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世界を救った少女が眠り続けているので、大悪魔の俺が今度こそ救うことにした  作者: 和伊 和威
第一章 眠り続ける星継ぎと、目覚め始めた地球の神
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02. 美桜は幸せだったと言って、サクラを俺に託した

いつも応援ありがとうございます!


当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


今回もぜひ、最後までお楽しみください!

【皐月(さつき)視点】

 あの日、「ただいま」と言った女が誰だったのか。その答えを、俺たちはもう知っている。知るまでに、少し時間はかかった。けれど、分かってしまえば、あまりにも当然だった。あの瞳も。あの笑い方も。俺の名前を呼ぶ声も。何もかもが、俺の知っている女のものだった。

「……皐月」

 弱々しい声に呼ばれて、俺はベッドの横に座った。

「ここにいる」

 細くなった手を握る。皺の増えた指。白くなった髪。それでも、笑った時の顔だけは昔と変わらない。美桜(みお)は安心したように目を細めた。


 部屋には俺たち以外にも何人かいた。美桜の子供。そして、少し離れたところには十五歳の孫娘が立っている。美桜が地球へ戻ってきてから、長い時間が過ぎた。俺たちは結婚した。子供ができた。その子も大人になり、家庭を持った。やがて、孫が生まれた。何もかもが、当たり前のように進んでいった。朝起きて。飯を食って。喧嘩をして。仲直りをして。子供の成長に驚いて。孫の顔を見て、美桜が泣いて。そんな、どこにでもあるような時間だった。ただ一つだけ、普通じゃなかったのは。美桜は歳を取った。俺だけが、ほとんど変わらなかったことだ。


「ねえ、皐月」

「なんだ」

「私……幸せだったよ」

「……俺もだ」

「ほんと?」

「嘘ついてどうすんだよ」

 美桜が小さく笑った。その笑い方を見ていると、何十年も前のことを思い出す。知らない姿で現れて。知らない声で、俺の名前を呼んで。俺たちの前で、『ただいま』なんて言った女。あれが、美桜だった。姿は違った。髪の色も、瞳の色も、俺が知っている水無瀬(みなせ)美桜とは違っていた。それでも、あいつは確かに美桜だった。俺のところへ、帰ってきた女だった。


「皐月」

「ん?」

「一つだけ……お願いしていい?」

「ああ」

 断る理由なんてなかった。美桜は少しだけ視線を動かした。窓の外。そのずっと先にいる誰かを見るように。

「サクラちゃんのこと……お願いね」

 俺は答えなかった。答えられなかった、という方が正しい。サクラはまだ眠っている。あの日からずっと。星継ぎとして、地球の生命循環を支え続けている。世界は救われた。けれど、サクラは戻ってこない。

「もう……十分、頑張ったと思うから」

「……ああ」

 今度は、ちゃんと答えた。

「必ず助ける」

「うん」

 美桜は満足そうに笑った。


 そして最後に、

「皐月」

「なんだよ」

「ありがとう」

 そう言って、美桜は静かに目を閉じた。

「……美桜?」

 返事はなかった。握った手から、少しずつ温もりが消えていく。ゆっくりと。本当にゆっくりと。俺の手の中から、美桜の時間が離れていく。八十五歳。美桜は、人間としての人生を終えた。長い人生だった。幸せな人生だったと、本人は言った。だから。俺も、そうだったと思うことにした。そう思わなければ、俺はまた、美桜を間に合わせられなかったことにしてしまうから。


 ふと顔を上げる。部屋の隅で、孫娘が俺を見ていた。泣いている。祖母を失った悲しみで。けれど、その目には悲しみとは別の感情も混じっている。戸惑い。疑問。そして、ほんの少しの恐怖。孫娘は俺の手を見た。顔を見た。そして、もう一度、美桜を見る。皺だらけになった祖母。白い髪。細くなった身体。その隣にいる、何十年経ってもほとんど変わらない俺。

「……なんで」

 孫娘が、小さく呟いた。

「?」

「なんで、おじいちゃんだけ……歳を取らないの」

 俺は何も言えなかった。説明できる言葉はいくらでもある。でも、今ここで孫に向けて言える言葉は、一つもなかった。少女は俺から目を逸らした。その表情には、明らかな恐怖があった。


 その日から、孫娘は俺と少し距離を置くようになった。無理もない。祖母は歳を取り、死んだ。祖父だけが、昔の写真と同じ顔をしている。普通なら、怖い。それが正しい。俺は、普通じゃない。そんな当たり前のことを、家族に突きつけられただけだった。そして、三年後。十八歳になったその少女は、ハンターになった。その理由を、俺はまだ知らない。ただ。その選択が、止まっていた俺の時間をもう一度動かすことになるとは。この時の俺は、まだ知らなかった。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださっている方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

第一章も楽しんでいただけていたら嬉しいです!


面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、第三部を最後まで駆け抜ける凄まじいエネルギーになります!


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――次回予告――

英雄クロに憧れ、祖母・美桜のようなハンターを目指す美月。


けれど彼女はまだ知らない。

家で暇そうにしている“気味の悪い祖父”こそ、自分が憧れる本物の英雄だということを――。


次回

『03. 英雄に憧れる孫娘は、家にいる本物の英雄を嫌っていた』


次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!

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