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夏の黙  作者: 宝や。なんしい


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第4話

 ジュースを飲み終わったあと、しもがこっちこっちと手を招いて奥の本棚の前へ呼んだ。


 そこには漫画の単行本がぎゅうぎゅうに並べられている。僕ん家ではなかなか買ってもらえなかったからすげえすげえと興奮して見ていると「ほ、欲しいのが、あ、あったら、なな、なんでも言うて。も、持ってって、くく、くれていいよ。も、もしこここ、こになかったら、ここ、こ買うてあげるよ」と言った。


 僕は冗談かと思って、それじゃあ、この本棚にはない『太陽の剣士リュウ』が欲しいと言うと「いいよ」と快く返事をしてどこかに電話をかけたあと、近くの本屋に連れていってくれた。


 商店街の中にある本屋に着くと、無精ひげの生えたひどく汚れた作業服を着たおじさんが僕たちの来るのを待っていて「どれでもええし、なんぼでもええから好きなだけ取りい」と無愛想に言った。


 断るのが怖くて、とりあえず一冊だけ手に取ってみた。おじさんは「それだけでええんか」と怒ったみたいな口調で言ってきて、僕がびくびくしていると、しもが「まさちゃん、そんな無愛想に言わんでもええやん」と、ほとんどどもることなく言った。


 しもはずっとおじさんのごつい腕を両手でつかんだままで、おじさんはしもを見て、優しく微笑んでいる。しもはまだ僕と話したそうにしてたけど、そこで別れて帰ってきた。なんだかすごく怖くてしょうがなかった。


 家に帰るとお母さんに「知らん人にそんなん買うてもらったりしたらあかんでしょ。お返ししてきなさい」と叱られた。迷ったすえ、寺ヶ池にある小さな公園の隅っこに埋めることにした。昔、飼ってた金魚が死んだとき、死体を埋めたあたりに。


『太陽の剣士リュウ』の一巻は売り切れていてあの本屋には置いてなかったので、二巻を買ってもらった。その辺に落ちていた棒切れをうまく使って穴を掘り、本を入れて上から土をかぶせる。一ページも開かないまま、少しずつ『太陽の剣士リュウ』二巻は姿を消していった。


 今では金魚のお墓がどこだったのか正確にはわからない。骨はまだどこかに遺っているのかな。


 そのあとも、しもの家に行くたびに新しい漫画が増え続けている。でもあのおじさんと会ったのはこのときだけだ。

 結局、おじさんが何者なのか、今でも聞けないでいる。


 しものことをクラスで一番いじめているのは、電気屋の大神だ。成績もたいしていいわけじゃなくて運動神経も中くらい。背も低くて特にどうってこともないヤツなのに、なぜだか誰も大神に逆らうものはいない。


 僕はあまり関わることがなかったので何かをされたことはないけど、しものことを目の敵にする理由はイマイチよくわからなかった。大神はクラス委員の斉藤美玖のことが好きだと公言しているし、しもをいじめて気を引きたいわけではなさそうだ。


 しもが先生に当てられて、どもると大神は必ず大きな声で笑う。先生が注意しても、大神は次の時もその次の時も必ず同じように大きな声で笑う。しもは焦るとどんどん言葉が出なくなるから、そうなるともう収拾がつかなくなって、最後には先生が「座りなさい」と言って、しもが泣きながら座って、この一連のやりとりはようやくお終いになるというパターンが繰り返される。


 僕はそれを見るたび、なんで先生はこうなることがわかっていて、いつもしもを当てるんだろうと思った。大神にしたって、毎回毎回いったい何がそんなに面白いんだろう。大神の取り巻きやクラスのほかのヤツらだって、遠くから見ているだけで誰も何も言わないし何もしない。一緒に笑っているヤツだっている。女子が隠れて笑っているのも知っている。


 そして僕も。僕もこういうときに、しもを助けたことは一度もない。

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