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31. 世界のためと言って、女神教は美月を人質にしようとした

いつも応援ありがとうございます!


当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


今回もぜひ、最後までお楽しみください!

【美月(みづき)視点】

 最近。お母さんからも。師匠からも。やたらと言われる。

「一人で行動するな」

「分かってますって」

 何回言われたか分からない。女神教が割れたらしい。しかも、一部の人たちは、サクラ様を起こそうとする人を「敵」だと考えているらしい。

「そこまで?」

 正直、まだ実感はなかった。だって私は、ただの新人ハンターだ。黒瀬(くろせ)師匠の弟子みたいな扱いではあるけれど、何か大きなことをしているわけじゃない。その日も。私は普通にギルドへ向かっていた。


「朝倉(あさくら)美月さん」

「え?」

 声をかけられて振り向く。白い服。胸元には桜の紋章。女神教の人だった。一瞬、足が止まる。

 最近の話を聞いていたせいか、自然と少し身構えてしまった。

「少し、お話をよろしいでしょうか」

「……何ですか?」

「あなたにお願いがあります」

「お願い?」

 男は、丁寧に頭を下げた。

「黒瀬蓮(れん)に、サクラ様の目覚めを諦めるよう説得していただきたい」

「え?」

 思っていた話と違いすぎて、変な声が出た。

「あなたなら、彼も耳を貸すでしょう」

「なんで私が?」

「あなたは彼の弟子なのでしょう?」

「弟子というか……まあ、師匠ですけど」


「ならばお願いします」

 男はもう一度、頭を下げた。

「これ以上、女神の眠りを乱してはならないのです」

「でも」

 私は少し考える。師匠は、サクラ様を無理やり起こそうとしているわけじゃない。世界がどうなってもいいと思っているわけでもない。

「世界を壊さずに起こせる方法を探してるだけですよね?」

 その瞬間、男の表情が変わった。さっきまでの丁寧な笑顔が、少し固くなる。

「その考え自体が危険なのです」

「どうして?」

「女神は眠り続けるべきだからです」

「……」

 またそれ。私は、胸の奥が少し冷たくなるのを感じた。

「サクラ様本人がそう言ったんですか?」

「女神の御意思は、教義に示されています」

「教義って、サクラ様本人が書いたんですか?」

「……」

 答えない。やっぱり。

「じゃあ」

 私は男を見る。

「私は説得しません」

「朝倉さん」

「師匠の方が、私は正しいと思うから」

 その瞬間。男の顔から笑顔が消えた。


「残念です」

「え?」

 その声に、背筋が冷えた。周囲に、いつの間にか数人の教団員が立っていた。白い服。桜の紋章。さっきまで通行人に紛れていたはずの人たちが、私を囲むように立っている。

「……何ですか?」

「あなたには、しばらく我々と来ていただきます」

「は?」

 一歩下がる。

「嫌ですけど」

「これは世界のためです」

「そういうの、一番嫌い」

 私は手を剣に伸ばした。けれど、その瞬間。

「動くな」

 背後から声がした。足元に魔法陣が広がる。

「……っ!」

 身体が重い。膝が沈みそうになる。拘束系の魔法。まずい。そう思った時には、もう腕も足もまともに動かなかった。


「朝倉美月さん」

 男が近づいてくる。

「あなたを傷つけるつもりはありません」

「じゃあ離してください!」

「それはできません」

 その言い方が、やけに落ち着いていて気持ち悪かった。

「黒瀬蓮が、あなたを大切にしていることは分かっています」

「……」

「あなたが我々の側にいれば、彼も無茶はできないでしょう」

 そこでようやく理解した。

「私を……人質にする気?」

「世界を守るためです」

「最低」

 男の眉が動く。

「女神のためと言ってください」

「もっと最低!」

 拘束から抜けようとする。でも、動けない。怖い。怖いけど、それ以上に腹が立った。世界のため。女神のため。その言葉を使えば、何をしてもいいと思っているみたいだった。


 その時。

「誰が」

 聞き慣れた声がした。

「人の弟子に触っていいって言った?」

「……師匠?」

 振り向く。通路の向こうに、師匠の黒瀬さんが立っていた。いつものように、面倒くさそうな顔で。でも、その目だけは全然笑っていなかった。

「師匠!」

「だから師匠はやめろ」

「今そこ!?」

 師匠はゆっくり歩いてくる。その一歩ごとに、周りの空気が重くなる気がした。

「離せ」

 教団員たちが身構える。


「黒瀬蓮」

「一回しか言わねぇぞ」

 師匠の声が低くなる。

「美月から手を離せ」

「我々は世界を守っている!」

「人質取って?」

「必要な行為だ!」

「そうか」

 次の瞬間。師匠の姿が消えた。

「え?」

 何が起きたのか、全然見えなかった。ただ、足元の魔法陣が砕けるように消えた。身体が軽くなる。そして気づいた時には、私を囲んでいた教団員たちが床に倒れていた。

「……早」

 本当に、何が起きたか分からなかった。師匠が私の前に立つ。

「怪我は?」

「ないです」

「なら帰るぞ」


「ちょっと待ってください」

「何だ」

「助けてくれたんですよね?」

「見りゃ分かるだろ」

 いつもの言い方だった。でも、さっきまで怖かった分、その言葉に少しだけ安心した。

「ありがとうございます」

「……おう」

 師匠は少しだけ視線を外した。その反応がおかしくて、私は少しだけ笑った。助かった。本当に、助かった。そう思った。でも。その後ろ。倒れた教団員の一人が、震える手でスマホをこちらへ向けていた。どうやら。最初から。何かを撮っていたらしい。


 その日の夜。一本の動画がネットに流れた。

『女神教とギルド側ハンターが衝突』

『女神サクラ様の目覚めを巡り対立』

 そんな見出しが、いくつも並ぶ。そして、動画の中には。私の声も入っていた。

『サクラ様本人が、永遠に眠りたいって言ったんですか?』

 さらに。師匠の声。

『世界を壊さずに起こす方法を探してるだけだ』

 そこだけを聞けば、私たちが教団に食ってかかっているようにも見える。でも、教団の人たちが私を囲んだこと。拘束魔法を使ったこと。人質にしようとしたこと。その全部が、どう映っているのかは分からない。動画は、信じられない勢いで拡散されていった。私の知らないところで。私の言葉が、どんどん大きくなっていく。もうこれは、ただの私と師匠の話ではなくなっていた。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださっている方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

第一章も楽しんでいただけていたら嬉しいです!


面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、第三部を最後まで駆け抜ける凄まじいエネルギーになります!


(星は1つからでも、ポチッと気軽に押していただけると大喜びします!)


――次回予告――

「サクラさんは、神ではありません」


ギルドはついに、世界へ真実を公表する。

女神ではなく、今も地球を支え続けている一人の人間なのだと。


だがその言葉は、女神教を最後の一線へと向かわせる。


次回

『32. サクラさんは神ではありません。ギルドはついにそう公表した』


次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!

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