18. 地球の奥にいる何かは、サクラと同じ役割を持っていた
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【皐月視点】
「昔にも、同じ反応はなかったのか?」
『分かりません』
「分からない?」
『はい。以前は、迷宮核から明確に識別できるほどの反応ではありませんでした』
「……最近になって強くなったってことか」
『そう考えられます』
大賢者は迷宮核の中にいる。外へ出ることはできない。当然、どこかへ行って調べることもできない。こいつにできるのは、ここから地球の状態を観測することだけだ。それでも、今はその観測だけが頼りだった。
「じゃあ、今分かることだけでいい。もう少し詳しく見られないか?」
『試みます』
しばらく、大賢者の声が途絶えた。星継ぎの間が、急に静かになる。サクラは眠ったままだ。透明な結晶の中で、あの日と変わらない姿のまま。俺はそのそばで待った。期待するな。何度も自分に言い聞かせる。期待して、駄目だった時の方がきつい。だが、それでも期待してしまう。地球深部の神性反応。星継ぎへの依存率低下。それが偶然じゃないなら、そこにサクラを起こす手がかりがあるかもしれない。逆に、サクラを脅かす何かかもしれない。何も分からないまま待つ時間は、妙に長く感じた。
やがて。
『……奇妙です』
「何が?」
『この反応は、地球の外部から入り込んだものではないようです』
「ヴァルメリアから来たものじゃない?」
『はい』
「迷宮核でもない」
『はい』
「サクラでもない」
『その通りです』
俺は眉をひそめた。ヴァルメリア由来ではない。迷宮核でもない。星継ぎになったサクラの反応でもない。なら、残るものは限られてくる。
「じゃあ……地球そのものから出てるってことか?」
『その表現が最も近いでしょう』
「地球そのもの……」
ますます意味が分からない。地球に神はいない。少なくとも、俺たちはそう認識していた。ヴァルメリアには女神がいる。世界を見下ろし、盤面を眺める、あの白い女神が。だが、地球にはいない。だからサクラが星継ぎになった。地球に星を支える存在がいなかったから。そう思っていた。なのに。地球そのものから、神性反応が出ている。ずっと眠っていたのか。ダンジョンに削られたことで目を覚ましたのか。それとも、サクラが星継ぎになったことで何かが動き始めたのか。どれも、今は分からない。
だが、大賢者はさらに続けた。
『そして、この反応には一つ特徴があります』
「特徴?」
『星継ぎが担っているものと、非常によく似ています』
「……何?」
『生命、魔力、大地。その循環を安定させる性質です』
俺は眠るサクラを見た。それは。今まさに、サクラがやっていることだ。星の生命循環を支え、魔力の流れを整え、大地の崩壊を防ぐ。世界がもう一度呼吸できるように、何十年も眠り続けてきた。
「つまり、地球を維持する力?」
『はい』
「それが地球の奥から出てる?」
『微弱ですが』
微弱。その言葉で、浮かびかけた期待を少し抑える。まだ足りない。まだ、サクラを解放できるほどではない。だが、何もないわけでもない。
そこで一つの考えが浮かんだ。
「……もしかして」
『はい』
「昔から地球には、そういう役割をする何かがあったんじゃねぇのか?」
大賢者はすぐには答えなかった。
『可能性はあります』
「地球を管理する何か」
『ただし、現時点ではそれが生物なのか、意思を持つ存在なのか、それすら分かりません』
「神性反応って言ったよな」
『はい』
「だったら……神みたいなものか?」
『それも仮説の一つにすぎません』
神。管理者。星の核。あるいは、ただの自然現象。どれでもあり得る。どれであっても、面倒なことに変わりはなかった。
地球には神はいない。ずっとそう思っていた。ヴァルメリアには、女神ヴァルメリアがいる。あいつは世界を救う神ではなかった。ただ観測し、興味を持った時だけ盤面に触れる、最悪の観客だった。それでも、存在はしていた。だが地球にはいない。星を支える者がいない。だからサクラが星継ぎになった。そう思っていた。なのに。地球の奥には、サクラと似た役割を持つ神性がある。
「……何なんだよ、地球の奥にいるのは」
もし昔からいたなら、なぜ今まで動かなかった。なぜサクラが眠る必要があった。そんな苛立ちが喉元まで上がった。だが、ぶつける相手はいない。もちろん答えも返ってこなかった。
『観測を続けます』
「ああ」
『変化があれば、すぐに伝えます』
「頼む」
俺はサクラの手を握った。温かい。何十年経っても、ここだけは変わらない。地球がサクラを必要とする力は、少しずつ弱くなっている。その一方で。地球の奥にある何かが、少しずつ強くなっている。偶然とは思えなかった。それがサクラを解放する鍵なのか。それとも、また別の厄介事なのか。今はまだ分からない。だが、分からないままにはしておけない。サクラを起こすためにも。この星が何を隠しているのか、確かめる必要があった。
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――次回予告――
地球深部の神性反応は強まり、サクラへの依存は少しずつ弱くなっていく。
何十年も待ち続けた先に、ようやく見え始めた希望。
世界を救った少女を――今度は皐月が救う番だ。
次回
『19. 世界を救った少女を、今度は俺が救う番だ』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




