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観察眼に優れた商人は、世間知らずな錬金術師と共に成り上がる!  作者: ファイアス
最終章:次期領主の座をこの手に

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第29話:彼女は意図して世間知らずに育てられた

 ぶーーーっ!

 店を営業している最中、突如俺のサーチヒュームが音を発した。

 俺に助けを求めている時の合図だ。


 発信者はシャルルの露店を警備している男だ。

 何があったのだろうか。


「ルベルト、外出している間の店番を頼む」

「分かった」


 俺はルベルトに店番を任せると、シャルルの露店へと急いだ。

 すると、そこにいたのはシャルルに詰め寄るアルケライト夫妻だった。


「何事かと思ったら、あなたたちだったか」


 二人はまだアキナイ領の実権を握ることに執着しているのだろう。

 そうでなければ、シャルルに接触する理由がない。


「あら、やっぱりシャルルを連れ出したのはあなただったのね」

「君も成り上がりたくて仕方がないようだな」


 アルケライト夫妻は俺が権力の亡者に見えているのか。

 まあ、無理もない。

 人はつい自分たちの価値観を、他人にも当てはめてしまうものだ。


「あなたたちと一緒にしないでもらいたい」


 俺が地位を欲していることは事実だ。

 だが、お前たちのように権力そのものを目的としているわけではない。


「同じでしょう」

「自分を客観視できないのかね?」

「そう思いたいなら、そう思っていただいて構いません。それよりどんなトラブルを起こしていたのですか?」


 話を聞かなくても、大体予想はつく。

 どうせシャルルを脅して、次期領主の座を委ねると言わせたかったのだろう。


「決まっているでしょう」

「早く私たちに次期領主の座を委ねるよう、領主様へ進言しろと言っているだけだ」


 案の定か……

 二人はオルバスの判断を揺らがせるために、シャルルに自分たちの望む言葉を言わせたいだけだ。

 暴力に頼らないところは評価するが、結論ありきでしつこく迫ることが間違っている。


 二人はシャルルの心を掴もうという考えが全くない。

 サリアを政略結婚の道具に使おうとしていたときと同じだ。

 弱者は無条件に従え──夫妻の言動からはそんな傲慢さが滲み出ていた。


「そうですか。では、共に行きましょう」


 俺はアルケライト夫妻とシャルルに、オルバスの元へ共に向かおうと伝えた。

 シャルルが夫妻を拒絶しても、野心が潰えることはないからだ。

 何より二人に対するオルバスの信頼は依然として保たれている。

 このままでは諦める理由がない。


「どうして君を連れていく必要がある?」

「また私たちの邪魔をするつもりでしょう?」

「ふふふっ。"また"ですか」


 俺はサリアの母へ笑いながら返した。

 彼女はシャルルとサリアの婚約が解消された原因が俺にあると思っているからだ。


「何が可笑しいんですか?」


 彼女は苛立った様子で、俺に言葉をぶつける。


「シャルル様はアルケライトの家名を聞いただけで、サリアを拒絶したんですよ。婚約が解消されたのは、どう考えても野心を隠さないあなたたちが原因だ」


 俺が介入しなくても、二人の婚約は成立しなかった。

 だから、俺を敵視すること自体が間違っている。


「エルネストの言う通りだ。私がサリアを拒絶したのは、お前たちが怖かったからだ」


 シャルルは俺の言葉に同意する。


「黙りなさい!私たちはあなたに合わせてサリアを育てたというのに!」


 サリアの母は苛立ちを隠せずに言葉をぶつける。


「サリアに軟禁生活を強いていたのは、意図して世間知らずに育て上げるためですか」


 あなたに合わせてサリアを育てた──その言葉を俺は聞き逃さなかった。

 そして理解した。

 サリアは打算で近づく女性を拒絶するシャルルでも受け入れられる子へと──つまりサリアは望まれて世間知らずに育ったのだ。


「そうよ。昔からわがままで言うことを聞かない子だったから、いっそそういう風に育ててしまおうと思ったのよ」

「それなのに何の地位も持たない君の女となったサリアにはひどく失望したよ」


 何の地位も持たないか。

 サリアの父にとって、俺の評価は未だにそんなものなのだな。

 平民であることは間違いないが、今やそこらの貴族より遥かに資産を蓄えているし、ナスダック領で絶大な影響力を持つアルシアと親交がある。


 少なくともお前たち男爵家の貴族なんかより、よっぽど社会に影響を及ぼせる。


「そうですか」


 俺は状況に応じた判断ができない二人を愚かしいと思ったが、気持ちが分からないわけではない。

 長年費やしてきた労力が、シャルルの気持ち一つで台無しにされてしまったのだ。

 暴力に訴えないだけ、よく耐えていると評価してもいい。


 だが、計画が台無しになった原因は、野心と悪意を隠しきれなかった自分たち自身にあるのだ。

 自業自得であり、同情には値しない。


「ところで俺に同行する気がないのなら、シャルル様と二人で領主様に会うつもりですが構いませんか?」


 俺は再度アルケライト夫妻に同行を申し入れる。

 話を円滑に進めるため、この二人にも同行してもらいたいからだ。


「くっ……」

「仕方ありません」


 ここで断ったら自分たちの知らないところで、俺に次期領主の座が奪われる。

 そう理解したのだろう。

 二人は半ば屈服したように、俺に同行することを了承した。


「あっ、その前に自分の店に寄りますね」


 自分の店さえ管理できない人間が、政治に介入しようとしても笑われるだけだ。

 そうならないためにも、俺は一度店へ戻ることにした。

 今日の営業を終えるためだ。


「アキナイ領のこれからを決めようっていうときに、自分の店の心配ですか?」

「やっぱり君は一介の商人のままであるべきだよ」


 ……これが権力の亡者か。

 地に足を付けるべきだという考えがまるでないんだな。

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