第30話:次期領主の選抜は領民に委ねる
俺はアルケライト夫妻とシャルルの三人を連れて、領主オルバスの元へ向かった。
「結局エルネストもアレと話せというのか」
「必要に応じて頷くだけで構いません」
シャルルは相変わらず、父親であるオルバスと会話することを拒んでいた。
そのため、俺は極力会話に参加しなくていいと伝えておいた。
「……」
シャルルは無言で頷く。
本当なら言葉を交わす以前に、顔も合わせたくないのだろう。
俺はシャルルの心境を理解しつつも、そのままオルバスの元へと足を運んだ。
客室に招かれた俺たちは、揃って席へと着く。
しばらくすると、オルバスが奥から姿を現した。
「……という経緯により、シャルル様は次期領主の座を降りることになりました」
俺は経緯を補足しながら、シャルルが領主を継がない決断をしたことをオルバスに説明した。
俺の言葉を聞いたシャルルは、小さく頷いた。
「おお、やっと領主の座を二人に委ねてくれるのだな!」
息子に訴え続けていたことがやっと通じた──オルバスはそんな喜びを滲ませていた。
だが、その言葉と態度がシャルルを激昂させた。
「曲解するな!」
普段の彼からは想像できない怒声に俺は唖然としていた。
それは隣に座っていたアルケライト夫妻も同様だった。
「誰がこの簒奪者どもに譲り渡すと言ったんだ!」
シャルルの怒りは収まらない。
俺は彼をなだめると、すかさずオルバスに指摘をした。
「領主様、あなたはまずシャルル様に嫌われていると自覚してください」
俺はアルケライト夫妻の名前すら出していない。
あくまでシャルルが領主の座を継がないと告げただけだ。
それなのにオルバスはアルケライト夫妻へ譲るものだと勝手に解釈した。
さらに領主を継がないと判断した理由まで曲解した。
シャルルはオルバスの教育に反感を募らせながら歪んでいった。
だからこそシャルルは、オルバスの思い通りになることを極度に嫌う。
人の言葉や態度を曲解する。
自分が熱心に訴えかけてきて良かったと自己陶酔している。
嫌われていることへの自覚がない。
敵視しているアルケライト夫妻を押し上げる。
オルバスはたった一声で、幾つもの要素で息子の神経を逆撫でしてしまったのだ。
無神経もここまでくると、もはや天才としか言いようがない。
「う、うむ。そうか」
オルバスは俺の指摘に、小さく言葉を返した。
その表情からは反省の色が窺えた。
「話は終わりで良いのか?」
「いえ、むしろ本題はここからです」
終わりにするはずがない。
ここで話を終えたら、次期領主の座を空位にしただけ──すなわちアルケライト夫妻を手助けしたも同然だ。
「提案したいのは、次期領主の選抜方法です」
「どうせ、あなたに都合の良いルールを提案するのでしょう」
「領主様、彼は危険です」
アルケライト夫妻は提案も聞かずに俺の言葉を遮る。
その態度は本当に見苦しい。
「アルケライト夫妻も安心してください。この提案は俺が考えたものではありません」
「だったら誰が考えたのよ」
「サリアが考えたとかいうわけじゃないだろうな」
「発案者はナスダック領で絶大な影響力を持つアルシア・ランデロールですよ」
「!?」
「なっ!」
アルケライト夫妻は唖然としていた。
俺がアルシアと親交があることを知らなかったのだろう。
「ナスダック領の簒奪者と手を組んでいたのね……」
「領主様、やはりこの男は危険です。耳を貸してはいけません」
どう言っても、俺を悪人にしたがるのだな。
そんな小さな器だから、俺はお前たちにアキナイ領の未来を任せられないんだ。
「まずは提案を聞いてもらえますか?」
俺は二人を無視して、オルバスに再度問いかけた。
「ああ、分かった」
オルバスは返答する。
彼の言葉にアルケライト夫妻がますます苛立っていたのは明らかだった。
「まずは次期領主になりたい者を募るべく、お触れを出してもらいたいのです」
望む者全てに領主となる機会を与える。
そして、3か月の選抜期間を経て、領民の支持を最も獲得した者が次期領主に選ばれる。
それがアルシアの発案した選抜方法だった。
「あなたにも不利じゃない」
「まさかアルシアを領主に据えるつもりか?」
「アルシアは俺のバックアップに回るだけであって、参加する予定はありません」
アルシアはあくまで俺を領主に立てるつもりだ。
だから彼女がアキナイ領の領主になることはない。
「誰でも参加できる以上、対立候補はもちろん増えます。だからこそその頂点に立った者を、領民は安易に否定できません」
「そうかもしれない」
オルバスは俺の説明に同意する。
そう、アルシアがこの提案をしたのは、領民の支持を得た者が領主となることで混乱を防ぐためだ。
俺に都合の良いルールを作るためではない。
ましてやアルケライト夫妻を蹴落とすためのルールではない。
「特にアネットとレネは領民から絶大な支持を得ています。そんな彼女たちを退かせれば、皆が認めるようになる。そう思いませんか?」
「あの二人とまで争えっていうの?」
「君ではアルシアの支援があっても勝てないぞ!」
「それならそれでいいでしょう」
俺は領主になることそのものが目的ではない。
アキナイ領の秩序を乱されたくないだけだ。
「領主様はいかがですか?」
「良い方法だ。早速お触れを出そう」
「……」
「あ……」
オルバスの返答を聞いたアルケライト夫妻は言葉を失っていた。
自分たちではアネットやレネに勝てるはずがない──そう確信していたのだろう。




