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世界を救った少女が眠り続けているので、大悪魔の俺が今度こそ救うことにした  作者: 和伊 和威
第一章 眠り続ける星継ぎと、目覚め始めた地球の神
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16/62

16. 何十年も眠り続けたサクラに、初めて変化が起きた

いつも応援ありがとうございます!


当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


今回もぜひ、最後までお楽しみください!

【美月(みづき)視点】

 ギルドの管理フロアへ戻ってから、私は散々怒られた。

「深層適性者だと説明したばかりでしょう!」

「はい……」

「しかも、同程度のレベルの仲間だけで潜るのも控えるようにと言いましたよね?」

「……はい」

 何も言い返せない。いつもなら、少しくらい反論していたかもしれない。浅い階層までのつもりでした、とか。ちゃんと三階層で帰ろうとしました、とか。でも、そんな言い訳は何の意味もなかった。結果として、仲間まで危険に巻き込んだ。跳(と)ばし鬼(おに)に飛ばされたのが私だけだったのは、不幸中の幸いだったらしい。もし友達も一緒に飛ばされていたら。もし、あのオーガの前に全員で放り出されていたら。考えただけで、息が詰まった。


「君が飛ばされた位置は、推定十三階層付近です」

「十三……」

 声がうまく出なかった。三階層から、十三階層近くまで。新人が一人で入っていい場所ではない。オークがいた。オーガもいた。あれは、そういう階層だったからだ。頭では分かっていたはずなのに、数字で聞かされた瞬間、現実味が一気に増した。あのまま零様が来てくれなかったら。私は死んでいた。そう思った瞬間、今さら身体が震えた。


「そういえば……零(ゼロ)様は?」

 辺りを見回す。さっきまで、隣にいたはずなのに。黒い装備も、黒い仮面も、もうどこにも見えなかった。

「零さんなら、もう行かれましたよ」

「えっ……」

 お礼、ちゃんと言いたかったのに。助けてくれたこと。回復薬を使ってくれたこと。泣いて抱きついてしまったこと。いろいろ言いたいことはあった。いや、最後のは言わなくていい。思い出しただけで、少し顔が熱くなる。でも、もういない。S級ハンターって、そういうものなのかな。助けるだけ助けて、何も言わずに去っていく。かっこいい。でも、少しだけ残念だった。


 少し残念に思っていると、管理フロアの入口から見覚えのある男が歩いてきた。

「美月」

「……なんでいるの?」

 おじいちゃんだった。まただ。なんでこういう時にいるのよ。

「春香(はるか)から連絡が来た」

「……お母さん?」

「ああ」

 私を見るなり、皐月は小さく息を吐いた。

「無事でよかった」

「…………」

 なんか。イラッとする。心配してくれているのは、たぶん分かる。でも、分かりたくない。零様に助けてもらった直後だから余計に思う。同じ男の人なのに、どうしてこんなに違うんだろう。


「帰るぞ」

「分かってる」

 そう言って、私は先に歩いた。できるだけ振り返らないようにする。でも、管理フロアを出る直前、つい後ろを確認してしまった。おじいちゃんは何も言わずに、少し離れて歩いていた。その姿を見て、ほんの少しだけ安心した自分がいた。

「……何よ」

 自分で自分に腹が立つ。別に。おじいちゃんが来てくれて嬉しいわけじゃない。心配されたことが嬉しいわけでもない。ただ今日は。一人で帰るよりは、少しだけマシだった。それだけ。本当に、それだけだ。



【皐月(さつき)視点】

 数日後。俺はいつもの場所へ向かっていた。美月の一件も、ひとまず落ち着いた。本人がどこまで反省しているのかは怪しい。だが、少なくとも以前よりは慎重になるだろう。たぶん。

「……なるといいんだがな」

 そんなことを考えながら、奥へ進む。ここへ来るのは珍しいことじゃない。何十年経っても、俺は定期的に訪れている。サクラのところへ。星継(ほしつ)ぎの間。地球の生命循環の中心。そして、サクラが眠り続けている場所。


 星継ぎとなったサクラは、今も眠り続けている。透明な結晶の中で、あの日とほとんど変わらない姿のまま。歳を取らない。目を開けない。返事もしない。それでも、そこにいる。

「よう、サクラ」

 当然、返事はない。

「また来たぞ」

 俺は眠るサクラのそばへ座った。何十年も、ずっとこんな感じだ。俺が話して。サクラは眠っている。それでいい。少なくとも、ここにいる限りは生きていると分かる。生きていると分かるなら、俺はまだ諦めずにいられる。


 最近あったことを、適当に話す。美桜のこと。春香のこと。それから、美月のこと。

「美月がハンターになった」

 サクラは眠ったまま。

「しかも、深層適性者だった。お前と同じだ」

 言ってから、少しだけ息を吐いた。

「今は黒瀬蓮(くろせれん)って名前で、あいつの指導員をやってる。祖父として近づくと逃げるからな」

 返事はない。でも、サクラなら笑う気がした。それか、少し呆れてこう言うかもしれない。ちゃんと話せばいいのに、クロは不器用だねって。

「美月のやつ、跳ばし鬼に飛ばされやがってな」

 俺は結晶の中のサクラを見る。

「お前なら怒るだろうな」


 何十年も、ずっとこんな感じだ。俺が話して。サクラは眠っている。返事はない。笑わない。怒らない。あと五分とも言わない。それでも、変わらないことに安心していた。サクラがそこにいる。星継ぎとして生きている。世界の中心で、眠り続けている。変わらない。それは安心だった。そして、苦しさでもあった。俺はいつか、こいつを起こす。そう決めている。だが今はまだ、その方法を見つけられていない。


 その時だった。

『……皐月』

「ん?」

 大賢者の声。いつもの淡々とした声のはずなのに、今日は少し違って聞こえた。ほんのわずかに、間がある。それだけで、胸の奥がざわつく。

「どうした?」

 答えはすぐに返ってこなかった。代わりに、星継ぎの間の光が、かすかに揺れた気がした。俺はサクラを見る。眠ったままの顔。変わらないはずの姿。その周囲を包む透明な結晶が、いつもより淡く瞬いているように見えた。


 しばらく間があった。そして、大賢者は言った。

『星継ぎに、変化があります』

 俺はサクラを見る。

「変化?」

 胸の奥が、嫌な音を立てた。変化。その言葉は、希望にも聞こえる。だが同時に、恐怖にも聞こえた。何十年。一度も変わらなかった。眠り続けるサクラ。透明な結晶。星の生命循環。それが今、初めて変わろうとしている。

「サクラに何かあったのか?」

『現在、確認しています』

「おい」

 俺は立ち上がった。何十年。一度も変わらなかった。そのサクラに。初めて、変化が起きた。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださっている方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

第一章も楽しんでいただけていたら嬉しいです!


面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、第三部を最後まで駆け抜ける凄まじいエネルギーになります!


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――次回予告――

地球の回復によって、星継ぎへの依存は少しずつ弱まり始めていた。


サクラを起こせるかもしれない――。

そう希望が見えたその時、地球深部で“神性反応”が観測される。


次回

『17. サクラを起こせるかもしれない。その希望と同時に、地球の神性反応が現れた』


次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!

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