13. 美月は深層適性者だった。だから、ダンジョンに悪い意味で好かれる
いつも応援ありがとうございます!
当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。
今回もぜひ、最後までお楽しみください!
【美月視点】
ギルドへ行くと、受付でいきなり呼び止められた。
「朝倉美月さん。支部長がお呼びです」
「……私?」
何かしたっけ。そう思って、すぐに昨日のことが頭に浮かんだ。学校帰りに、一人で森型ダンジョンへ入ったこと。浅い階層だけのつもりだったのに、妙に魔物が多かったこと。本来いるはずのないゴブリンに遭遇したこと。そして、外に出たところで、おじいちゃんに会ったこと。……もしかして、怒られる?少し嫌な予感を抱えながら、私は支部長室へ向かった。扉の前で一度だけ深呼吸する。それから、ノックして中へ入った。
扉を開けると、そこには支部長だけじゃなく、黒瀬さんもいた。
「師匠?」
「師匠じゃねぇ」
いつもの返事。それを聞いて、少しだけ肩の力が抜けた。でも、今日は何かが違った。黒瀬さんはいつもみたいに面倒くさそうな顔をしている。けれど、目だけは少し真剣だった。支部長も、冗談を言う雰囲気ではない。
「座りなさい」
支部長に言われ、私は黒瀬さんの隣に座った。座った瞬間、背筋が勝手に伸びる。何か、良くない話をされる。そんな気がした。
「君に、重大なことを伝える」
「重大なこと?」
支部長の表情が真剣になる。私は思わず、膝の上で手を握った。
「君は――深層適性者だ」
「……え?」
聞いたことのある言葉だった。ハンター講習でも少し習った。深い階層に適応しやすい者。特殊なダンジョン反応を示す者。そんな説明だったと思う。でも、それは資料の中の言葉だった。自分に関係があるなんて、一度も思っていなかった。
「私が?」
「ああ。本当は、今すぐ伝えるつもりはなかった」
「なんでですか?」
「適性を知ったことで、余計な好奇心を持つ者もいるからだ」
支部長がため息をつく。
「だが、君は一人でダンジョンへ入った。しかも異常が起きたようだね」
「………誰に聞いたんですか?」
反射的に聞いていた。昨日のことだ。もしかして、おじいちゃんか。また、あの人が何か言ったのか。そう思うと、胸の奥が少し熱くなる。けれど支部長は、私の苛立ちには触れなかった。
「また同じことをされては困る。だから伝えておく」
その声は静かだった。怒っているというより、決定事項を告げているように聞こえた。私は何も言い返せず、昨日の森を思い出した。多すぎた魔物。頭上から落ちてきた蛇型モンスター。そして、本来あの階層にいるはずのないゴブリン。背中に、昨日の冷たい感覚が戻ってくる。
支部長は机の上で指を組んだ。
「深層適性者は、ただ深い階層へ行ける人間という意味ではない」
「違うんですか?」
「ああ」
その時、黒瀬さんが口を開いた。
「モンスターや罠、それに迷宮核みたいなものに……妙に好かれる」
「好かれる?」
「悪い意味でな」
全然嬉しくない。好かれるなら、せめて良い意味でお願いしたい。でも、黒瀬さんの目は笑っていなかった。支部長が続ける。
「通常なら起こらない異常に遭遇しやすい。階層に存在しないはずの魔物が現れたり、閉じているはずの道が開いたり、深層へ引き寄せられたりすることもある」
昨日のゴブリンを思い出した。本来、あの場所にはいないはずだった。
「……昨日のも?」
「可能性はある」
背中が少し寒くなる。
「だから黒瀬さんを?」
「ああ」
支部長が頷いた。
「君を守るため、指導員をつけた」
「美桜さんのお孫さんだから、というのは?」
支部長が少しだけ笑った。
「あれは口実だ」
「え?」
隣で黒瀬さんが小さくため息をついた。私は黒瀬さんを見る。師匠がついてくれる。それは嬉しかった。でも、思っていた理由とは違った。私が見込みのある新人だからじゃない。私が特別に強くなれそうだからでもない。危ないから。放っておくと、また何かを引き寄せるかもしれないから。そのために、黒瀬さんがつけられた。嬉しいような。悔しいような。どう受け止めればいいのか、分からなかった。
「今後、単独でのダンジョン行動は禁止とまでは言わない」
支部長の声が再び真剣になる。
「だが、できる限り控えなさい」
「……はい」
「それと、同じくらいの実力の仲間だけで潜るのも危険だ」
「どうして?」
「君に異常が引き寄せられれば、仲間まで巻き込むことになる」
その言葉で、胸が詰まった。友達四人の顔が浮かぶ。五階層で囲まれたゴブリンの群れ。腕を切られた友達。転んで動けなくなった子。そして昨日の、森型ダンジョンの異常。もしかして。全部、私のせいだった可能性がある?私がいたから。私が入ったから。本来起こらないはずのことが起きた?背中が寒くなる。怖い。さっきまでとは違う意味で、怖かった。
「本来なら、ギルドとしてハンターをやめるよう勧めたいくらいだ」
「…………」
何も言えなかった。やめる。その言葉が、初めて現実味を持った。
「だが、最終的に決めるのは君自身だ」
支部長は私を見る。
「続けるか」
「やめるか」
「それは、朝倉美月。君が決めなさい」
私はすぐには答えられなかった。強くなりたい。美桜おばあちゃんみたいになりたい。誰かを守れるハンターになりたい。それは嘘じゃない。でも。私がダンジョンへ行くことで、誰かを危険に巻き込むかもしれない。私が強くなる前に、誰かを傷つけるかもしれない。そんなこと、今まで考えたこともなかった。
「……少し、考えます」
そう答えるのが精一杯だった。隣を見る。黒瀬さんは何も言わなかった。ただ、いつもより少しだけ真剣な目で、私を見ていた。
本編をお読みいただきありがとうございました!
一気読みしてくださっている方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!
第一章も楽しんでいただけていたら嬉しいです!
面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、第三部を最後まで駆け抜ける凄まじいエネルギーになります!
(星は1つからでも、ポチッと気軽に押していただけると大喜びします!)
――次回予告――
師匠との訓練で、自分が強くなったと感じ始めた美月。
けれど《深層適性》を持つ彼女を、ダンジョンはそう簡単には帰してくれない。
仲間と引き離され、美月は一人――見知らぬ階層へ落とされる。
次回
『14. 深層適性者の美月を、ダンジョンは普通に帰してくれなかった』
次回【朝06:00/夕方18:00】更新です!




