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観察眼に優れた商人は、世間知らずな錬金術師と共に成り上がる!  作者: ファイアス
第1章:ビジネスパートナーへと育て上げる

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第8話:新商品開発の鍵はゴミ捨て場から見つかる

「え~、どうしてできないのー!」


 サリアは手渡した四種類の糸のうち、三種類を結合させたトリプルスレッドはすぐに完成させることができた。

 しかし、四種類の糸を結合させたクアドラプルスレッドの製作は難航していた。

 糸素材の一つであるリトルアルラウネの触手が上手く混ざらないからだ。


「実物を見てみるか?」

「あるの?」

「手元にはないが、市場に行けばあるさ」


 模倣すべき完成品があるのだ。

 見せておくに越したことはない。

 そう思った俺はサリアと共に、中央市場へと足を運んだ。


 中央市場はアキナイ領最大の市場で、平民から貴族まで多くの人々が訪れる。

 そんな中央市場で店舗を構えるのは、商人としての権威を得たに等しい。

 だからこそ地価は高い。


 しかし、店舗を構えれば商売繁盛とはいかない。

 むしろ外部から商品が見えにくいこともあり、露店よりも売り上げが落ち込んだという話も度々聞く。

 だから実力の備わっていない商人なら、ここで店舗を構えてもまず生き残れない。


 それでも俺はこの中央市場に進出したかった。

 権威は更なる利益を生むからだ。


「今日はいつもの露店街じゃないんだ」

「クアドラプルスレッドの買い手は、あそこの客層とは異なるからな」


 取り扱う商品によって、どこで販売すべきかは違ってくる。

 場所によって訪れる客層が変わるからだ。


「先に言っておくが、これから行く黄金商店は相場より高値で売ってる店だ。だから絶対に引き取らされることはするなよ」


 中央市場は露店街と違って、商品の傷や汚れにうるさい。

 そのため、商品に傷をつけたとでもなればすぐに責任を負わされる。


「何でそんな店に行くの?」

「高値で販売してる店なら、売り切れてる可能性が低いからだ」

「おー、高い店にはそんな使い道があるんだ」


 俺たちは黄金商店に辿り着くと、すぐさま商品として並べられているクアドラプルスレッドを発見した。


「これがクアドラプルスレッドだ」


 俺はサリアと共にじっくりとクアドラプルスレッドの観察をする。

 やはり素材に使われているのは、俺の選定した四種類の糸だ。

 俺の判断に間違いがあったとは思えない。


「サリアは何か気づいたか?」

「うーん、わかんない」


 手詰まりか。

 安定した利益を出すべく、次の一手を打ちたいところだが……


「ねぇ、失敗作を置いてるお店ってある?」


 サリアは俺に問いかける。


「失敗作だけを集めた店は知らないが、品質のまばらな店なら何軒か知ってる」

「そこに行きたーい」

「何でだ?」

「失敗作のほうがどうなってるのか分かりやすいかなって」

「なるほどな」


 サリアの着眼点は悪くない。

 例えば編み物で形を整えるために仕込んだ針金が飛び出していたら、危ないし見栄えも悪いと酷評される。

 だが、そんな雑な編み物ならば、針金を利用したのは一目で分かる。

 彼女はそういった分かりやすさを失敗作に求めているのだろう。


 俺はサリアの希望通り、品質のまばらな店へと向かう。


「なんにもないね」


 一軒目の店では、目的のクアドラプルスレッドは置いていなかった。

 その品揃えを見たサリアは「なんにもないね」と口走る。


「店主に聞こえる場所でそういう発言をするのはやめろ」


 サリアの世間知らずな発言は相変わらずだ。

 俺たちは店を出ると、サリアに発言の問題点を指摘した。

 失礼な発言をすれば店主を怒らせてしまい出禁になることがある。

 さらに危険なのは「何が欲しいんだい?」と、セールストークに持ち込まれてぼったくり商品を掴まされることだ。


「そんなことあるの!?」

「もちろんだ。お前は特に狙われやすいだろう」

「そんなのヤダー!」

「だったら不用意な発言は控えろ」

「うん……」


 以前にセールストークは無視しろと伝えたが、質問に答えるように迫られたら彼女はまず逃げられない。

 しかも詐欺ではないことから、犯罪とはみなされない。

 だからこそ、隙を見せてはいけない。

 俺はそのことを彼女に強く伝えた。

 ……もっともサリアに単独で中央市場を歩かせるつもりはない。


「次に行くぞ」


 二軒目の店だ。


「これは良品だよね?」

「ああ」


 二軒目の店にはクアドラプルスレッドが置いてあったものの、失敗作とはいえない。

 そもそも品質のまばらな店でも、失敗作は滅多に置いていない。

 その後も何軒か回ったが、目的の商品には辿り着けなかった。


「暗くなってきたねー」

「そうだな」


 陽が沈み、辺りが暗くなり始めた。


「そろそろ帰るか」

「うん」


 もし、調査を続けるなら日を改めよう。

 そう考えた俺たちは自宅に帰ることを決めた。

 しかし、帰り道にゴミ捨て場を通りかかったとき、サリアは突然足を止めた。


「あーっ!」


 彼女は突如大きな声を上げる。


「突然騒ぐな」

「だってあれ!」


 サリアが指を差した方向にあったのは、ゴミとして捨てられたリトルアルラウネの触手だ。

 彼女は走り出すと、不用心にも捨てられていた触手を手に取った。


「うわっ!」


 だが、彼女はその直後に手放してしまう。


「きもちわるーい!」

「どうしたんだ?」

「ぬめぬめしてるの!」

「えっ?」


 サリアの言葉を聞いた俺は彼女に続いて、廃棄されたリトルアルラウネの触手を手にした。

 確かに彼女の言う通り、ぬめぬめしている。

 もしや他三種の糸と結合させるには、このぬめりが必要なのではないか?

 ぬめりを引き出す条件は知らないが、見当はついている。

 おそらく乾燥に対する防衛機能だ。


「しかし、このぬめりが他の糸と結合させるのに役立つかもしれない」

「えーっ……」


 俺は廃棄されたリトルアルラウネの触手をそのまま持ち帰ることにした。


「それじゃ確かめるぞ」

「うん!」


 家に帰った俺たちは、持ち帰った触手を早速フライパンに投入した。

 サリアは早速調合に取り掛かる。

 俺はそんな彼女を隣で見守ることにした。


「おーっ!」


 調合を開始してから約一時間、ついにクアドラプルスレッドが完成したのだ。

 これでようやく安定した新たな収入源が得られる。


「でもあの触手って、どうすればぬめぬめしだすの?」


 いや、まだだった。

 あのぬめりを引き出す方法を確立させなければならない。


「それについては今から試す」


 俺は家に保存してあったリトルアルラウネの触手を手に取り、フライパンの中に投じた。

 そして炎魔法でフライパンごと熱した。

 だが、色が変色するだけでぬめりが出てくる様子はない。


「熱するだけではだめか」


 水分の抜き方に問題があるのかもしれない。


「じゃあ次は私がやるー!」


 サリアは氷魔法でリトルアルラウネの触手から水分を抜き取ろうとした。

 しかし、今度はぬめりが出る前にしおれてしまった。


「えー、なんでー!」

「リトルアルラウネは温暖な地域に住む魔物だからな」

「そうなんだ」


 風属性や地属性の魔法を用いても、ぬめりが出てくることはなかった。

 少なくとも乾燥が原因ではなさそうだ。

 腐食の結果なのだろうか?


「……」


 いや、待てよ。

 リトルアルラウネの触手には変わった性質があったはずだ。

 魔物として生きていたときと同様に、あの触手は人間の体液に反応する。

 つまりあのぬめりは人間を誘い込むための誘引成分だ。


 俺はリトルアルラウネの触手に唾を垂らす。


「えぇっ、何やってるの?」


 世間知らずの彼女でも、唾を垂らすのが汚いという常識くらいはあるようだ。


「見てみろ、ぬめりが出てきたぞ」

「えーっ、何で?」

「このぬめりは人間の体液に反応するからだ」

「なんかやだ……」


 気持ちは分からないでもない。

 だが、これでようやく本当の意味でクアドラプルスレッドは完成した。


「そうだ。開発したレシピは忘れないようにメモを取っておいてくれ」


 サリアの記憶力が良いことは重々承知しているが、しばらく作っていなければ忘れてしまう可能性は高い。

 そのためにもメモは必要だ。


「うん!」


 ただし、メモの管理は俺がすべきだ。

 整理整頓の概念すらない彼女が、大事なメモをきちんと保存できるとは思えない。

 下手すれば紛失したあげくに、見知らぬ人の手に渡ってしまう。

 そうなればクアドラプルスレッドの相場が暴落しかねない。


「じゃっ、これで!」

「ほう、これはすごいな!」


 サリアは即席で書いたレシピメモを俺に手渡す。

 どうやら、彼女の書いたメモは紛失しても、情報が洩れる心配はなさそうだ。

 何せ彼女のメモはそのほとんどが絵として描かれており、文字は補足程度にしか書かれていない。

 しかもその絵は即席とは思えないほど丁寧に描かれている。


 だから何を思って書いたのかは、俺たちなら見返せばすぐに分かる。

 だが、今日の出来事を知らない人々が、このメモの意図を理解できるとは思えない。

 間違いない。

 機密性の保持と分かりやすさを兼ね備えた完璧なメモだ。

 まさか無意識に書いたメモでこんな才能を発揮するとは……

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