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世界を救った少女が眠り続けているので、大悪魔の俺が今度こそ救うことにした  作者: 和伊 和威
第一章 眠り続ける星継ぎと、目覚め始めた地球の神
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01. 知らない女は、泣きそうな顔で「ただいま」と言った

いつも応援ありがとうございます!


第三部

『世界を救った少女が眠り続けているので、大悪魔の俺が今度こそ救うことにした』

をお届けします。


今回も、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新予定です。


世界を救うため眠りについたサクラ。

そして今度は、皐月が彼女を救うために動き始めます。


※本作は、

『地球のダンジョンで死んだ俺、千年後に大悪魔となって召喚されたので契約者と世界を救うことにした』

の続編です。


前作の内容を前提として物語が進むため、未読の方は先に前作をお読みいただくことをおすすめします。


今回もぜひ、最後までお楽しみください!

【皐月(さつき)視点】

 地球は、少しずつ元の姿を取り戻していた。枯れていた木々には新しい芽が生え、灰色だった空にも、少しずつ青が戻っている。止まりかけていた川は細く流れを取り戻し、街を歩く人間たちの顔にも、以前より少しだけ血色が戻っていた。世界は救われた。たぶん、そう言っていいのだろう。けれど、全部が元通りになったわけじゃない。失われたものは戻らない。眠った者が、目を覚ますわけでもない。その中心にいるのが、サクラだった。


 かつて迷宮核が存在した最深部。今ではそこは、地球の生命力が集まる《星継(ほしつ)ぎの間》と呼ばれている。壁も、床も、天井も、淡い光を帯びていた。魔素とも違う。迷宮核の光とも違う。もっと柔らかく、もっと温かい。星そのものの呼吸のような光。その中央に、透明な結晶があった。結晶の中で、サクラは眠っている。あの日と何ひとつ変わらない姿で。少し目を離したら、今にも「おはよう」と言いそうな顔で。でも、目覚めない。それだけが、変わらなかった。


「……今日も変わらないね」

 真里(まり)が、小さく呟いた。

「ああ」

 俺はそれだけ答えた。変わらない。それは今、安心でもある。サクラの身体は壊れていない。結晶の中で、静かに眠り続けている。地球の生命循環も安定している。星は、今日も呼吸している。それは全部、サクラがここにいるからだ。でも。変わらないということは、サクラが目を覚まさないということでもある。今日も。明日も。その次の日も。たぶん、ずっと。俺は結晶の中のサクラを見つめた。呼べば返事をしてくれそうなのに。もう、返事はない。


 若葉(わかば)が俺の隣に並ぶ。

「兄さん。帰ろうか」

「……そうだな」

 そう答えるまでに、少し時間がかかった。帰る。どこへ。サクラを置いて。そんな言葉が喉の奥まで出かかったが、飲み込んだ。ここに残っていても、サクラが目を覚ますわけじゃない。そんなことは分かっている。分かっていても、足は重かった。俺はもう一度、結晶の中のサクラを見る。また来る。声には出さず、そう告げた。そして俺たちは、地上へ戻った。


 外へ出ると、柔らかな風が吹いていた。以前なら魔素で濁っていた風が、今ではどこか懐かしい匂いを運んでくる。空は、まだ完全な青ではない。それでも、灰色一色だった頃とは違う。遠くで、子どもの声が聞こえた。車の音。人の話し声。当たり前の日常が、少しずつ戻ってきている。サクラが守った世界だ。サクラが眠り続けることで、生き延びた世界だ。それでも。俺は空を見上げた。

「……本当に、これでよかったのかよ」


 誰に聞かせるでもなかった。答えが返ってくるとも思っていない。地球は救われた。サクラは自分で選んだ。それは分かっている。何度も自分に言い聞かせた。でも、納得できるかどうかは別だ。サクラが笑っていた朝を覚えている。「あと五分」と言っていた声を覚えている。その全部を飲み込んで、それでよかったなんて、簡単に言えるわけがない。その時だった。

「皐月?」

 聞き覚えのない女の声。俺たち三人が振り返る。


 そこに、一人の女性が立っていた。明るい色の長い髪。透き通るような青い瞳。確実に日本人じゃない。そして、地球ではまず見かけないような服装。年齢は三十歳前後だろうか。知らない。少なくとも、俺にはこんな女の知り合いはいない。真里が警戒するように一歩前へ出た。

「……どちら様ですか?」

 その声には、天照院の人間らしい硬さがあった。若葉も女を見つめる。

「兄さんの知り合い?」

「いや」

 そう答えながら、俺は妙な違和感を覚えていた。


 知らない女のはずなのに。なぜか――目が離せない。女は俺を見ていた。真里でも、若葉でもない。俺だけを。今にも泣きそうな顔で。その口元が、少しだけ緩む。笑った。ほんのわずかに。その笑い方に。胸の奥が、ざわついた。知らない。こんな顔は知らない。こんな声も知らない。それなのに。どうして、こんなにも懐かしい。女は一歩、こちらへ近づいた。真里が身構える。若葉が息を呑む。俺だけが、動けなかった。


 そして。まるで昨日までここにいたみたいに。まるで長い外出から帰ってきただけみたいに。当たり前の声で、女は言った。

「――ただいま」

 俺は何も答えられなかった。真里も。若葉も。知らない女を、ただ見つめていた。懐かしい。でも、知らない。胸がざわつく。なのに、記憶が追いつかない。目の前の女は、泣きそうな顔で笑っている。その表情だけが、どうしようもなく胸に刺さる。――誰だ、こいつ。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださっている方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

第一章も楽しんでいただけていたら嬉しいです!


面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、第三部を最後まで駆け抜ける凄まじいエネルギーになります!


(星は1つからでも、ポチッと気軽に押していただけると大喜びします!)


――次回予告――

美桜が遺した、最後の願い。

そして三年後、十八歳になった孫娘・美月はハンターへの道を選ぶ。


その選択が、止まっていた皐月の時間を再び動かし始める――。


次回

『02. 美桜は幸せだったと言って、サクラを俺に託した』


次回【夕方18:00】更新です!

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