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観察眼に優れた商人は、世間知らずな錬金術師と共に成り上がる!  作者: ファイアス
最終章:次期領主の座をこの手に

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第34話:互いに欠けているから、埋め合わせる意味がある

 アキナイ領の経済は私が牛耳っている──マッチポンプを演じるため、アルシアが演説で発した言葉は思わぬ形で広まっていた。

 エルネストはナスダック領の簒奪者と共謀して、アキナイ領を乗っ取ろうとしている。

 そんな噂がまことしやかに囁かれるようになったのだ。


 俺が立ち回りを失敗したからだろうか。

 最初から手を組んでいると知っていた連合会の関係者が漏らしたのか。

 それとも他の候補が俺を陥れるべく、悪意ある噂を流したのか。


 俺は数人の冒険者に実態を探らせたが、発信源を特定することはできなかった。

 俺とアルシアを巡る噂は広まり続けたが、その内容は次第に変化していった。


 エルネストはアルシアの婚約者だ。

 アルシアには、エルネストとの隠し子がいる。


 なぜか噂の内容は、俺とアルシアが婚約関係にあるという話に変わっていったのだ。

 こうなると政治的な理由で広められたとは思えない。


 そんな噂を流して誰が得するのか。

 俺は不思議でならなかった。


「……俺との関係が囁かれている件、アルシアさん自身が内容を上書きするために流布したのですか?」


 悪意ある噂を消し去るため、その内容をアルシア自身が上書きしようとしたのではないか。

 俺はそんな疑念を彼女にぶつけた。


「いいえ、私自身が噂の在り方をコントロールするならば、もっと建設的な内容にします」


 アルシアは真っ向から否定した。

 嘘はついていないだろう。


 そんな噂が領内で囁かれるようになったある日の夜だった。


「エルネストさん……」


 サリアが一枚の用紙を片手に、不安げな表情で俺に声をかけてきた。


「どうした?」

「あの噂って嘘なんだよね?」

「当たり前だろ」

「……」


 サリアが口を閉ざす。

 彼女らしくないな。


「そんなに不安か?」

「うん……」

「珍しいな」


 サリアはレネやルーナとの関わりを理由に、浮気への不安を口にしたことはない。

 浮気を疑うのなら、まずは彼女たち──特に親密な関係にあるルーナのことに触れそうなものだが……


「だって、あの人を上回る錬金術師になれるとは思えないんだもん!」

「何の話をしてるんだ?」


 さっきまでは俺がアルシアと婚約関係にあるのは本当か──その話をしていたはずだ。

 それがどうして急に、錬金術師としての才能の話に切り替わったのか。


「エルネストさんが私を必要としてくれるのって、錬金術が使えるからじゃん。でも、あの人だってできるんでしょ?私よりもずっと上手に!」


 サリアは不安と妬みを叩きつけるかのように声を荒げた。

 俺はその時、やっとサリアの気持ちを理解した。


 エルネストは自分を錬金術の使える稼ぎ手として利用している。

 恋人関係を維持してくれるのは、自分に錬金術の才能があるから。

 恋人、結婚相手は一人に限定される。

 アルシアは自分よりずっと優れた錬金術師だ。


 サリアはこれらの情報を整理した上で、俺とアルシアの関係を本気で危惧したのだろう。

 レネやルーナとの関係を疑わないことにも納得がいった。

 彼女たち二人は錬金術を扱えないからだ。


「それで不安だったのか」

「うん……」


 俺はサリアの体を抱き寄せる。


「安心しろ。お前の心配していることは起きない」

「なんで?」

「アルシアは完璧過ぎるんだよ」

「それの何がダメなの?」

「どうしても俺を必要だと思ってくれる理由がない」

「!」


 俺がアルシアを選べば、今のサリアと同じ不安を抱えるからだ。

 サリアはすぐに俺の真意を理解したようだ。

 ある意味で当然のことかもしれない。

 自分が必要とされなくなる怖さを知っているのだから。


「パートナーシップっていうのは、互いに欠けたところを埋め合わせてこそなんだよ」


 サリアは錬金術の素養に恵まれているが、俺は錬金術を扱えない。

 商売は俺なら上手くやれるが、サリアにできるとは思えない。

 だから互いを補うことができる。


 対してアルシアは一人で何でもできてしまう。

 それでは俺が彼女を補うことができない。


「うん!」


 サリアは笑顔を取り戻した。

 そして、彼女は片手に持っていた用紙を破り捨てた。


「おい、何をしてるんだ?」

「だってもうこの企画書はいらないじゃん」

「えっ?」


 サリアが破り捨てた企画書は、かつて彼女が俺と恋人になろうと提示した時のものだった。

 なるほど、彼女はこの時の企画書に囚われていたのだな。

 何せこの企画書に提示された利害関係は、欠落を補い合う視点が欠けていた。

 だから彼女は自分自身をアルシアの完全下位互換と判断してしまったのだ。


「ねぇ、もう一歩進ませて!」

「ん?」


 今までのようなビジネスパートナーの延長線から、もっと関係を前進させたい──その意図は伝わったが、何をしたいか分からない。

 俺がそのことを確認しようとした時だった。


「んんっ!」


 サリアは俺にキスをした。


「これで関係が進展したってことだよね?」

「ああ、そうだな」


 キスを契約の一種だと勘違いしているのか。

 ズレているところは相変わらずだが、悪くない判断だ。


 サリア、これからもよろしくな。

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