25. サクラ様を起こすな。その声が、ニュースから現実に変わった
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【皐月視点】
教団との話し合いが終わっても、やることは変わらなかった。サクラを助ける方法を探す。それだけだ。女神サクラ教が認めないと言おうが。警告だと脅してこようが。サクラを永遠に眠らせておく理由にはならない。まずは、地球深部の神性反応。問題は。
「場所が分からねぇんだよな」
『はい』
星継ぎの間で、大賢者の返事は相変わらずだった。
『地球深部から発生していることは分かります。しかし、星継ぎ核から正確な位置を特定することはできません』
「なら、こっちから適当に潜るしかないか」
『その方法が現実的でしょう』
地球深部へ近づく場所。思いつくのは一つしかない。
「ダンジョンの深層……」
『はい』
地下へ降りているように見えて、ダンジョンが本当に地中へ続いているとは限らない。そもそも迷宮というものは、空間そのものが歪んでいる。何階まで降りたから、地表から何メートル下、なんて単純な話ではない。だが、迷宮の深い場所ほど地球との結びつきが強くなる。昔から、それだけは分かっている。深層。迷宮核。そして、地球そのものへ近づく場所。
「深層を回ってみる」
『注意してください』
「分かってる」
注意したところで、行くことは変わらない。
ギルドへ行き、継真にも話した。
「深層の記録と、現在入れるダンジョンをまとめるよ」
「頼む」
「零として動く?」
「ああ。その方が楽だろ」
春日皐月が各地の深層ダンジョンを調べ回れば、余計な注目を集める。何十年も外見が変わらない男。英雄クロと関わりがあると疑われている男。そんな名前で動けば、面倒な噂が増えるだけだ。黒瀬蓮でも、動きすぎれば美月に怪しまれる。その点、零なら都合がいい。黒い仮面のS級ハンター。深層ダンジョンの調査任務。それだけで済む。
「了解。こっちで任務扱いにしておく」
「ただ……」
継真が端末を見る。
「もう遅いかもしれない」
「何が?」
画面をこちらへ向けられる。そこにはニュース記事が出ていた。
『女神教、ギルドへ正式要請』
『女神サクラ様の眠りを守るよう求める』
「……早ぇな」
「昨日の今日だよ」
記事を開く。教団は、星継ぎに関する一切の調査を慎重に行うようギルドへ求めていた。サクラを起こそうとしている。そうは書かれていない。ギルドが危険なことをしている。それも書かれていない。だが、言いたいことは分かる。
「遠回しに邪魔すんなってことか」
「そういうことだね」
「知るか」
「そう言うと思った」
【美月視点】
学校の昼休み。
「美月、これ見た?」
友達がスマホを見せてきた。
「何?」
「サクラ様のやつ」
画面には、女神教のニュースが表示されていた。
『女神の眠りを守れ』
大きな見出し。その下には、ギルドへ正式要請を出したという記事が続いている。私は何気なく画面を覗き込んだ。けれど、すぐに指が止まる。コメント欄が、すごいことになっていた。
『サクラ様を起こすなんてありえない』
『今の世界があるのは女神のおかげ』
『眠りを乱すな』
『ギルドは何をしているんだ』
『世界を危険にさらす気か』
そんな意見が、いくつも並んでいる。でも。
「……起こすって、誰が言ったの?」
「知らない。なんかギルドが調査してるらしいよ」
「ギルドが?」
その言葉に、胸が少し跳ねた。私は師匠の言葉を思い出す。
『世界を壊さずに起こす方法があるなら、探すべきだ』
「……もしかして」
「何?」
「ううん」
なんとなく。師匠が関わっている気がした。
でも、それより気になったのはコメントだった。
『女神は永遠に眠ることを望んでいる』
「……だから」
誰が聞いたのよ。サクラ様本人に。私は画面をスクロールする。すると一つだけ、違う意見が目に入った。
『もし世界を守ったまま目覚めさせられる方法があるなら、なぜ探してはいけないのでしょうか』
そのコメントには、大量の批判がついていた。
『冒涜だ』
『信仰心がない』
『サクラ様の御意思を否定するな』
「……」
なんか嫌だ。私は思った。サクラ様を大切にしているはずなのに。誰も。サクラ様自身がどうしたいかを考えていない。
その日の放課後。ギルドへ向かうと、入口の前に大勢の人が集まっていた。白い服。胸元の桜の紋章。すぐに分かった。女神教だ。
『女神の眠りを守れ』
そんな横断幕まである。
「……うわ」
思わず声が出た。昼休みに見たコメント欄が、そのまま現実に出てきたみたいだった。ギルドの職員らしき人たちが、入口付近で対応している。通行人も足を止めて、スマホを向けていた。ざわざわした空気が、肌にまとわりつく。
そして。その向こう側に。腕を組んで、面倒くさそうに立っている師匠が見えた。
「師匠!」
私が呼ぶと、師匠はこちらを見た。
「……来たか」
「何ですかこれ?」
「見りゃ分かるだろ」
「分かるけど!」
分かる。女神サクラ教がギルドに押しかけている。ニュースで見たことが、現実になっている。でも。どうして師匠が、その真ん中にいるのよ。昼休みに思ったことが、もう一度頭に浮かぶ。もしかして、師匠が関わっている。サクラ様を起こす方法を探すことに。女神教が止めようとしていることに。そして、今起きているこの騒ぎに。嫌な予感しかしなかった。
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――次回予告――
サクラを起こせば、世界が壊れるかもしれない。
その怖さを知っても、美月の疑問は消えなかった。
――世界を守ったまま救える方法を、探すことまで駄目なの?
そして、星継ぎの真実を聞こうとする美月を、女神教の視線が追い始める。
次回
『26. サクラ様を起こすのは怖い。でも、探すことまで駄目なの?』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




