21. サクラを起こすな。女神教の声明は、祈りではなく脅しだった
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【皐月視点】
数日後。俺は総帥である天羽継真に呼ばれて、ギルド本部へ来ていた。総帥室に入った時点で、面倒な話だということは分かった。継真の顔が、いつもより少し硬い。机の上には複数の端末。表示されている資料の量を見るだけで、ろくでもない話だと分かる。
「何だ?」
俺が聞くと、継真は短く答えた。
「女神教が動いてる」
「……何?」
思わず眉が寄った。
継真が端末をこちらへ向ける。そこには、教団が出した声明が表示されていた。
『女神サクラ様の御眠りを乱す行為を、我々は決して許容しない』
丁寧な言葉を使っている。だが、中身は脅しに近い。サクラを起こそうとするな。そう言っているようにしか見えなかった。
「ずいぶん物騒だな」
「最近、サクラさんの周辺で何か動きがあるって噂が流れてる」
「噂?」
「星継ぎの状態に変化があったとか、ギルドが何か調査してるとか」
俺は眉をひそめた。
「漏れてんのか?」
「確定情報じゃない。憶測が広がってるだけだと思う」
「面倒くせぇな」
継真がため息をつく。
「女神教は、もう小さな宗教団体じゃない」
端末の画面が切り替わる。国内支部。海外支部。関連団体。寄付元。そこに並ぶ名前を見て、俺は小さく舌打ちした。
「ずいぶん増えたな」
「国内だけでもかなりの信者がいる。政治家、企業、ハンター、ギルド関係者。いろんなところにね」
「ギルドにもか」
「いると思った方がいい」
面倒な話だった。魔物なら斬ればいい。迷宮核なら壊せばいい。だが、人間の信仰はそうはいかない。斬れば終わるものじゃない。むしろ、下手に触れば広がる。
「サクラさんが眠ってるから、今の平和がある。そう信じてる人は多い」
「間違ってはいねぇ」
俺は認めるしかなかった。サクラが眠ったから、地球は救われた。サクラが星継ぎとして世界の生命循環を支えたから、今の平和がある。それ自体は事実だ。
「そうなんだよ」
継真が低く言う。
「だから厄介だ」
完全な嘘なら、否定すればいい。だが、女神教の言葉には事実が混ざっている。サクラが世界を救った。サクラが眠ることで、地球は生き延びた。そこまでは正しい。だが、だから永遠に眠っていろという結論は違う。俺は、そこだけは絶対に認める気がなかった。
「皐月さん」
「何だ」
「本当に、起こすつもり?」
「ああ」
迷う理由はなかった。
「危険があっても?」
「世界を壊してまで起こす気はねぇよ」
俺は即答した。
「世界を壊さずに起こす方法を探す」
「……そうだね、そう言うと思った」
「何十年も眠らせたままで、それが正しいなんて俺は思わねぇ」
継真は黙った。たぶん、こいつも分かっている。サクラが眠ったおかげで世界は救われた。だが、それと、サクラを永遠に眠らせていいかどうかは別の話だ。
少しして、継真が口を開いた。
「教団側は、そうは思わないかもしれない」
「だろうな」
「彼らにとって、サクラさんはもう一人の人間じゃない」
「女神か」
「ああ」
俺は舌打ちした。サクラは女神じゃない。飯を食う。怒る。笑う。泣く。無茶をする。怖いくせに、最後には前へ出る。そういう、ただの人間だった。世界を救った。それだけだ。それだけで、人は勝手に神にする。勝手に祈って。勝手に崇めて。勝手に、眠り続けることを望む。ふざけた話だった。
「俺はサクラを神様にした覚えはねぇよ」
「世間はそう見てる」
「勝手な話だな」
継真が苦笑する。
「とりあえず、教団の動きはこっちでも見ておく」
「ああ」
俺は立ち上がった。話すべきことはだいたい分かった。女神教は動いている。噂も広がっている。サクラを起こすなら、こいつらは邪魔になるかもしれない。だが、部屋を出る前に継真が俺を呼び止めた。
「皐月さん」
「ん?」
「教団全部を敵だと思わない方がいい」
「分かってる」
「中には、本当にサクラさんを大切に思ってる人もいる」
「だから面倒なんだろ」
「そういうこと」
敵なら斬ればいい。だが、善意でサクラを閉じ込めようとする人間は、斬って終わりにはできない。
廊下を歩きながら、さっきの声明を思い出す。
『女神サクラ様の御眠りを乱す行為を、決して許容しない』
「……知るかよ」
小さく吐き捨てた。御眠り。永遠の祈り。未来を守る女神。きれいな言葉を並べれば、聞こえはいい。だが、サクラは眠りたいって言ったわけじゃない。あいつは、世界を救うために眠るしかなかっただけだ。怖いと言った。寂しいと言った。生きたいとも言った。それでも、自分で選んだ。だからこそ。それを、永遠に眠り続けることが本人の望みだったみたいに扱うのは違う。
「待ってろ、サクラ」
教団が何を言おうが。世間が何を祈ろうが。方法があるなら、俺は探す。世界も救う。サクラも救う。どっちかを諦めるつもりはなかった。
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――次回予告――
「永遠の眠りこそ、女神サクラ様の御意思」
その言葉に、美月は初めて真正面から疑問を抱く。
――それ、本当にサクラ様本人が望んだことなの?
そして女神教は、美桜の孫である美月へ接触する。
次回
『22. サクラ様本人に、誰が永遠に眠りたいか聞いたの?』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




