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夏の黙  作者: 宝や。なんしい


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第1話

 僕の住んでいる町の真ん中には、寺が池というとてつもなく大きな池がある。


 池のまわりに寺なんてないのにどうしてこの名前がついたんだろうという謎について、以前、木村と佐々木と三人で考察してみたことがあった。

 

 池になる前、実はここには昔、寺が建っていたんじゃないかという仮説をたててみて、いろいろと検証してみたところ、やっぱりその説が一番有力だという結果になった。


 根拠は、図書室にあったこの町の伝説について書かれた文献から。

 と言っても、小学生向けの絵本のような本だから、眉唾ものではあるけど。


 でも大人たちからの聞き取り調査の中で、ずっと昔、大雨が続いて沈んでしまった村の話を聞いた時、これはあながち嘘でもないと確信したのだ。


 この池の底に、昔は栄えていたはずの村や寺がすっぽりと沈んでいるのだとしたら、ちょっと不気味。僕の住むこの町も、いつか寺が池にそのまま飲み込まれてしまうんじゃないだろうか。そんなことを考えてしまう。


 ただこの事実はなぜか明らかにはされていない。大人たちは知らないのか、あるいはわざと隠しているのか。どちらにしてもその理由について、僕たちは今も内密に調査と考察を続けている次第だ。


 寺が池の形状はいわゆるまんまるじゃなくて複雑に入り組んでいて、どこから見ても全容を把握することはできない。空撮した全体像の写真というものを、社会科見学のときに配られたプリントで見たことはあるけど、僕らはそれをあまり信用していない。


 寺が池がこんなに小さいはずはないのだから。


 池の周囲は遊歩道として整備されていて、ここら辺の住民にとっては憩いの場所となっている。遊歩道はぐるりと一周つながっているわけじゃなくて、途中で行き止まりになっているところもあるので、本当はどのくらいの大きさなのかは計り知れない。


 僕がまだ小さくて常識をあまり理解できなかった頃、寺が池は海だと思っていた。

 その頃、海なんて見たことがなかったし、琵琶湖すらも知らなかったんだから仕方がない。


 お父さんが「海っちゅうんはな、向こう岸が見えへんねんで。一樹が想像もできへんくらいおおきいんやでえ」と自分の手柄みたいに海の大きさを語っていたけれど、本当に想像できなくてよくわからなかった。


 はじめて海を見た時だって、やっぱり寺が池のほうが大きいんじゃないかと思った。


「見てみい、一樹! これが海やでえ。寺が池なんか比べもんにならんくらいおおきいやろう」と、子どもみたいにはしゃぎまくるお父さんに対して、あまり反応してあげることができなかった僕は、ちょっぴり気の毒になって「一樹! なめてみい! この水! 海の水! ええからなめてみいて!」という無茶ぶりをやむなくきいてあげることにした。


 緑色に濁っていて、いろんなものがぷかぷか浮かんでいる水を、口の中に入れるのはものすごく抵抗があったけど、ほんの少しだけ海に指先をつけてなめてみた。


「うわっ、しょっぱ」


 想像以上にしょっぱくて目を丸くする僕の様子を見たお父さんは、わははと大きな口を開けて満足そうに笑った。


 今ではもちろん海のほうが断然大きいということはわかってはいるけれど、寺が池にはまだまだ未知の部分がたくさんあるので、もしかすると海より大きい部分もあるかも知れないという考えは、まだ完全には払拭しきれないでいる。

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