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観察眼に優れた商人は、世間知らずな錬金術師と共に成り上がる!  作者: ファイアス
第1章:ビジネスパートナーへと育て上げる

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第5話:詐欺に遭わないためには第一印象から

 俺はアネットとルベルトのおかげで70万ゴールドもの資産を得た。

 これでしばらくは収入がなくても生活するのに困らない。

 そのため、俺は露店での営業頻度を減らし、サリアの教育に本腰を入れることにした。

 単なる居候ではなく、ビジネスパートナーと呼べる人材にしたいからだ。


「エルネストさん、そのお金はどうしたの?」

「黒竜の心臓が売れたんだよ!」

「えーっ!」


 黒竜の心臓にどれほどの価値があるか知らなかったサリアは、驚きの声を上げる。


「私が家から持ってきたお金よりも多いじゃん!」

「お前、どれだけの大金を勝手に持ち出したんだよ……」

「50万ゴールドだよ」

「それだけの大金をすぐに使い果たすってどんな使い方をしたんだ?俺と出会ったのって、家を出てきてからまだ2日目だったよな?」


 サリアの金銭感覚がズレてるのは、今更確認するまでもない。

 それでもたった2日でそれだけの大金を使い切ってしまうのはさすがに信じられなかった。


「ヒゲを伸ばしたおじさんが、幸運になれる壺があるっていうから……」


 サリアは表情を曇らせる。

 彼女の口ぶりからして、詐欺に遭ったようだ。


「つまり騙されたのか」

「うん……」


 どうやら詐欺師の男はお金を受け取ると「幸運を呼ぶ光を注ぐから待ってろ」と言って、そのまま戻ってこなかったようだ。


 サリアから聞いた詐欺の手口は、あまりにも稚拙かつ古典的で俺は内心笑ってしまった。

 もっとも、サリアを標的にしたことを考えると、相手を見極める選定眼だけはあったのかもしれない。


「その男の特徴を覚えているか?」

「んーっとね……」


 サリアは詐欺師の特徴を語る。

 言葉遣いがふわふわしていて伝わりづらいが、鮮明に覚えていることだけは分かった。


「俺の知り合いではないな」


 そもそも「幸運を呼ぶ壺」なんて言葉を用いて、詐欺をする知り合いがいなかった。


「取り返せる?」

「いや、まず無理だろう」


 犯人に巡り合えたとしても、詐欺をした証拠がない。

 本人が罪を自白しない限りは、はぐらかされて終わりだ。


「サリアは何でお金をだまし取られたと思う?」

「私が何も知らないからだよね?」


 自分は何も知らない。

 そのことを自覚できるようになったのは大きな成長だな。


「それもそうだが、問題は内面をすぐに見抜かれたことだろう」

「何で見抜かれたの?」


 俺がサリアと初めて会った日、言葉を交わす前から彼女が世間知らずなのはなんとなく分かっていた。

 子供っぽい振る舞い、周囲の人間との距離感や言葉遣い、新しいものすべてを珍しがるような視線、何より実年齢にそぐわない服装が浮世離れした印象を与えていたからだ。


「えーっ、私はこのお洋服が好きなのに!」

「別にその服を着るなとは言ってない」


 要は周囲から浮かないことが大事なのだ。

 弱い生き物ならば自然に擬態するなりして、生存に適した行動を取る。

 しかし、今のサリアは自分から捕食対象ですと主張しているようなものだ。


「どうすればいいの?」

「服装以外の問題は時間と共に解消されるさ」

「ほんとに?」

「ああ、言葉を交わす前のことはな……」


 俺がこれまで話したことは、あくまでカモに見られないようにどうすればいいかについてだ。

 言葉巧みに搾取する相手からは、今の暮らしを続けていても免疫が付くとは思えない。

 そもそもサリアのような世間知らずでなくとも、容易く騙されてしまうのだ。

 詐欺師のやり口を知らなくては対処できないだろう。


「話し始めたらどうすればいいの?」

「そもそも相手のキャッチセールスに乗らなければいい」


 手練れの詐欺師とはいえ、聞く耳を持たない相手に対応するのは難しい。

 だから、キャッチセールスを無視するだけでも被害に遭う機会は激減する。


「そうなんだ」


 俺は詐欺への対策を簡単に伝えると、この日は自宅でゆっくりとくつろぐことにした。

 せっかく大金が得られたのだ。

 たまには羽を伸ばしてもいいだろう。


 サリアは保管してある商材を持ってきては、どんなものなのかと俺に聞くことを繰り返した。

 おかげで全くくつろげなかったが、勉強熱心な彼女には俺も丁寧に対応し続けた。


「エルネストー」


 それからしばらくすると、外から騒がしい声が聞こえてきた。

 レネの声だ。

 俺は玄関へと向かう。


「どうした?」

「これあげる!」


 レネは押し付けるように、一冊の本を俺に手渡した。


「これはアルケミスターターか」

「よく知ってるね」

「商人をやってる俺が知らないはずないだろう」


 アルケミスターターとは錬金術の基礎が記された本だ。

 俺はその本の存在こそ知っていたが、読んだことはない。

 自分に錬金術の素養がないことは分かっていたからだ。

 しかし、今の俺はこの本に目を通すべきだろう。

 サリアを上手く活かすならば、俺も錬金術の理屈を学ぶ必要があるからだ。


 俺は商人として様々な商品を学んできたことから、錬金術の知識が全くないわけではない。

 ただし、その知識の大半はどんな素材を使って作られたかということに偏っている。

 そのため、サリアに錬金術を教えることはできない。

 それどころか錬金術の仕組みそのものは彼女のほうが詳しいくらいだ。


「ありがとう、助かるよ」

「おー」

「どうかしたか?」

「エルネストが感謝するなんて珍しいなーって」

「それはそうかもな」


 俺は子供の頃から大半のものの価値を市場価格で判断する癖があった。

 そんな俺はプレゼントしてくれたという出来事への価値があまり分からない。

 そうした心情を隠さなかった幼き頃の俺は、レネを泣かせることが度々あった。

 だが、今の俺は取り繕うことを覚えたし、レネは俺の求めるものを考えられるようになった。

 お互い学んでいるのだ。


 レネは俺に錬金術の本を手渡すとすぐに帰っていった。

 俺は椅子に腰を掛け、すぐさまレネから渡された本を読み進める。

 この本にはサリアが作っていたポーションのことも書かれていた。

 家に招いた初日にサリアが作っていたポーションは、素材こそ間違えていたが分量はかなり正確だったことが分かる。

 やはり彼女は記憶力が良い。


「何を読んでるのー?」


 サリアは俺が読書していたことに気づき声をかける。


「錬金術の基礎が記された本だ」

「あーっ、これ私の家にあった本だ!」

「やっぱりな」


 貴族の間では、アルケミスターターは一般教養として親しまれている。

 だからサリアが実家で愛読していた本がアルケミスターターであることは、なんとなく予想できていた。


 俺はポーションの調合について書かれたページを改めて確認する。

 素材、分量、手順は丁寧に書かれているが、素材の写真やイラストは描かれていない。

 つまり素材を知らなければ、この本を読んでもきちんと作れない。

 サリアがポーションを正しく作れなかった原因がよく分かる。


「サリアはこの本に書かれてるレシピは全部記憶してるのか?」

「うん、覚えてるよ」


 ならば今日はゆっくりと読ませてもらおう。

 そう思っていたが、読み終えるのはすぐだった。


 何せアルケミスターターは合計で20ページしかなかったのだから……


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