22. サクラ様本人に、誰が永遠に眠りたいか聞いたの?
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【美月視点】
女神教について調べてから、なんとなく気になっていた。女神サクラ様。永遠の眠り。その眠りを妨げることは、世界への冒涜。きれいな言葉のはずなのに、どうしても引っかかる。サクラ様を大切にしているなら、目を覚ましてほしいとは思わないのだろうか。そう思うこと自体が、間違いなのだろうか。だから次にギルドへ行った時、私は師匠に聞いてみた。
「師匠」
「何だ」
「サクラ様って、本当に起こしちゃ駄目なんですか?」
師匠の足が止まった。
「……誰に聞いた」
「ネットです」
「ろくなもん見てねぇな」
「でも、教団の人たちはそう言ってましたよ。サクラ様が眠ってるから地球が大丈夫なんだって」
「それ自体は間違ってねぇ」
「じゃあ、やっぱり起こしちゃ駄目なんですか?」
師匠は少し黙った。いつもの面倒くさそうな沈黙じゃない。言葉を選んでいるような沈黙だった。
「今すぐ無理やり起こせば、危ない可能性はある」
「だったら……」
「だからって、一生眠らせておけばいいって話にはならねぇだろ」
「……」
私は何も言えなくなった。その言葉が、思っていたより強く胸に残った。
師匠が珍しく、少し怖い顔をしていた。
「世界を壊さずに起こす方法があるなら、探すべきだ」
「師匠は、そう思うんですか?」
「ああ」
迷いのない返事だった。いつもの師匠なら、面倒くせぇとか、知らんとか、そういう言葉で流す。でも、今は違った。サクラ様のことになると、少しだけ声が低くなる。目も怖い。まるで、誰かに奪われたものを取り返そうとしているみたいだった。
「サクラ様のこと、好きなんですか?」
「……は?」
「いや、なんかすごく必死だから」
「余計なこと考えんな」
「怪しい」
「行くぞ」
「絶対なんかありますよね?」
「ねぇよ」
絶対ある。そう思った。
その日の帰り。ギルドの前が少し騒がしかった。白い服を着た人たちが、何人も集まっている。胸元には、桜を模した紋章。
「女神教……」
教団の人たちだった。一人の男が、通行人へ向けて声を上げている。
「女神サクラ様の眠りを乱してはならない!」
「サクラ様は世界のために、今も我々をお守りくださっている!」
立ち止まって聞いている人がいる。何も言わずに通り過ぎる人もいる。その場で頭を下げる人もいた。そのくらい。サクラ様は、この世界では特別な存在なんだ。改めてそう思った。
でも。
「永遠の眠りこそ、女神サクラ様の御意思!」
その言葉に、私は引っかかった。
「……御意思?」
誰かが、そう言ったの?サクラ様本人が。ずっと眠っていたいって。起きたくないって。そんなことを、本当に言ったの?昼間の師匠の言葉を思い出す。
『一生眠らせておけばいいって話にはならねぇだろ』
私も。そっちの方が正しい気がした。眠っているからありがたい。眠り続けるから尊い。そういう考え方は、やっぱりどこか変だ。世界を救った人なら。なおさら、起きてほしいと思ってもいいんじゃないの?
その時だった。
「朝倉美月さんですね?」
「え?」
声をかけてきたのは、白い服を着た女性だった。胸元には、桜の紋章。女神教の人だ。
「そうですけど……どうして私の名前を?」
「突然すみません。私もハンター登録をしておりまして、以前ギルドの受付でお見かけしたんです」
女性は優しく笑った。
「その時、あなたが美桜おばあちゃんとおっしゃっていたので」
「……美桜おばあちゃん」
おばあちゃんの名前が出た瞬間、少し警戒した。たしかに、ギルドでは何度かそう言った覚えがある。でも、それを覚えられていたのは、少し気味が悪かった。
「そんなあなたに、ぜひ一度、女神教の本部へ来てほしくて」
「私が?」
「はい」
女性は穏やかに頷いた。
「美桜様は、女神サクラ様をお守りした偉大な方です。その血を引くあなたにも、ぜひ知っていただきたいのです」
「何を?」
女性は笑顔のまま答えた。
「女神サクラ様が、なぜ永遠に眠り続けなければならないのかを」
「…………」
返事ができなかった。優しい声だった。きれいな笑顔だった。でも、その言葉だけが、妙に冷たく聞こえた。永遠に眠り続けなければならない。その言い方が、やっぱり引っかかった。
私は返事をしなかった。怖いとは思った。急に名前を呼ばれたことも。おばあちゃんの名前を出されたことも。本部へ来てほしいと言われたことも。全部、少し変だ。でも。気になる。この人たちは、本当にサクラ様を大切に思っているのだろうか。それとも、永遠に眠る女神としてしか見ていないのだろうか。師匠の言葉と、教団の言葉。どちらが正しいのかは、まだ分からない。だから。自分の目で確かめてみたくなった。女神サクラ様が、なぜ永遠に眠り続けなければならないのか。その言葉の意味を。ほんの少しだけ。聞いてみたいと思った。
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――次回予告――
「永遠に眠ることが、女神にとって最も幸福な形です」
その言葉に、美月は問い返す。
――それは本当に、サクラ様本人にとっても幸せなんですか?
女神として崇める人々の中で、美月だけが“一人の少女”を見ようとしていた。
次回
『23. サクラ様にとっても幸せなんですか。美月は女神教本部でそう聞いた』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




