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夏の黙  作者: 宝や。なんしい


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第5話

 去年の夏休み。


 よその町からきた家族連れが寺が池に落ちるという事故があって、いつもは静かな町が大騒動になったことがあった。


 僕も近くまで見に行ってみたけど、そのときは人が多すぎて何もわからなかった。


 次の日、佐々木が、親が話しているのを盗み聞きしたんやけどさあと言って、妙な話を教えてくれた。


「家族はお父さんとお母さんと女の子と男の子の四人で、特になにがあったってこともないのに、突然一番下の小さい男の子が溺れて、それを助けようとしたお父さんも溺れたんやって。お母さんが言うには、そこは浅瀬やったはずやしそんなことありえへんのにって。まるで誰かに引きずり込まれたみたいやったって」


 寺が池にガタロが棲んでいるという話は、小さい頃からおばあちゃんによく聞かされていた。確か図書室にあった文献にも伝説として少し載っていたのを記憶している。


 この町にある古くからの伝説らしい。ガタロというのは、河童みたいな生き物だそうだ。僕たちは寺が池でよく遊ぶけれど、いまだにお目にかかったことはない。


 どうせ池で遊んじゃいけないからって、大人たちが作り話をして脅しているだけだろうとは思っているけど、おばあちゃんの話し方はいつも迫真なので、もしかしたら本当にいるかもしれないとついつい思ってしまう。


 それにおばあちゃんの弟は、昔、寺が池でガタロに足を引っ張られて溺れて死んでしまったらしいから、あながち嘘とは言い切れない。おばあちゃんは狐にも化かされたことがあるそうだ。この辺で狐を見たこともないし、いくらなんでもそれは信じられないけど、もしかすると昔ならそういうこともあったのかもしれない。


 佐々木の話から、それはガタロのしわざなんじゃないかと思った。やっぱりガタロは本当にいたんだ。


「それがさ、どんどん池の底のほうに引っ張られていって、もうあかんって思ったときに、人魚が助けてくれたらしいねん」

「人魚? 寺が池に人魚もおるん?」


そんな話は聞いたことがなかった。木村が冷静な感じで、

「人魚って海におるんちゃうん? 池にはおらんやろ」と言った。

「オレもそう思うけど、人間やったら大人と子ども、二人もいっぺんにするするっと助けられへんし、水の中で息継ぎもせんと深いとこまで泳いでたんやて。泳ぎ方も魚みたいやったらしいねん」

「ほんでな」佐々木は周りに誰もいないのに、声をひそめた。「その人魚って、女の子やったんやって。オレらくらいの」


 そして僕の顔をちらっと見た。何か言いたそうな感じだったけど何も言わなかった。その人魚が誰かということを示唆しているのだろうか。


 しもの家は寺が池のすぐ際にある。


 そんな家は寺が池の周りには、しもの家くらいしかない。なんでこんなところに建てられているのか誰も知らなかった。


 おばあちゃんなら何か知っているかと思って聞いてみたら、そんなとこに家なんぞあったかいなあ、と言っただけだった。おばあちゃんが演技をしているようには見えない。ただ、あまり触れられたくないことなのだろうかと、なんとなく僕は察した。


 そうするとなんだか町の大人たち全員が、グルになって何かを隠そうとしているような気がしてきた。

 これはまた木村と佐々木とともに、秘密裏に調査しなければならない案件だ。


 寺が池の謎は多い。

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