26. サクラ様を起こすのは怖い。でも、探すことまで駄目なの?
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【美月視点】
「師匠!」
「……来たか」
「何ですかこれ?」
「見りゃ分かるだろ」
見れば分かる。分かるけど、分かりたくない。ギルドの入口前には、女神教の人たちが集まっていた。白い服。胸元の桜の紋章。掲げられた横断幕。
『女神の眠りを守れ』
『星継ぎへの干渉を許すな』
そんな文字が、いくつも並んでいる。
「星継ぎ……」
その言葉は知っている。サクラ様が、世界を救うためになったもの。教科書にも載っていた。ニュースでも見た。でも。
「干渉って……」
何のこと?
「美月さんでしたかな」
声をかけてきたのは、以前、教団本部で会った年配の男だった。たしか、橘という人。穏やかな顔をしているのに、どこか苦手な人だった。
「あなたも」
橘さんは、私と師匠を交互に見た。
「ギルド側なのですか?」
「え?」
「女神サクラ様を目覚めさせようとしている者たちの側なのか、と聞いています」
「ちょっと待ってください」
思わず声が出た。ギルド側。教団側。そんなふうに分けられても困る。私はただ、ギルドへ来ただけだ。それに。
「目覚めさせるって、本当にそんな話なんですか?」
男は、師匠を見る。
「この者たちは、その方法を探そうとしています」
「師匠」
私は反射的に師匠を見た。
「本当なんですか?」
「まあな」
「えっ」
あまりにも普通に認めたので、逆に驚いた。冗談だと思っていた。いや、冗談ではないにしても、考え方の話だと思っていた。前に、師匠は言っていた。
『世界を壊さずに起こす方法があるなら、探すべきだ』
本当に。探していたんだ。サクラ様を目覚めさせる方法を。世界を壊さずに、起こす方法を。
「ですが、それは危険です」
教団の男が続ける。
「サクラ様は、今も星継ぎとして世界を支えておられる」
今も。その言葉に、胸が少し重くなった。
「もし、目覚めさせたことでその力が失われれば、どうなると思います?」
「……」
「再び、世界が崩壊する可能性もある」
私は何も言えなかった。星継ぎになった。それは知っていた。サクラ様が世界を救うために眠っている。それも知っていた。でも。今も。サクラ様が世界を支え続けている?もし起こしたら。世界が壊れる?そこまでは、知らなかった。怖い。正直、そう思った。教団の人たちが反対する理由も、少し分かってしまった。
「だから、我々は反対しているのです」
周囲の教団員たちも頷く。
「何十億もの命と、一人の少女」
橘さんは静かに言った。
「比べるまでもありません」
その言葉に。師匠の表情が変わった。
「……今、何て言った?」
声は低かった。怒鳴ってはいない。でも、ぞくっとした。
「何十億もの命を守るためです」
「そのためなら、サクラ一人は永遠に眠ってろって?」
「必要な犠牲です」
空気が重くなる。師匠が一歩、前へ出た。
「師匠」
なんとなく怖くなって、私は声をかけた。
でも、師匠は怒鳴らなかった。ただ、低い声で言った。
「俺たちは、今すぐ無理やり起こすなんて言ってねぇ」
「ですが――」
「世界を壊さずに、起こす方法を探してるだけだ」
橘さんが黙る。
「それすら駄目なのか?」
師匠は、教団の人たちを見回した。
「方法があるかもしれないのに、探すことすら許さない?」
誰も答えなかった。
「それ、本当にサクラのためか?」
その言葉に、胸の奥がぎゅっとなった。私も、同じことを思っていた。サクラ様のため。世界のため。そう言いながら、誰もサクラ様本人のことを見ていない気がした。
結局。その日の抗議は、大きな騒ぎにはならなかった。警備員とギルド職員に促され、教団の人たちは少しずつ帰っていった。それでも、胸の中のざわざわは消えない。私は師匠と並んで歩く。
「師匠」
「何だ」
「私、ちょっとだけ教団の言ってることも分かります」
「ああ」
否定されると思った。でも、師匠は普通に頷いた。
「サクラ様を起こして、世界が壊れるなら……怖いです」
「当然だ」
その答えは、思ったより優しかった。
「でも」
私は少し考える。
「だからって、方法を探すことまで駄目っていうのは、なんか違う気がします」
「……そうだな」
「世界を守りながら起こせるなら、その方がいいですよね?」
「ああ」
師匠が、少しだけ笑った。
「珍しく、まともなこと言うじゃねぇか」
「失礼ですね!」
「いつも無茶ばっかしてるからな」
「それとこれとは別です!」
ムッとして歩く。いつものやり取り。いつもの師匠。でも、胸の奥には、さっきの言葉が残っていた。サクラ様は、今も星継ぎとして世界を支えている。もし目覚めれば、世界が壊れるかもしれない。私は、それをちゃんと知らなかった。
「師匠」
「何だ」
「サクラ様が、星継ぎになったことは知ってます」
「ああ」
「世界を救うためだったことも、知ってます」
「ああ」
「でも」
私は立ち止まる。
「星継ぎって、今もずっと地球を支え続けるものなんですか?」
師匠の足が止まった。
「……誰から、どこまで聞いた?」
「詳しくは聞いてません」
私は正直に答えた。
「サクラ様が、世界を救うために星継ぎになって、眠っている。それくらいです」
師匠は、しばらく黙っていた。その沈黙が、少し怖かった。
「じゃあ、知らねぇんだな」
「何を?」
「サクラが今、どうやって地球を支えてるのか」
「……どういうこと?」
師匠が、答えようとした。その時。ふと、視線を感じた。少し離れた場所。電柱のそば。人混みから少し外れたところに、誰かが立っている。白い服。胸元には、桜の紋章。女神教の人だった。こちらを見ている。ただの通りすがりじゃない。たぶん、私たちを見ている。
「師匠……」
「気づいてる」
師匠の声が、少し低くなった。その瞬間。さっきまで少しだけ緩んでいた空気が、また重くなる。私は何も言えなかった。星継ぎのこと。サクラ様が今どうやって地球を支えているのか。その答えを聞く前に。また、女神教の影が近づいてきた気がした。
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――次回予告――
サクラは過去に世界を救っただけじゃない。
今この瞬間も、眠りながら地球を支え続けている。
それでも美月は思う。
世界を守ったまま助ける方法を――探したって、いいじゃん。
そしてその疑問は、女神教の中にも芽生え始める。
次回
『27. サクラ様を助ける方法を探したって、いいじゃん』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




