第2話
僕たちは毎日、その遊歩道を通って小学校に通っている。
夏休みに入ってからは、遊歩道を利用する人はずいぶんと少なくなった。朝早くにマラソンをする人や、犬を散歩させている人、おじいさんやおばあさんの姿をちらほら見かけるくらいで、あとは蝉の鳴いている以外には、たまに草野球の金属バットの音が、遠くのグラウンドから聞こえてきたりするくらい。
ときおり、暗い林の中からすり抜けてきた冷たい風がびゅううっと鳴って、お日さまの匂いを連れてくることがあるけど、それはいつも行く駄菓子屋の軒先にかかっているゴム製のぶ厚い日除けをげんこつでぼこぼこ叩きながら歩いたときにふわりと香る、埃っぽいようなけむったいような匂いに似ていた。
しもは、小さな声でどこかで聴いたことのあるような歌を口ずさみながら、ぴょんぴょん飛び跳ねている。
何してるのと聞いたら、けけ、け、けんぱとこたえた。
けんぱは、遊歩道の地面に貼られたタイルに描かれている模様にしたがって、足を開いたり閉じたり、片足で飛んだり、くるりと向きを変えて今来た道を戻ったりして、僕にはちょっと理解できない法則によって繰り返されている。
少し進んではまたすぐ後戻りしてしまうので、おかげで僕たち二人はゆっくりとしか前には進めない。僕はしものスピードに合わせてゆっくりゆっくり歩く。
今日のしもは珍しくフリルのたくさんついた真っ白なワンピースを着ていて、飛び跳ねると裾が大げさにめくれた。細い太ももが見える。見ないようにしたかったけど、勝手に目に入ってきてしまうから仕方がない。
わざとそうしているような気がした。
しもの皮膚は薄っぺらくて、透けて見えそうで怖い。車のボンネットの中身みたいに、複雑に絡み合うコードとか管とかネジとかの部品でできていたらどうしようかと、なんとなくそんなことを考えていた。
「か、かかか、か、一樹く、くん。き、き、き今日は、なな、なんで、が、学校にき、来たん?」
「図書室に本を借りに。夏休みの宿題で使う本。休み前に借りようと思ってたのに忘れてて。今日は図書室開いてる日やから」
「ふうん。そそ、そうなんや」
「しも。転校するん?」
しもにはどもりがあって、特にか行は言いにくいから、一樹くんの名前は嫌いと言われた。
しもは下山かすみという名前で、僕はしもと呼ぶ。五年生のとき同じクラスになって、隣同士になった時からずっとそう呼んでいる。しもは、はじめは僕のことを中西くんと呼んでいたのに、いつの間にかわざわざ言いにくい一樹くんと呼ぶようになっていた。
「うん。に、二学期から」
さっき学校に到着したとき、おばさんと職員室から出てくるしもを見つけた。
おばさんが僕を見て「一樹くんに転校のご挨拶しときなさいよ」と言っているのが聞こえた。どきどきしながら走って図書室に行って、本を借りて戻ってきたら、校門のところでしもがひとりで僕を待っていた。
何もしゃべらなかったけど、そのまま一緒に帰ることになった。
太陽は真上にいて遮るものもなく、直射日光がぱらぱら落ちてくる。いっぽんいっぽんが鋭い矢みたいで触れるたびに痛いと思った。僕の肌はどんどん真っ黒に焦げていくのに、しもはずっと白いままだ。




