32. サクラさんは神ではありません。ギルドはついにそう公表した
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【皐月視点】
翌日。ギルド本部は、朝から騒がしかった。職員が走り回り、端末の通知音が何度も鳴る。報道対応。問い合わせ。抗議。確認依頼。面倒なものが、一晩で山ほど増えていた。
「動画、見た?」
「見たくなくても流れてくる」
継真が深いため息をつく。昨日の映像は、すでに世界中へ拡散されていた。
『女神サクラを目覚めさせる計画』
『ギルドは女神の眠りを破ろうとしているのか』
『女神教の一部が実力行使』
好き勝手に見出しがついている。
「面倒なことになったな」
「今さら?」
「今さらだな」
継真が端末を置いた。
「もう誤魔化すのは無理だと思う」
「何を?」
「サクラさんのこと」
俺は黙った。
「世間は、サクラさんを完全に女神だと思ってる」
「ああ」
「でも実際は違う」
「……」
「星継ぎとして世界を支えている人間だ」
その言葉に、俺は少しだけ目を伏せた。人間。その当たり前の言葉が、今の世間では一番伝わりにくい。
「それを公表するって?」
「このまま何も言わなかったら、教団の教義だけが事実として広がる」
それは確かにまずい。サクラは永遠の眠りを望んだ。神となって世界を守っている。そんな話ばかりが、一人歩きしている。
「でも公表したら荒れるぞ」
「もう荒れてるよ」
「それもそうか」
継真が少し笑う。笑い事ではない。だが、笑うしかない状況でもあった。
「皐月さんはどうしたい?」
俺はすぐに答えた。
「本当のことを言えばいい」
「全部?」
「言える範囲でな」
サクラが人間だったこと。星継ぎとなったこと。今も眠りながら地球を支えていること。そして。世界を壊さずに目覚めさせる方法を探していること。
「女神じゃねぇって?」
「ああ」
「信者は怒るよ」
「知らん」
継真が苦笑した。
その日の午後。ギルドは正式な会見を開いた。俺は出なかった。こういうのは継真の仕事だ。俺が表に出れば、余計な火種が増える。春日皐月として出るわけにもいかない。黒瀬蓮として出ても面倒だ。零として出れば、なおさら騒ぎになる。だから俺は、別室で映像を見ていた。会見場には、記者が詰めかけている。継真が席についた瞬間、一斉にカメラが向けられた。
『まず、一部で報道されている女神サクラ様について説明します』
会場の空気が、少し変わった。
『サクラさんは、神ではありません』
会場がざわついた。記者たちの声が重なり、カメラのシャッター音が増える。
『元は一人の人間です』
俺は画面を見つめたまま、何も言わなかった。ようやく。ようやく、その言葉が表に出た。
『地球崩壊の危機に際し、自ら星継ぎとなり、現在も地球を支え続けています』
ざわめきがさらに大きくなる。
『では女神というのは誤りですか?』
記者の一人が質問する。
『信仰について、ギルドが否定するつもりはありません』
継真は落ち着いた声で答えた。
『ただし、事実としてサクラさんは現在も人間です』
『目覚めさせる計画があるというのは?』
継真は少し間を置いた。この答え一つで、さらに燃える。それは分かっているはずだ。それでも、継真は逃げなかった。
『現在、地球を危険に晒すことなく星継ぎから解放できる方法がないか、調査しています』
さらにざわめきが大きくなる。
『つまり、目覚めさせるつもりなのですね?』
『安全な方法が見つかれば、です』
『世界より一人の人間を優先するのですか?』
その質問に、継真の表情が少しだけ険しくなった。
『違います』
継真は、はっきりと言った。
『世界も、その一人も、両方守る方法を探しています』
俺は別室で、その言葉を聞いていた。いい答えだと思った。綺麗事かもしれない。だが、それ以外の答えはいらない。
【美月視点】
「……すご」
私はスマホで会見を見ていた。コメント欄が、とんでもない速さで流れている。
『サクラ様が人間?』
『そんなわけない』
『教団は何を教えてたんだ』
『でも世界を救ったなら女神でいいだろ』
『人間ならなおさら起こしてあげるべきでは?』
意見が真っ二つだった。怒っている人もいる。混乱している人もいる。どこか安心したような人もいる。でも。私は少しだけ嬉しかった。
「やっと……」
やっと。サクラ様が。女神じゃなくて。一人の人間として話されている。それが、なぜだか嬉しかった。
◇
その頃。女神サクラ教本部。会見を見ていた橘が、無言で画面を消した。部屋の中に、重い沈黙が落ちる。
「……許せん」
低い声だった。
「ですが、事実が公表されました」
誰かが恐る恐る言う。
「事実?」
橘が振り返る。
「ギルドが言ったことが事実だと?」
「少なくとも――」
「黙れ」
低い声が響く。
「女神サクラ様は女神だ」
「……」
「人間などではない」
その場にいた何人かが、互いに顔を見合わせた。もう以前のように、全員が同じ言葉を信じているわけではなかった。
「教団の教えを守る」
橘が立ち上がる。
「何をするおつもりですか?」
「女神の眠りを守る」
そして。
「星継ぎの間へ向かう」
部屋の空気が凍った。
「まさか……」
誰かが小さく呟く。星継ぎの間。女神サクラが眠る場所。世界の中心と言ってもいい場所。そこへ向かう。それは、ただの抗議ではない。
「ギルドが女神を奪おうというなら」
橘は静かに言った。
「我々が、女神を守る」
その言葉に、誰もすぐには反応できなかった。守る。橘はそう言った。だが、その言葉はもう祈りではない。最後の一線を越える、合図だった。
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――次回予告――
女神教の過激派がついに実力行使へ踏み込む中、教団の内側から一つの声が上がる。
「私はサクラ様に、目を覚ましてほしい」
「もう一度、生きてほしいです」
その願いは、眠る“女神”ではなく――一人の少女へ向けられたものだった。
次回
『33. 私はサクラ様に、目を覚ましてほしい。教団の中からその声が上がった』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




