第8話
夏休みに入る少し前、授業中に突然教室の扉が激しく開いた。ワックスを塗ったばかりだったせいか、扉はすごい勢いで開いて、破壊的な音をたてた。
みんなびっくりして注目すると、小さなおばさんが入ってきて「大神ってどの子や」とすごく大きな声で言った。しものお母さんだった。みんなが大神のほうへ一斉に目を向けた。大神はまっ青な顔をしてぶるぶる震えていた。
「どの子や! 出てきい! かすみをいつも馬鹿にしてる子おや! あんたか! あんたか!」おばさんは逆上して、男も女も見境なくひとりひとりを指さしていく。僕と目があったとき、少しだけほっとしたように見えた。
おばさんは「謝りい! 謝りなさい! かすみに謝りなさい!」と狂ったように叫び続けていた。呆然と教壇に立っていた先生が我に返って、おばさんを表に連れ出す。
しばらくして先生が戻ってきて、大神を呼んだ。大神ははじめ、いやいやと大きく首を横に振って机にしがみついていたけど、引きずられるようにして連れて行かれてしまった。
扉は一旦閉まってからすぐに開いて「自習~」と先生が言った。もちろん自習なんてする子はいなかったし、ばらばら立ち上がって、教室の中はしものおばさんと大神のことで話題は持ちきりだった。
僕はずっと空いたままだったしもの席の隣でひとり動かないまま考えていた。しものおばさん、小さな声しか出ないと思っていたのに、あんなにはっきりとしゃべれるんだ。
チャイムが鳴って、休憩時間が終わっても、先生も大神もなかなか帰ってこない。教頭先生が入ってきて、自習を続けなさいとプリントを配ったあと、また僕たちを残して去っていった。みんなはまだひそひそ憶測を続けていて、自習のプリントを真面目にしている生徒は少なかった。
そこへ学級委員の斉藤美玖が「中西くん、なんか知らんの?」と話しかけてきた。僕は「知らん」とだけこたえた。斉藤は不満そうに、ぶつぶつ言いながら女子たちの輪に戻っていった。
六時間目の終わりくらいに、大神は目を真っ赤に腫らして戻ってきて、ふらふらと自分の席についた。しものおばさんに包丁とかで刺されたりしてるんじゃないかと思ってすごく怖かったけど、無事に帰ってきたのでよかった。
みんなはそんな大神を、ただ遠巻きに見ているだけだった。大神はしもに何をしたんだろう。




