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観察眼に優れた商人は、世間知らずな錬金術師と共に成り上がる!  作者: ファイアス
第1章:ビジネスパートナーへと育て上げる

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第4話:黒竜の心臓を求める男は怖すぎる

 レネはアーキンド王国を代表する聖女として、最後まで候補に残っていた天才治癒師だ。

 彼女がアキナイ領に帰ってきていたのは、何日も前から知っていた。

 けれども、俺はレネを意図して遠ざけていた。

 レネは率先して人助けをする善性の塊みたいな人間だが、人の話を聞かなかったり、周囲の人間を自分の活動に巻き込もうとするからだ。

 悪く言えば独り善がりなのである。


「エルネストじゃーん、久しぶりー!」

「ああ、久しぶりだな」


 周囲の冒険者たちは、当然のように俺たちに注目する。

 レネは有名人である以前に声が大きい。

 視線を集めるのは当然だ。


「その子はエルネストとどんな関係?」

「今後の活躍を見込んで拾っただけだ」

「ふーん」


 レネは俺の返答を聞くと、サリアと顔を合わせた。


「君は何をしているの?」

「錬金術師だよ!」

「なるほどねぇ」

「……」


 レネは俺の顔を見てニヤニヤと笑う。

 どうして俺がサリアと共にいるのか、その魂胆が筒抜けになってしまったわけだ。

 サリア、お前は錬金術が使えることをぺらぺらと喋るな……


「それじゃ俺はそろそろ帰らせてもらうよ」

「うん、またねー!」

「ばいばーい」


 レネはたまたま俺を見かけたから声をかけただけで、特に用はなかったらしい。

 そのことに俺はほっとした。

 彼女に声をかけられたときは、高確率で面倒事に巻き込まれるからだ。


 レネと別れた俺たちは自宅へと帰宅した。

 俺は椅子に腰を掛けると、アネットから受け取った黒竜の心臓を見つめる。

 さて、これをどう売り捌くか。

 黒竜の心臓は1個で70万ゴールドもの値が付く。

 俺の手元にある黒竜の心臓は硬化していたことから、取引相場は55万ゴールドが妥当だろう。

 だが、正直なところもっと安値で売り払っても良かった。


 黒竜の心臓は高価であるがために買い手が限られる。

 さらに状態を保つことが難しく、盗難リスクが高い。

 だから俺は黒竜の心臓を早々に売り捌きたかった。

 何よりサリアが何をするか分からない。


「どうしたの?」


 黒竜の心臓を前に悩む俺に、サリアが声をかける。


 俺は自身の店でこれほど高価な品を扱ったことがない。

 当然俺の露店に顔を出す人々も高価な品を求めていない。

 そもそも露店街を訪れる客層が、あまりお金を持っていない平民が中心だからだ。

 そのため、手早く売り捌くビジョンが想像できなかった。


「俺はこれをさっさと売りたいわけだが、サリアはどうすればいいと思う?」


 対応に迷った俺はサリアにアイディアを求める。


「欲しい人に売るー」

「……」


 うん、そうだよな。

 素人にアイディアを求めても適切な回答を得られるはずがない。

 仕方がない、気分転換に外の空気でも吸おう。


 俺はサリアを置いて、家の外をぶらつくことにした。

 そして露店街へ向かう道を歩くこと約3分、気分転換を終えて帰ろうとしたその時だった。


「よぉ、聖女の顔馴染みで、勇者の認めた商人さんよ」

「お前は……」


 ドスの利いた声で話しかけてきた男は、素材の価値が分からない冒険者を例に出した時に俺を睨みつけていた人物だ。

 熊のような体格で裏社会の人間を思わせるその風貌は、近くにいるだけで立ちすくむほどの威圧感があった。


 俺をつけてきたのか……

 まずいな、狙いはほぼ間違いなく黒竜の心臓だ。


「……黒竜の心臓を強奪に来たのか?」

「そんなわけあるか!」


 まさか俺の発言に腹を立てて殺しに来たのか?

 冗談ではない!


「黒竜の心臓を買いに来たんだよ!」

「えっ!」

「お前、俺を顔で判断しただろ!」

「そういうわけじゃないが、冒険者ギルドにいたときすごい睨まれてたので……」

「睨んでねぇよ!」


 俺の話に聞き耳を立てていたのは事実らしいが、睨み付けていたのはどうやら勘違いだったようだ。

 でも、あの顔で睨んでないというのは無理があるだろう。

 表情が怖すぎる。


「さて、いくらで売ってくれるんだ?」


 まだ売るとは一言も言ってないのだが、買い取ってくれるなら都合がいい。

 それにせっかく見つかった買い手だ。

 ここは確実に売り捌くため、予定よりも安値で販売するとしよう。


「50万ゴールドだ」

「おい、舐めてんのか!」


 手持ちが足りないからって逆ギレするなよ!

 これでも品質を考慮した価格にした上で、こちらの個人的事情を理由に5万ゴールドも値下げしているんだぞ!


「そんな安値じゃ、俺が脅したみてぇだろ!」

「……」


 問題はそこかよ!

 そもそも俺はお前の顔が怖いから、価格設定を50万ゴールドにしたわけじゃない。


「50万ゴールドとしたのは二つ理由がありまして、一つは酒場でアネットに話した通り硬化していたからです」

「ほう、もう一つはどんな理由だ」

「状態の維持が困難なことと盗難リスクが高いことです」

「二つじゃなくて、三つじゃねぇか!」

「まあ、そうでしたね」


 俺にとっては「早く手放したい」っていう一つの理由にまとまっていたんだ。

 でも第三者からすれば、全く異なる理由にしか聞こえないのは仕方ない。


「とりあえず受け取れ!」

「お買い上げ、ありがとうございます!」


 顔の怖い男は俺が50万ゴールドでいいと言っているのに、結局70万ゴールドを支払った。

 ありがたいことだ。


 しかし、この男は何者なのだろうか?

 俺はこの周辺に住んでいる豪商や凄腕の職人の顔ならばおおよそ把握しているが、彼を見たのは今日が初めてだ。

 これだけインパクトのある風貌だ。

 過去に出会ったことがあるなら、忘れるはずもない。


「一つ質問しても構いませんか?」

「なんだぁ?」

「あなたは何者ですか?」


 アネットが黒竜の心臓を持ち帰ることを想像していたとも思えない。

 なぜなら、普段の彼女は魔物の素材を剥ぎ取ることがないからだ。


 それなのにこの男は当たり前のようにポンっと70万ゴールドを差し出したのだ。

 平民でも稼げない金額ではないが、当たり前のように出せるものではない。

 しかも俺を付けてきたことを考えると、常日頃から持ち歩いていたとも考えられる。

 おそらく普通の冒険者ではないだろう。


「ルベルト・ランデロール。それが俺の名前だ」

「!」


 ルベルトは自分の名前だけ告げると、俺の元を去っていった。

 ランデロール家といえば、南方のナスダック領を治める伯爵家の家名だ。

 まさかそんな大貴族だったとは驚いた。


 彼はきっと良き領主となる。

 そんな気がした。

 ……でも、あの風貌とぶっきらぼうな振る舞いは、領民から幾度となく誤解を招くことだろう。

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