27. サクラ様を助ける方法を探したって、いいじゃん
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【美月視点】
「サクラが今、どうやって地球を支えてるのか」
師匠の言葉が、頭から離れなかった。星継ぎ。サクラ様が世界を救うためになったもの。そのくらいは知っている。教科書にも載っていたし、ニュースでも何度も聞いたことがある。でも、私はきっと、何も知らなかった。
「それって、どういうことなんですか?」
私は聞いた。師匠は少しだけ黙る。どこまで話すか考えているように見えた。それから、低い声で答えた。
「サクラは、地球を支えるために自分の魂を地球と繋いでる」
「魂を……?」
「ああ。地球が壊れないように、ずっと力を送り続けてる」
私は言葉を失った。ずっと力を送り続けている。その言葉が、思っていたより重かった。
「じゃあ、眠ってるのも……」
「そのためだ」
「星継ぎになった時に、一度だけ世界を救ったんじゃなくて、今も?」
「ああ」
「ずっと?」
「ずっとだ」
胸が重くなる。サクラ様は、昔、世界を救った人。そう思っていた。でも違った。サクラ様は今も、世界を救い続けている。何十年も眠ったまま。自分の魂を地球に繋いだまま。
「それって……起こしたら、本当に世界が危なくなるんですか?」
「可能性はある」
「……」
否定してほしかった。教団の人たちが大げさに言っているだけだと。サクラ様を起こしても、本当は何も起きないのだと。でも、師匠はそうは言わなかった。
「だから、無理やり起こす気はねぇ」
師匠は続ける。
「世界を壊さずに、サクラだけ解放する方法を探してる」
その言葉で、少しだけ分かった。師匠は、ただサクラ様を起こしたいだけじゃない。世界がどうなってもいいと思っているわけでもない。世界も守る。サクラ様も助ける。その方法を探しているんだ。
私は、さっきの女神教の人たちを思い出す。
『必要な犠牲です』
必要。犠牲。その言葉は、分からなくはない。世界が壊れるなら怖い。何十億もの人が危ないなら、止めたいと思うのも分かる。でも。
「……でも、ずっとこのままって、おかしくないですか?」
師匠が私を見る。
「だって、サクラ様は世界を救うために星継ぎになったんですよね?」
「ああ」
「それで何十年も眠り続けてる」
「ああ」
「なのに、これからもずっと?」
言っていて、だんだん腹が立ってきた。
「それ、終わりがないじゃないですか」
師匠は何も言わない。
「誰か代わりはいないんですか?」
「分からねぇ」
「別の方法は?」
「だから探してる」
「……」
やっぱり、そうなんだ。
師匠はただ、サクラ様を無理やり起こそうとしているんじゃない。世界も壊さずに、助けようとしている。それが、少しずつ分かってきた。
「私、ちょっと分かってきました」
「何が?」
「師匠が、なんでそこまでサクラ様を起こしたいのか」
「……そうか」
師匠はそれ以上、何も言わなかった。でも、その横顔は少しだけ遠くを見ていた。まるで、ここではないどこかにいる誰かを見ているみたいだった。私にはまだ分からない。師匠とサクラ様の間に何があったのか。でも、少なくとも。師匠の言葉は、教団の人たちよりもサクラ様本人に近い気がした。
【桜庭紗良視点】
その夜。女神教本部。会議室には、重い空気が流れていた。昼間、ギルド前にいた教団員が報告している。
「星継ぎへの干渉を続けるつもりだと?」
年配の幹部が低い声で尋ねた。
「はい。黒瀬というハンターは、サクラ様を世界を壊さずに目覚めさせる方法を探していると」
「冒涜だ」
幹部が机を叩いた。鈍い音が、部屋に響く。私はその音に肩を揺らしそうになる。けれど、顔には出さなかった。女神の眠りを守る。それが、私たちの信仰。そのはずだった。でも、昼間の少女の言葉が耳に残っている。
「ですが……」
気づけば、私は口を開いていた。全員の視線が、こちらを向く。しまった、と思った。でも、もう遅い。
「もし、本当にその方法があるとしたら?」
「何?」
幹部の目が細くなる。
「サクラ様を目覚めさせても、世界が守られる方法です」
「そんなものはない」
即座に否定された。
「まだ、ないと決まったわけではありません」
私の声は少し震えていたと思う。それでも、言わずにはいられなかった。部屋の空気が冷たくなる。
「桜庭。あなたは何が言いたい」
「我々は、サクラ様を守っているのでしょうか」
「当然だ」
迷いのない答えだった。でも、私の中の疑問は消えない。
「では……」
少し迷った。それでも言う。
「サクラ様が今も人間として苦しんでいるのだとしたら?」
その瞬間、部屋の空気が止まった気がした。
「何十年も世界のために眠り続けているのだとしたら、我々は守っているのではなく、眠らせ続けているだけでは?」
「黙りなさい」
低い声が響いた。
「サクラ様の眠りによって世界は守られている。それが真実だ」
「ですが、世界を守ったまま目覚めさせる方法があるなら――」
「必要ない」
即答だった。
「必要……ない?」
思わず聞き返してしまう。
「サクラ様は、今のままで完全なのだ」
完全。その言葉が、胸に刺さった。眠ったままの女神。世界を守る象徴。祈りを受け続ける存在。それが、教団にとっての完全。では。サクラ様本人は?私は俯いた。もう何も言えなかった。でも、納得はできなかった。
【美月視点】
家に帰ってからも、私はサクラ様のことを調べていた。星継ぎ。世界を救った少女。何十年も眠り続けている存在。でも、どの記事を見ても、どの動画を見ても、出てくる言葉は同じだった。女神。救世主。永遠の眠り。感謝。祈り。どれもきれいな言葉だった。でも、今日聞いた話とは少し違って見えた。サクラ様は昔、世界を救っただけじゃない。今もずっと、世界を支え続けている。そのことが、急に重く感じた。
「だったら……」
私は小さく呟く。
「助ける方法を探したって、いいじゃん」
世界を壊さずに。サクラ様も助ける。そんな方法が本当にあるなら、探さない理由なんてないと思った。サクラ様を女神として祈ることが悪いとは思わない。世界を守りたいと思うことも、間違っていない。でも。そのために、サクラ様本人のことを見ないのは違う。眠っているからありがたい。起きないから尊い。そんなふうに決めつけるのは、やっぱり違う。その頃、私はまだ知らなかった。同じ疑問を持ち始めている人が、女神教の中にもいることを。
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――次回予告――
サクラを女神として祈ることも、感謝することも自由だ。
けれど――眠り続けることまで、周囲が勝手に決めていいはずがない。
皐月の言葉は、女神教の中に生まれ始めた迷いを、さらに大きく揺らしていく。
次回
『28. 信じるのは勝手だ。ただ、サクラ本人の人生まで決めるな』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




