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20. かわいそうじゃないの。美月は初めて、女神ではなくサクラを見た

いつも応援ありがとうございます!


当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


今回もぜひ、最後までお楽しみください!

【美月(みづき)視点】

 女神教(めがみきょう)。名前くらいは知っていた。というか、知らない人の方が少ないと思う。世界を救った女神サクラを信仰する宗教。星継(ほしつ)ぎとなって地球を救ったサクラ様へ感謝を捧げる人たち。規模はそこまで大きくはないけれど、ニュースやネットで名前を見ることはある。私にとっては、そのくらいの認識だった。サクラ様の名前は特別だ。おばあちゃんが最後まで守った人だから。でも、女神教そのものについて深く考えたことはなかった。


 その日、私は師匠とダンジョンへ向かう途中、大きな建物の前を通った。

「すごい人……」

 白い建物だった。壁も柱も、妙にきれいで、普通の施設というより神殿みたいに見える。入口には、サクラ様の像があった。両手を胸の前で重ね、目を閉じて眠るような姿。その前には、何十人もの人が並んでいる。花を持っている人。小さなお守りを握っている人。祈るように目を伏せている人。

「今日なんかあるんですか?」

「知らん」

「師匠、興味なさすぎ」

「ねぇからな」

 いつも通りぶっきらぼうな返事。でも、なんとなく。本当に興味がないというより、見ないようにしているようにも見えた。


 近くを見ると、大きな看板があった。

『女神サクラ様に感謝を』

『女神の眠りが、我々の未来を守る』

 私は足を止めた。

「……眠りが未来を守る」

 文字だけ見れば、間違ってはいないのかもしれない。サクラ様は星継ぎとなって、地球を救った。そのおかげで、今の私たちは普通に暮らせている。それは分かる。分かるんだけど。

「行くぞ」

「ちょっと待ってくださいよ」

 建物の中から、祈りの言葉が聞こえてきた。

「サクラ様が永遠に我らをお守りくださいますように」

 永遠に。その言葉が、なんとなく引っかかった。


「師匠」

「何だ」

「サクラ様って、ずっと眠ってるんですよね?」

「ああ」

「起きないんですか?」

 師匠の足が、一瞬だけ止まった。本当に一瞬。でも、私はそれに気づいた。

「……今はな」

「今は?」

「行くぞ」

「またそれ!」

 師匠はそれ以上、何も言わなかった。いつもそうだ。聞きたいところになると、急に黙る。でも、今の沈黙は少し違った。面倒くさいから答えない、というより。答えたくないことを飲み込んだように見えた。


 その日の夜。家に帰ってからも、昼間に見た看板の文字が頭から離れなかった。女神の眠りが、我々の未来を守る。サクラ様が永遠に我らをお守りくださいますように。永遠に。その言葉が、どうしても引っかかる。気になって、女神教について調べてみた。スマホで検索すると、思っていたよりずっと多くの記事が出てきた。公式サイト。ニュース記事。信者の投稿。祭典の動画。思っていたより、ずっと大きな組織だった。国内だけじゃない。海外にも信者がいる。サクラ様が世界を救った日を記念した祭典。サクラ様を模した像。お守り。教会。巡礼。

「……こんなに?」

 私は思わず声を漏らした。


 記事を読み進める。その中に、一つ気になる文章があった。

『女神サクラ様は、自ら永遠の眠りを選ばれた』

『その眠りを妨げることは、世界そのものへの冒涜である』

「……え?」

 私は画面を見つめた。眠っているんじゃなくて。眠り続けなきゃいけない?起こそうとすることが、冒涜?その考え方に、胸の奥が少しざわついた。サクラ様は世界を救った人だ。それは分かる。でも、だからといって。その人がずっと眠っていることを、みんなで願うのは。なんだか。変じゃない?


 さらに調べる。似たような言葉は、いくつも出てきた。

『女神の眠りこそ、人類の安寧』

『永遠なる眠りへの感謝を』

 そして。

『女神の目覚めは、世界の終焉を意味する』

「……そんなの」

 画面の文字が、急に冷たく見えた。サクラ様が目を覚ますことが、世界の終わり。そう書いてある。まるで、サクラ様が起きること自体が悪いことみたいに。でも、サクラ様は世界を救った人だ。自分から眠ることを選んだ人だ。それなのに。起きないでください。永遠に眠っていてください。あなたが眠っていることが、私たちの未来です。そんなふうに祈られ続けるのは。

「かわいそうじゃないの……?」

 口に出した瞬間、自分でも少し驚いた。


 かわいそう。そんなふうに思ったのは、初めてだった。私にとって、サクラ様は女神だった。教科書に載る人。世界を救った人。おばあちゃんが守った人。すごくて、遠くて、きれいな存在。でも今、画面の中の文字を読んでいると、少し違って見えた。ずっと眠っている人。目を覚ますことを、誰かに怖がられている人。起きないでほしいと、祈られている人。それは本当に、女神なのだろうか。ただ、世界を救ったせいで眠り続けている、一人の人なんじゃないのだろうか。昼間、師匠は言った。今はな、と。あれはどういう意味だったんだろう。


 その時。スマホにニュースの通知が入った。

『女神教、大規模祈念祭を開催へ』

 何気なく開いた記事には、大きな文字でこう書かれていた。

『女神の永遠なる眠りを祈る』

 私はしばらく、その文字を見つめていた。永遠なる眠り。感謝。祈り。未来。きれいな言葉ばかりが並んでいる。でも、その言葉の真ん中にあるのは、サクラ様が目を覚まさないことだった。それが、どうしても引っかかった。世界を救った人に。永遠に眠っていてくださいと祈ること。それは本当に、感謝なんだろうか。私は答えを出せないまま、画面の文字を見つめ続けていた。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださっている方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

第一章も楽しんでいただけていたら嬉しいです!


面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、第三部を最後まで駆け抜ける凄まじいエネルギーになります!


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――次回予告――

サクラを“女神”として崇める女神教が、ついに動き出す。


「その眠りを乱すことは許さない」

祈りの言葉をまとった声明は――サクラを起こす者への、明確な脅しだった。


次回

『21. サクラを起こすな。女神教の声明は、祈りではなく脅しだった』


次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!

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