る。何度来ても、ここは静かだ。世界中が騒いでいても。教団が割れても。ギルドが会見を開いても。ここだけは、何十年も変わらない。サクラは、透明な結晶の中で眠っている。あの日と同じ姿で。
「今日は報告がある」
俺はサクラの手を握った。
「お前を神様として眠らせ続けたいって奴らの中から、お前を助けたいって言う奴が出てきた」
返事はない。それでも俺は続ける。
「美月もな」
少し笑う。
「手伝うんだと」
何ができるかも分かっていないくせに。それでも、真っ直ぐに言いやがった。でも。あいつらしい。
「少しずつだ」
俺は眠るサクラを見る。
「少しずつだけど」
「お前を助けようって奴が増えてる」
世界を救ったから。眠り続けろ。そうじゃない。世界を救ってくれたから。今度は、こっちが助ける。そう言う奴が、増えている。
「待ってろ、サクラ」
俺はその手を少し強く握った。
「絶対に、今度は俺たちがお前を救う」
眠る少女は、何も答えなかった。いつものように。ただ静かに、星の光の中で眠っている。それでも。以前より。その眠りが。少しだけ。終わりに近づいたような気がした。
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――次回予告――
第三章
『神なき地球の星継ぎ』開幕。
サクラを救うために必要なのは、まず《星継ぎ》そのものを知ること。
そして調査の先で、美月の深層適性が想定以上に高いことが判明する。
サクラと美月。
二人を繋ぐものは、偶然なのか――。
次回
『35. 星継ぎって何なんだ。サクラを救うための調査は、そこから始まった』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




