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33/67

33. 私はサクラ様に、目を覚ましてほしい。教団の中からその声が上がった

いつも応援ありがとうございます!


当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


今回もぜひ、最後までお楽しみください!

【皐月(さつき)視点】

 連絡が入ったのは、夜だった。端末が鳴った瞬間、嫌な予感はした。こういう時の予感は、だいたい当たる。

「皐月さん、まずい」

 継真(けいま)の声が、いつもより低い。

「どうした?」

「女神教の過激派が、ギルド本部に集まってる」

「何しに?」

「サクラさんの居場所を明らかにしろって」

「……は?」

 思わず声が低くなる。

「それと、星継ぎへの調査を中止しろ。サクラさんを教団の管理下に置けって」

「好き勝手言いやがるな」

 サクラを管理下に置く。その言葉だけで、腹の奥が冷えた。

「かなり切羽詰まってる」

「分かった。すぐ行く」


 ギルド本部へ着くと、入口前は騒然としていた。白い服。桜の紋章。何十人もの教団員。その周囲には、警備員とギルド職員が並んでいる。通行人も遠巻きに集まり、スマホを向けていた。

『女神の眠りを守れ!』

『女神をギルドから解放せよ!』

『サクラ様を返せ!』

 返せって。思わず鼻で笑いそうになった。そもそも、こいつらはサクラがどこにいるのか知らない。当然だ。サクラの居場所は最高機密。ギルドの中でも知っている人間はごくわずか。外部の教団に知られるようなものじゃない。それに。サクラは、こいつらのものじゃない。


「黒瀬蓮(くろせれん)!」

 先頭にいた年配の男、橘が俺を見つけた。

「サクラ様はどこだ!」

「知ってても教えるわけねぇだろ」

「女神を隠す権利などギルドにはない!」

「お前らにもねぇよ」

 橘の顔が怒りに歪む。

「我々は女神を守ろうとしている!」

「誰から?」

「お前たちからだ!」

 男が叫ぶ。

「女神を人間へ引きずり下ろし、その神聖な眠りを奪おうとしている者から!」

「まだそれ言ってんのか」

 何度言っても届かない。こいつらが見ているのは、サクラじゃない。自分たちが作り上げた女神像だ。

「サクラ様は永遠に眠り、世界を守り続ける!」

「勝手に決めんな」

 男の顔が歪む。

「サクラは世界を救うために眠った」

「それこそ女神の御意思だ!」

「違う」

 俺は即答した。

「他に方法がなかっただけだ」


「これ以上は退いてください!」

 ギルド職員が警告する。

「本部への侵入行為は認められません!」

「ならば!」

 橘が手を上げた。

「我々自身で、女神の居場所を探す!」

「本気かよ」

 教団員たちが一斉に動いた。ギルド本部へ押し入ろうとする。警備員たちが止める。怒号が飛ぶ。魔法を使う者。武器を抜く者。一気に騒ぎになった。

「やめろ!」

 俺は前へ出た。飛んできた魔法を弾く。教団員の腕を取って、そのまま床へ転がす。殺さない。大怪我もさせない。ただ動けなくする。それだけなら難しくない。こいつらが人間であるうちは。


「黒瀬さん!」

 継真の声が飛ぶ。

「右!」

「分かってる!」

 横から来た男の武器を弾いた。その時だった。

「師匠!」

「……は?」

 聞き覚えのある声。振り返る。

「美月(みづき)!?」

「来ちゃいました!」

「なんで来る!」

「ギルドから緊急警報が出てたから!」

「だから普通は来ねぇんだよ!」

「でも師匠いるし!」

「それ理由になってねぇ!」

 こんな時までいつも通りだ。いや。いつも通りで済ませていい状況じゃない。こいつは、また一番面倒な場所に飛び込んできやがった。


「朝倉(あさくら)美月……!」

 一人の教団員が、美月を見る。

「美桜(みお)様の孫……!」

「だから何ですか?」

 美月が眉をひそめる。男の目つきが変わった。

「捕らえろ!」

「は?」

 数人が美月へ向かう。俺はすぐに間へ入った。

「お前ら」

 声が低くなる。

「何するつもりだ」

「彼女はお前にとって重要な存在だ!」

「だから?」

「人質にすれば、お前もギルドも動けまい!」

 完全に一線を越えた。こいつらは、もう隠す気すらない。世界のため。女神のため。その言葉で、人を攫い、人質にしようとしている。

「……そうか」

「師匠?」

 俺は教団員を見る。

「もう言い訳できねぇな」


「やめてください!」

 その時。教団側の後方から声が響いた。何人もの教団員が走ってくる。先頭にいたのは、以前、俺に会いに来た桜庭紗良(さくらばさら)だった。その後ろには、穏健派の連中もいる。

「もうやめてください!」

「裏切り者が!」

 橘(たちばな)が怒鳴る。

「我々は女神を守っている!」

「人を襲って!」

 桜庭が叫ぶ。

「人質まで取ろうとして!」

「それのどこがサクラ様を守ることなんですか!」

「女神のためなら必要なことだ!」

「違います!」

 桜庭の声が、夜の空気を裂く。

「サクラ様のためじゃない!」

「何だと?」

「あなたたちが守っているのは!」

 桜庭は胸元の桜の紋章を握った。

「サクラ様が永遠に眠り続けるという、教団の教えです!」


「サクラ様本人じゃない!」

 橘がまた怒鳴ろうとした。だが、桜庭は止まらなかった。

「世界を救った一人の人間を!」

 女性の声が震える。

「どうして、これ以上犠牲にしなければならないんですか!」

 周囲が静かになる。怒号も、ざわめきも、一瞬だけ消えた。

「私たちはサクラ様を信仰してきました」

 桜庭は言った。

「でも」

 その声は震えていた。けれど、はっきりしていた。

「もし世界を守ったまま救えるのなら」

 桜庭は、顔を上げる。

「私はサクラ様に、目を覚ましてほしい」

「……」

「もう一度、生きてほしいです」

 その言葉に、俺は一瞬だけ黙った。それは、俺がずっと思っていたことだった。でも今、それを言ったのは俺じゃない。女神教の中にいた女だった。


 橘が魔法を使おうとした。俺はその腕を掴んだ。

「もう終わりだ」

「離せ!」

「一つだけ聞く」

 俺は男を見る。

「もしサクラ本人が今ここにいて」

 俺は、眠るサクラの顔を思い浮かべた。怖いと泣いた顔。それでも世界を救うと決めた顔。そして、眠りにつく直前の声。

「『もう眠りたくない』って言ったら?」

 橘の顔が引きつる。

「それでも、お前は眠れって言うのか?」

「……」

 橘は、答えられなかった。答えられるはずがない。答えれば、認めることになる。自分たちが守っているのは、サクラ本人の願いではないのだと。


 過激派は拘束された。ギルド本部への侵入も防いだ。当然、サクラの居場所が知られることもない。美月も無事だった。それだけで、十分だった。

「師匠」

「何だ」

「さっき、めちゃくちゃ強かったですね」

「今さらかよ」

「いや、前から強いとは思ってましたけど」

「帰れ」

「照れてます?」

「帰れ」

「はいはい」

 美月が離れていく。俺は、その背中が見えなくなるまで待った。また巻き込んだ。いや、あいつが勝手に来た。それでも。無事でよかったと思った。



 ◇

 黒瀬の姿を解いたあと。俺は一人で、サクラのもとへ向かった。誰にも知られていない道を通って。深く。さらに深く。その先にある《星継(ほしつ)ぎの間》へ入る。何度来ても、ここだけは空気が違う。静かで。冷たくて。それでも、星の呼吸のような光だけが満ちている。

「よう、サクラ」

 眠る少女のそばへ座った。

「今日は面倒だったぞ」

 返事はない。

「お前の居場所を教えろって、大騒ぎだ」

 俺は苦笑する。

「まあ」

「絶対教えねぇけどな」


 サクラの手を握る。冷たいわけじゃない。死んでいるわけでもない。ただ、眠っている。ずっと。何十年も。

「でも」

 今日。教団の中から、はっきり言った奴がいた。お前に目を覚ましてほしい。もう一度、生きてほしいって。

「少しずつだけどな」

 眠るサクラを見る。

「お前を神様じゃなくて」

「一人の人間として見てくれる奴が増えてきたぞ」

 返事はない。それでも。確実に。何かが変わり始めていた。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださっている方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

第一章も楽しんでいただけていたら嬉しいです!


面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、第三部を最後まで駆け抜ける凄まじいエネルギーになります!


(星は1つからでも、ポチッと気軽に押していただけると大喜びします!)


――次回予告――

「女神の眠りを守る」から、

「サクラという一人の人間を守る」へ。


女神教の中に生まれた変化は、美月にも届く。

そして今度は、世界に救われた側が――サクラを救う側へ回り始める。


次回

『34. 女神の眠りを守るのではなく、サクラという一人の人間を守る』


次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!

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