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観察眼に優れた商人は、世間知らずな錬金術師と共に成り上がる!  作者: ファイアス
3章:アキナイ領の未来を巡る攻防

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第22話:敵味方を判別するレッテル貼り

「うっ……」


 シャルルの個室は想像していたよりもずっと汚かった。

 整理整頓されていないだけではない。

 食い散らかした食事の跡がそのまま残っており、異臭さえ漂ってきたのだ。


「きたなっ」


 サリアは思ったことをそのまま口にする。

 せっかく上手く取り入れられそうなんだから、そういうことは言わないでくれ。

 ……というか整理整頓ができないのは、お前も大差ないからな。


「そう思うなら片づけてくれ!」


 すごい聞き覚えのあるセリフだな。

 片付けができない人間の考えることはみんな同じなのか。


「ヤダ!めんどくさいもん!」

「従者は片づけてくれないのですか?」


 俺は疑問を口にする。

 シャルルは仮にも領主の息子だ。

 部屋の片付けができなくても、従者がなんとかしてくれそうなものだが……


「従者の小言を耳に入れたくない」

「そうですか」


 要は小言を言われたくないがために、従者の入室を拒絶しているのか。

 その結果がこの部屋の惨状とは、従者たちにもだいぶ問題があるな。

 ……いや、小言を言わせている──教育するよう指示を出しているのはオルバスと考えるべきか。


「ところで私のことを聞きたいと言ってたが、何を話せばいいのだ?」

「領主になった後のビジョンが聞きたいのです」

「……」


 シャルルは黙り込む。

 気に障る発言だったのだろうか。


「どうしました?」

「私は何もする気がないんだ」

「えっ?」


 シャルルは政治に興味がない──そう言っていたアルケライト夫妻の言葉は真実だったらしい。

 それでも次期領主であることにしがみつくのは、それ以外の生き方を知らないからだろう。


「それならばアルケライト夫妻が実権を握っても困らないのでは?」

「いいや、大問題だ!あの二人が実権を握ったら、私を追い出すに決まっている」

「そうかもしれませんね」


 俺は相槌を打つ。

 あの夫妻の性格を思えば、彼の判断は正しいだろう。


 だが、アルケライト夫妻が介入しなくても、彼の辿る末路は大差がないだろう。

 領民の血税で生活している立場にいながら、何もする気がないと宣言しているのだ。

 そんな彼の未来は、暴徒化した領民に反乱を起こされるか、酒に溺れた暴君になるかの二択だろう。


 どちらの未来を歩んでも、不幸にしかならない。

 彼が今後どうなろうと知ったことではないが、アキナイ領の秩序が崩壊することだけは避けたい。

 もはや商売どころではなくなるからだ。


「私はずっと領民第一と言われて、蔑ろにされたんだ。なのに領民のために働くなんて冗談じゃない」


 それが領民を恨む理由か。

 オルバスはとんでもないモンスターを育てたものだな。

 しかもオルバスは、今も領民のために彼をなんとかしようとしている。

 領主としては立派なものだが、父親としてはあまりにも無能だ。


 さらに世論はオルバスの味方だ。

 幅広い層の領民に支持され、従者たちの信頼も厚い。

 もはや完璧といっても過言ではないくらい、シャルルが孤立する環境が整えられている。


「私の想いを分かってくれるか!」


 シャルルは俺に同調を求める。


「はい」


 次期領主の主張としては論外だ。

 しかし、俺は彼の思想が否定されるべきだとは思わなかった。

 自分の人生を自分のために生きたいと思うのは当然だからだ。


「そうかそうか」


 シャルルは俺の言葉に嬉々と返事をする。

 彼の心は上手く掴めたと思っていいだろう。

 あとはこれから少しずつコントロールするだけだ。


 彼にはいずれ自分から次期領主の地位を投げ出してもらう。

 それが彼自身を含む全ての人々にとって最善の選択だ。


「だから、あのクソ親父はな──」


 彼は俺に心を開くと、いつまでも一人で話し続けた。

 ずっと孤独だったのだろう。

 実に分かりやすい男だ。


「すぅー」


 シャルルが独り善がりに喋っていると、サリアは当然のように居眠りをしていた。

 彼の機嫌を損なう発言をしなかっただけよしとすべきか。


「それではこれで失礼します」

「ああ、また来るといい!」


 彼が話すことに満足したところで、俺は別れの言葉を告げた。


「おい、サリア帰るぞ」

「すぅー」


 目を覚まさないな。

 ……彼女の体重なら、非力な俺でもなんとかなるか。

 俺は寝息を立てるサリアを背負い、領主館を後にした。


 帰り道、俺はすれ違う人々と目が合う度に気恥ずかしさを覚えた。

 微笑ましいと言わんばかりの視線を度々向けられたからだ。

 サリアはそんな人々の視線に気づくこともなく、すやすやと眠っていた。


「あれ、エルネストさん?」


 帰宅してから、しばらくするとサリアが目を覚ました。


「帰ってきたの?」

「ああ」


 サリアは周囲を見渡すと、俺たちの店に帰ってきたことを理解する。


「ねぇ、エルネストさんって洗脳魔法が使えるの?」

「どうしてそうなる?」


 急に何を言い出すのか。

 そんな高度な魔法を俺が使えるはずがない。

 そもそも戦場以外で洗脳魔法を使うのは犯罪だ!


「だってあのおじさん、ケロッと態度を変えたじゃん!」


 シャルルの態度を見て、俺が洗脳魔法を使ったと勘違いしたのか。


「それともあの館に住んでる人ってみんなバカなの?」


 極端な解釈をしすぎだろ!


「いや、それはないだろう」

「じゃあなんで?」

「シャルルは大半の人間に、オルバスの仲間っていうレッテルを貼っていたからだよ」

「レッテル?」


 オルバスが教育者として無能なのは間違いないが、他の従者たちがそうだとは思わない。

 では、どうしてシャルルは従者を拒絶したのか。

 それはオルバスの息がかかっているからだ。


 従者が雇用者の子供へ教育を施せば、指示せずとも雇用者の思想に寄せようとするのが普通だ。

 シャルルはそうした教育を受けているうちに、「従者はそういう連中だ」「オルバスの味方は自分の敵だ」と負の学習を──すなわちレッテル貼りをするようになってしまったのだ。

 そのため、彼は教育係を名乗っただけで拒絶するようになったという。


 つまり、俺の話術が特別優れていたわけではない。

 会話の出だしを誤らなかっただけだ。


「俺がシャルルに自己紹介するとき、どうしてアルケライト夫妻の敵だと名乗ったか分かるか?」

「あのおじさんがパパとママを嫌ってたからだよね?」

「そうだ。レッテル貼りを逆に利用、すなわち敵の敵は味方と思わせたんだよ」

「へー、洗脳魔法ってそうやって使うんだ!」

「どうしてそうなるんだよ!」


 何で俺は洗脳魔法の使い手というレッテル貼りをされているんだ……

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