23. サクラ様にとっても幸せなんですか。美月は女神教本部でそう聞いた
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間違って7時に予約投稿してました、すみません……
【美月視点】
結局。私は女神教の本部へ来ていた。来るまで、何度も迷った。師匠に言った方がいいのか。お母さんに相談した方がいいのか。でも、言ったら止められる気がした。だから来てしまった。自分の目で確かめたかった。この人たちが、サクラ様をどう見ているのか。
「……大きい」
近くで見ると、前に見た教会よりずっと立派だった。白い建物。大きな桜の紋章。入口の前には、女神サクラ様の像が立っている。
「朝倉美月さんですね」
前に声をかけてきた女性が迎えてくれた。
「こちらへどうぞ」
私は小さく頷いて、建物の中へ入る。中には、たくさんの人がいた。祈っている人。サクラ様の像に花を供えている人。手を合わせて、静かに目を閉じている人。中には、涙を流している人までいた。
「すごい……」
思わず声が出る。ただの宗教団体だと思っていた。でも、ここにいる人たちは本気だった。本気で祈っている。本気で感謝している。
「サクラ様に救われた方は、今も世界中にいらっしゃいます」
「でも、何十年も前のことですよね?」
「ええ。ですが、その子や孫の世代にも信仰は受け継がれています」
入口の像は、両手を胸の前で組み、優しく微笑んでいる姿だった。きれいだった。すごく、きれいだった。でも。
「こんな感じだったのかな……」
歴史の資料で見た写真とは、少し違う気がした。写真の中のサクラ様は、もっと普通の人に見えた。笑っている写真も、緊張した顔の写真もあった。どこか頼りなさそうに見えるものもあった。でも、この像は違う。最初から女神だったみたいに、きれいに整えられている。人間らしい迷いや怖さは、どこにもなかった。
案内された部屋には、サクラ様の生涯が展示されていた。ダンジョン。深淵王との戦い。地球の崩壊。星継ぎ。壁には写真や説明文が並び、中央には映像を流す大きな画面があった。たくさんの人が、その前で静かに足を止めている。そして、展示の最後。一番大きな文字で、こう書かれていた。
『女神サクラは、自ら永遠の眠りにつき、今も世界を守り続けている』
「……女神」
思わず呟いた。その言葉が、やっぱり引っかかった。
「……女神」
「はい」
女性は当然のように答えた。
「サクラ様は人の身を捨て、神となられました」
「人じゃないんですか?」
「すでに人を超えた御方です」
その答えに、私は少し引っかかった。人を超えた御方。たしかに、世界を救った人だ。普通の人とは違うのかもしれない。でも。師匠は、サクラ様のことをそんなふうには話していなかった。もっと普通に。もっと近くにいた人みたいに。起こしてあげたい誰かみたいに話していた。
「サクラ様って、眠りたかったんですか?」
「もちろんです」
女性は迷わず答えた。けれど、その答えは少し早すぎる気がした。
「本人がそう言ったんですか?」
女性が一瞬だけ黙った。
「世界を救うため、自ら眠りを選ばれました」
「それは知ってます。でも……」
私は展示されたサクラ様の写真を見る。写真の中のサクラ様は、像よりずっと人間らしく見えた。少し困ったような顔をしている写真だった。
「ずっと眠りたいって言ったんですか?」
「……」
今度は返事がなかった。部屋の空気が、少しだけ変わった気がした。
代わりに、別の男性が近づいてきた。年配の人だった。白い服の胸元には、ほかの人より少し大きな桜の紋章がある。
「そこのあなた」
「はい」
「女神の御意思を疑うことは、あまり感心しませんね」
「疑ってるわけじゃ……」
「サクラ様の眠りがあるからこそ、我々は今を生きていられるのです」
その声は穏やかだった。怒鳴っているわけではない。責めているようにも聞こえない。でも。どこか怖かった。疑問を持つことそのものを、やんわり塞がれている気がした。
「目覚めさせる必要などありません」
「……でも」
「女神は永遠に眠り、世界を守る。それが最も幸福な形なのです」
幸福。私はその言葉を聞いて、少しだけ腹が立った。誰にとっての幸福なんだろう。世界にとって?信者の人たちにとって?それとも。サクラ様本人にとって?
「それって」
「はい?」
「サクラ様にとっても、幸せなんですか?」
男の表情が固まった。私は、自分でも驚くくらい止まれなかった。
「世界を救うんだから、幸せとか関係ないってことですか?」
「あなたはまだ若い。理解するには時間が必要でしょう」
そう言われた。なんか。嫌だった。若いから分からない。何も知らないから黙っていろ。そう言われたみたいだった。私はもう一度、サクラ様の写真を見る。女神。救世主。世界を守る存在。きれいな言葉は、いくつもあった。でも。そこに書かれている言葉の中に。サクラ様本人が何を望んでいたのか。それだけが、どこにもなかった。
「……変なの」
小さく呟く。その言葉を、近くにいた何人かの教団員が聞いていた。空気が、少しだけ冷える。そして。少し離れた場所では。一人の若い教団員だけが、黙って私を見ていた。
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――次回予告――
サクラを起こす方法を探し始めた皐月たちの前に、女神教が直接姿を現す。
「女神の眠りを乱すな」
それは祈りでも願いでもない――明確な“警告”だった。
次回
『24. 祈りではなく警告として、女神教はサクラの眠りを守りに来た』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




