24. 祈りではなく警告として、女神教はサクラの眠りを守りに来た
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【皐月視点】
大賢者から神性反応の話を聞いて以降。俺は何度も星継ぎの間へ足を運んでいた。以前から、ここへ来ることは珍しくなかった。サクラに会うため。眠ったままの手を握るため。何も返ってこないと分かっていても、声をかけるため。だが、今はそれだけじゃない。
「変化は?」
『星継ぎへの依存率は、わずかですが低下を続けています』
「神性反応は?」
『こちらも、少しずつ強まっています』
「場所はまだ分からない?」
『はい』
「相変わらずか」
思わず息を吐く。だが、それでも以前とは違う。
今までは、サクラを助ける方法そのものがなかった。星継ぎから切り離せば、地球が壊れるかもしれない。だから手を出せなかった。何十年も。ただ、待つしかなかった。だが今は違う。地球の奥にある何かが、サクラの代わりになれる可能性がある。
「なら、調べるしかねぇな」
『どうやってですか?』
「地球の奥まで行く」
『簡単ではありません』
「分かってる」
ダンジョン。深層。迷宮核。地球の奥へ繋がるものなら、手当たり次第だ。
「サクラがいつまで寝てりゃいいのか分からねぇんだ」
俺は眠るサクラを見る。
「待ってるだけは、もう終わりだ」
その日のうちに、俺は天羽継真へ相談した。
「地球深部を調べたい?」
「ああ」
「例の神性反応の件だね」
「そうだ」
継真には、すでに大賢者から聞いた内容をある程度伝えてある。星継ぎへの依存率が下がっていること。それと同時に、地球深部で神性反応が強まっていること。その反応が、星継ぎの役割と似た性質を持っていること。ただ、具体的な場所も、正体も、まだ何も分かっていない。
「また無茶を言うね」
「慣れてるだろ」
「皐月さんの無茶にはね」
継真は苦笑したあと、表情を戻した。
「本格的に動くなら、ギルド側でも協力する」
「助かる」
「ただし」
継真が俺を見る。
「面倒なことになりそうだよ」
「教団か?」
「ああ。女神教が、最近かなり神経質になってる」
女神教。サクラを信仰対象にした組織だ。
「俺たちが動いてることが?」
「まだ具体的には知られてないと思う。でも、“女神の眠りに異変がある”って噂は出始めてる」
「早ぇな」
「何十年も世界中から注目されてる存在だからね」
サクラは眠っている。だが、世間はずっと見ている。女神として。世界を支える象徴として。その眠りに少しでも変化があるとなれば、騒ぐ連中は出てくる。その時。部屋の扉がノックされた。
「総帥。女神教から面会の申し入れです」
継真と目が合う。
「……来たね」
「噂をすれば、ってやつか」
面倒くさい。だが、ここで追い返しても別の面倒に変わるだけだ。女神教が何を探っているのか。どこまで知っているのか。確認する必要はある。
「通して」
継真が職員に告げる。俺は椅子に座ったまま、息を吐いた。今の俺は春日皐月ではない。黒瀬蓮として、継真の護衛という扱いにする。本名で余計な情報を与える必要はない。
しばらくして。二人の教団関係者が部屋へ入ってきた。一人は年配の男。白い服の上から、落ち着いた色の外套を羽織っている。胸元には桜の紋章。
「橘重臣と申します」
もう一人は若い女性だった。こちらはほとんど口を開かず、橘の後ろに控えている。
「天羽総帥。そして……」
橘の視線が俺に向く。
「ああ、俺は黒瀬蓮と言います。護衛だ」
「黒瀬様ですね」
橘はそう言って、俺を見る。丁寧な目だった。だが、値踏みするような冷たさもあった。橘は椅子へ座ると、すぐに本題へ入った。
「最近、星継ぎの間において何らかの調査が行われていると聞いております」
「誰から聞いた?」
「それは申し上げられません」
継真が薄く笑う。
「では、こちらも何も言えませんね」
橘の眉がわずかに動いた。
「一つだけ確認したい」
「何でしょう」
継真が穏やかに返す。だが、橘の視線は俺にも向いていた。
「サクラ様を目覚めさせようとしているのですか?」
部屋の空気が変わった。継真はすぐには答えない。俺も、少しだけ黙った。だが、隠したところで意味はない。
「方法を探してる」
俺が口を開いた。
「世界を壊さずに起こす方法をな」
「……やはり」
橘の目が細くなる。
「おやめください」
即答だった。
「なぜ?」
「サクラ様の眠りこそが、現在の世界を支えているからです」
「それは知ってる」
「ならば、なおさらです」
橘は静かに言った。
「女神サクラ様は、自ら永遠の眠りを選ばれたのです」
「違う」
俺は即座に否定した。男の表情が固まる。
「サクラは世界を救うために眠ることを選んだ」
「同じことです」
「同じじゃねぇよ」
俺は橘を睨んだ。
「世界を救う方法がそれしかなかったから選んだんだ」
怖いと言った。寂しいとも言った。生きたいとも言った。それでも、あいつは自分で選んだ。その選択を否定する気はない。だが。それを、永遠に眠り続けたいという願いにすり替えるな。
「別の方法があるなら、助ける」
「それはあなたの願望では?」
「ああ」
否定する必要はなかった。
「俺はサクラを助けたい」
男の顔が険しくなる。その隣で、若い女性だけが少し俯いていた。
「世界よりも?」
「世界もだ」
俺は即答した。
「世界を捨てる気はねぇ。サクラ一人のために、今生きてる連中を見殺しにする気もねぇ」
橘は黙って俺を見る。
「だが、世界を守るためにサクラを犠牲にし続ける気もねぇ」
俺は言った。
「世界もサクラも、両方助ける方法を探す」
綺麗事だ。そんなことは分かっている。だが、何十年も眠るサクラの手を握り続けてきた俺にとっては、それ以外の答えなんてなかった。
しばらく沈黙が続いた。やがて橘が立ち上がる。
「我々は認めません」
「勝手にしろ」
「女神の眠りを乱す行為が行われるのであれば、教団として看過することはできません」
「脅しか?」
「警告です」
橘はそう言って、深く頭を下げた。若い女性もそれに続く。ただ、部屋を出る直前。その女性だけが、一瞬こちらを見た。何かを言いたそうな目だった。だが、言葉はない。二人は部屋を出ていった。扉が閉まる。
「……始まったね」
継真がため息をついた。
「ああ」
俺は椅子にもたれた。面倒だ。これ以上なく面倒だ。だが。やめる理由にはならない。
「サクラを助ける」
それだけは。誰に何を言われても変えるつもりはなかった。
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――次回予告――
「サクラ様を起こすな」
ニュースやネットの中だけだったその声は、ついにギルドの目の前へ押し寄せる。
そして美月は、その騒ぎの中心に立つ“師匠”を見つけてしまう。
次回
『25. サクラ様を起こすな。その声が、ニュースから現実に変わった』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




