第23話:魔導具連合会の若き創設者
シャルルの心は掴めた。
あとは彼から地位への執着心を取り払うだけだ。
その第一歩を進めるべく、俺は魔導具連合会に協力を取り付けようと考えていた。
連合会は入会させられたときこそ不信感に満ちていたが、今では信頼に足る組織だと認識していた。
有益な情報を共有するだけでなく、警備員の手配もサポートしてくれるからだ。
さらに会員同士でブラックリストの情報も共有している。
おかげでアルケライト夫妻は連合会に加盟する全店舗で出禁を言い渡されている。
「カタインさん、お話構いませんか?」
「どうした?」
「ある人物を連合会に引き入れたいのです」
俺はシャルルを連合会の一員に加えようと画策していた。
連合会の一員となれば、ルールに従って発注と販売を繰り返すだけで比較的安定した生活が送ることができる。
地位への執着を捨て去る環境づくりとして十分だろう。
「うーむ。私の裁量では判断しかねます」
「そうですか」
しかし、カタインとの会話はそれだけで終わってしまった。
連合会の上層部と面識がない俺は、これ以上の交渉ができない。
だから、新たな方法を模索しなければならない。
ならばどんな方法を──その答えが出ないまま3日が経過してしまった。
そんな行き詰まった状況の中、王族のような格好をした女性が俺の店を訪れた。
金色に輝くティアラを身に着け、螺旋を描く金髪を風に揺らす彼女は、貴族も多く行き交う中央市場でも異彩を放っていた。
身に纏っている黒いドレスは、おそらく2000万ゴールドを超える価値があるだろう。
そんな彼女は店頭に並べられた商品を一つ一つ品定めしていた。
俺は彼女を見ていて、以前マアティスに指摘されたことを思い出していた。
錬金術師特有の仕草──彼女の仕草はまさにそれだ。
「ふーん、品質はイマイチね」
開口一番に随分手厳しい評価だな。
しかし、あまり否定できない。
俺の目から見ても、サリアの作る道具にはまだまだ改善の余地があると思っていたからだ。
「少しよろしいかしら?」
商品観察をしていた彼女が、俺に声をかけてきた。
「何ですか?」
「あなたは同じ価格で販売されていたら、どちらのエレメンタルクロースを選ぶかしら?」
彼女は二つのエレメンタルクロースを手に取り、俺に問いかけた。
片方は商品として並べていたものだ。
もう一つは彼女の所持品だろう。
「あなたのエレメンタルクロースです」
品質の差は歴然だった。
丁寧に鑑定するまでもない。
「どうしてそう思ったのか、聞かせてもらえるかしら?」
「わかりました」
明らかに違っていたのは、帯びている魔力の濃度だ。
サリアの作ったエレメンタルクロースは魔力指数120ほどだが、彼女のものは180を上回る。
さらに布に帯びた魔力にムラがない。
これだけの品質差があれば、価格にして1.5倍以上の値がついてもおかしくはない。
俺はそのことを彼女に説明する。
「そうですか。エルネストさんはやはり錬金術師ではないようですね」
「へっ……?」
今の説明でどうして俺が錬金術師でないと言い切れるのか。
……というか、どうして俺の名前を知っているのか。
知られているのは名前だけではない。
「やはりあなた自身は」という口ぶりから、俺の人物像まで把握しているはずだ。
「……確かに俺は錬金術師ではありません。しかし、なぜそう言い切れたのですか?」
「それだけの商品知識があるならば、私の製品に並ぶだけの品質に仕立て上げられるはずですもの」
それだけ観察眼に長けた人間ならば、もっと高品質な商品を作れるはずだ。
だからあなたは錬金術師ではない。
そう判断されたようだ。
「俺からも質問させてもらって構いませんか?」
「ご自由にどうぞ」
俺は彼女の正体に気づいた。
彼女こそが連合会のトップだ。
中央市場に流通している錬金術製品の約7割は、俺を除く連合会に加盟する商人が販売している。
彼らは連合会を通して発注した商品を販売しているだけだ。
つまり市場シェアの7割は、連合会の錬金術師が独占している。
その錬金術師こそが彼女だろう。
何せ中央市場に流通しているエレメンタルクロースは、連合会から仕入れたものとサリアが作ったものしかない。
有象無象の露店商が取り扱っているところは見たことすらない。
さらに連合会のトップならば、俺を知っていたことにも納得がいく。
ほぼ間違いないだろう。
「あなたが魔導具連合会のトップですか?」
「ふふふっ、よく分かりましたわね」
彼女は誤魔化すこともせずに、自らが連合会のトップであることを認めた。
おそらくカタインは俺から相談を受けた後、密かに彼女と連絡を取ってくれたのだろう。
「自己紹介させていただきましょう。私はアルシア・ランデロール。魔導具連合会の創設者にして、会長を務めさせていただいております」
俺と同年代であろう彼女が、創設者でもあったか。
連合会が台頭したのは最近だと知っていたが、そもそもが歴史の浅い組織だったんだな。
そしてランデロールという家名はナスダック領の領主の家名だ。
つまり、ルベルトの親類だ。
ルベルトが俺から買い取った黒竜の心臓は、おそらくアルシアの元へ行きついたのだろう。
「ナスダック領の領主令嬢が、連合会の創設者ですか」
「……」
アルシアの目付きが鋭くなる。
何か気に障ることを言ってしまったのか?
「あなたにとって私の連合会は、ナスダック領の領主に劣るのかしら?」
「えっ?」
ナスダック領の政治事情は知らないが、連合会は政治干渉まで行っているのか。
「分家生まれの私は領主になる資格がありませんの」
「そうなのですか」
彼女が分家生まれであることにコンプレックスを抱いていたのは明らかだった。
「ですから私は錬金術で得た己の財力を以て、領主である以上の影響力を求めたのです」
とんでもない野心家だな。
コンプレックスは時に向上心へと転化されるが、彼女にもたらした影響はあまりにも大きい。
「分かるでしょう。だから私はあなたに興味を持ったのですよ」
「!?」
そうか。
思想や目的は違えど、今の俺は彼女と同じ政治干渉を目論む商売人だ。
だからアルシアは、俺に興味を持ったのだな。
「協力していただけるのですね」
「まだそうとは言ってません」
「なにか条件が?」
「そうですね。まずはこれを作ってみなさい」
アルシアはカバンから見たこともない道具を取り出す。
おそらく魔導具の類だ。
「これは何ですか?」
「サーチヒューム。錬金術で作った位置情報を共有する魔導具です」
とんでもないものが出てきたな。
利用方法次第では、多くの場面で優位に立てる代物だ。
このサーチヒュームという魔導具は親機と子機に分かれており、子機同士は位置共有ができない仕組みらしい。
幾つかの音と、魔法の色で発信情報を調整できるようだ。
言わば所有者にだけ伝わる小型の狼煙だ。
「レシピはこちらです」
「ありがとうございます」
俺はアルシアに手渡されたレシピに目を通す。
サーチヒュームの親機に使われているのは、黒竜の心臓、メビウスリンク、天角石、ゴルゴンの瞳、堕天使の光翼だ。
原価は軽く100万ゴールドを超えている。
しかも黒竜の心臓は、市場に出回ることがあまりない。
子機に必要な素材は、共振水晶、音晶石、ゴルゴンの瞳だ。
こちらの原価は約10万ゴールドで収まるが、子機は持たせたい人数分だけ作る必要がある。
つまり10人に位置情報を共有したいのなら、こちらも原価は約100万ゴールドにも膨れ上がる。
……とはいえ、今の収入ならそこまで苦労はしない。
あとはサリアの技量次第か。
「当たり前ですが、市場に流通させるのは禁じます」
「それは分かっています」
彼女に言われなくとも、市場に流通させる気はない。
まず用途が知られておらず、魔法の使用ありきで作られているため、説明なしで買い手が付くとは思えない。
さらに悪用する方法は容易に思いつく。
用途を知らない人間に子機を持たせれば、監視、暗殺の補助具として重宝するだろう。
情報伝達で優位に立てることから、戦争での活躍も期待できる。
だからこそ広めるべき代物ではない。
「私の子機を一つ渡しておきます。サーチヒュームが完成したら、その子機で私に知らせなさい」
「分かりました」
カタインはサーチヒュームを通して、アルシアに位置情報を送信していたんだな。
そうでなければ普段はナスダック領にいるアルシアが、あの相談から3日でこの店に来られるはずがない。
「それではまたお会いしましょう」
アルシアは去っていった。
すると、そのタイミングを見計らったように奥から騒がしい足音が聞こえてきた。
「エルネストさーん!」
サリアが奥から出てきたのだ。
「どうした?」
「私もさっきの人と同じ格好をしてみたい!」
「バカを言うな!」
「えー!」
あのドレスだけでこの店が二軒分は買える値段だぞ!
……サリアが変なことを言い出すから、サーチヒュームの原価が安く思えてきたよ。




