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28. 信じるのは勝手だ。ただ、サクラ本人の人生まで決めるな

いつも応援ありがとうございます!


当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


今回もぜひ、最後までお楽しみください!

【皐月(さつき)視点】

 女神サクラ教との対立が表に出始めてから、数日。俺は再びギルド本部へ呼ばれていた。抗議。声明。ニュース。面倒なものは増えたが、俺のやることは変わらない。サクラを助ける方法を探す。それだけだ。

「今度は何だ?」

「黒瀬(くろせ)さんに面会希望」

 継真(けいま)が答える。

「教団から」

「またかよ」

 思わず声が低くなる。

「今回は少し違う」

「違う?」

「一人で来てる。それも、非公式に」

 非公式。その言葉だけで、嫌な予感しかしない。だが、無視する理由もなかった。

「入れてくれ」


 部屋に入ってきたのは、若い女性だった。見覚えがある。以前、教団側の代表と一緒に来ていた女だ。橘重臣(たちばなしげおみ)の隣で、ほとんど口を開かなかった。だが、こちらを見ていた目だけは覚えている。何かを言いたそうな目だった。

「女神教の……」

「はい。桜庭紗良(さくらばさら)と言います」

 女性は深く頭を下げた。

「今日は教団の正式な使者として来たわけではありません」

「じゃあ何だ?」

 俺は椅子に座ったまま、桜庭を見る。信用したわけじゃない。だが、橘とは違う。少なくとも、最初からこちらを断罪しに来た目ではなかった。桜庭は少し迷ってから言った。

「確認したいことがあります」


「何を?」

「サクラ様は、本当に女神ではないのですか?」

 その質問に、俺は継真を見る。継真は何も言わなかった。口を出す気はないらしい。俺が答えろ、ということだ。

「誰から聞いた?」

「教団内で噂になっています」

「俺が美月(みづき)に話したことか」

 思わず息を吐く。噂というのは、本当に面倒くさい。だが、この質問から逃げるつもりはなかった。俺は椅子にもたれた。

「サクラは女神じゃない」

 桜庭の表情が固まった。

「今も?」

「ああ」

「人間のまま?」

「そうだ」


「では……星継(ほしつ)ぎとは?」

「地球を支えるために、自分の魂を地球と繋いでる状態だ」

「……」

「世界を救うためにな」

 神になったわけじゃない。人間をやめたわけでもない。ただ、地球を支えるために、自分の魂を星に繋いだ。そして今も、眠り続けている。桜庭は俯いた。

「教団では、サクラ様は人の身を捨て、神になったと教えられています」

「勝手に話を作ったんだろ」

「ですが、私たちは何十年もそれを信じてきました」

「信じるのは勝手だ」

 少し強く言いすぎたかもしれない。桜庭の肩が、わずかに揺れた。でも。ここだけは曖昧にする気はなかった。


「信じるのは勝手だ」

 俺は桜庭を見た。

「サクラを女神だと思って祈るのも、感謝するのも、好きにすればいい」

 継真が少しだけこちらを見る。俺がそこまで言うとは思っていなかったのかもしれない。だが、信仰そのものを全部否定する気はない。サクラに救われた人間が、サクラに感謝する。それは間違いじゃない。

「ただ」

 俺は低く続けた。

「サクラ本人の人生まで勝手に決めるな」

 桜庭が顔を上げる。

「永遠に眠るのがあいつの望みだったなんて、誰が決めた?」

 桜庭は何も答えなかった。答えられるはずがない。サクラ本人の言葉なんて、教団は知らない。眠り続ける女神という形に、後から意味をつけただけだ。


「もし」

 しばらくして、桜庭が口を開いた。

「世界を守ったまま、サクラ様を目覚めさせられる方法が見つかったら」

「起こす」

「迷わず?」

「ああ」

「サクラ様ご本人が、それを望むか分からなくても?」

 俺は少しだけ考えた。たしかに、サクラが今どう思っているかは分からない。眠りの中で何を感じているのか。起きたいのか。それとも、もう十分だと思っているのか。俺には分からない。だからこそ。

「その時は、起きてから本人に聞けばいい」

 桜庭が目を見開いた。

「眠ったまま周りが勝手に決めるよりマシだろ」

「……そう、ですね」

 初めて。桜庭がほんの少し笑った。


「教団にも、同じ疑問を持っている者がいます」

「そうか」

「まだ少数です」

 桜庭は言った。

「サクラ様を崇めることと、サクラ様を救うことは、本当に同じなのか」

「……」

「私たちは今まで、眠りを守ることがサクラ様を守ることだと信じていました」

 だが。桜庭は少しだけ唇を噛んだ。

「もし違うのであれば」

 女性は俺を見る。

「私たち自身が、サクラ様を苦しめ続けているのかもしれません」

 その言葉に、俺は黙った。教団の人間を信用する気はない。少なくとも、簡単には。だが、桜庭の目は橘とは違った。信仰を守りたい目じゃない。本当に、何かを確かめたい目だった。



 ◇

 その頃。女神サクラ教本部。

「裏切り者が出始めています」

 橘の声が、会議室に響いていた。

「サクラ様を目覚めさせてもよいなどと口にする者まで」

「信仰が揺らいでいるのです」

 低い声が続く。その場にいる幹部たちは、皆、厳しい顔をしていた。

「ならば正さなければならない」

 年配の男が立ち上がった。

「女神の眠りは絶対だ」

「ですが――」

「サクラ様は世界そのものを守っておられる」

 男の目が鋭くなる。

「目覚めさせようとする者は」

 静かな声だった。けれど、その場の空気を凍らせるには十分だった。

「たとえ教団の人間であろうと、女神の敵だ」

 部屋の中。誰も言葉を返さなかった。だが。それぞれの表情は。もう同じ方向を向いてはいなかった。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださっている方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

第一章も楽しんでいただけていたら嬉しいです!


面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、第三部を最後まで駆け抜ける凄まじいエネルギーになります!


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――次回予告――

「女神は世界のために存在する」


その言葉に、桜庭はついに問いを突きつける。

サクラ自身の幸せを無視するなら――それは本当に信仰と呼べるのか。


そして女神教の内部に生まれた亀裂は、もう隠せないほど大きくなっていく。


次回

『29. サクラ様を信仰しているのか、世界を守る道具にしているのか』


次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!

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